異世界は金だけじゃ生きていけない〜二度目の人生ハードモードでした〜

@morukaaa37

第1話




 久しぶりに外に出ていた。


 照りつける太陽が眩しい。あまりの暑さにフードを被る。隣で一緒に歩いている男はスーツのような堅苦しい服をかなり着込んでいた。脱げば良いのにと親切心に思う。


 ふと辺りを見ると、周りを歩く男達も同じ服装だった。暑苦しい日に暑苦しい奴らに囲まれたもんだと気が滅入りそうになる。俺が彼等に何をしたというのだろう。


 水が飲みたくなり持っていないか尋ねてみる。無視だった。まあ、持っていたとしてもこの両手では持てないかと諦める。


 しかし暑いなと空を見上げれば太陽とはまた別の光が俺の身を照らした。光の方を見れば、丁度カメラを構えた集団がこちらを眺めているところだった。


 思わず腹が立ち声を荒げてしまう。暑かったので仕方がない。今日は少し余裕がなかった。しかし、怒鳴れば怒鳴るほど光は増える一方である。仕方ないので、隣の男を唐突に突き飛ばした。倒れた男からナニかが落ちる音がする。自然と笑みが溢れていた。そこから、突然聞こえた破裂音。


 少し涼しくなったと思ったころには─────


 「こちらに記入をお願いします」


 目の前に置かれた紙とペン。それと、向かいに座る若い女。


 俺は見ず知らずの場所に座っていた。




 ♢♢




 紙に書かれた文字はどこの言語なのだろう。


 読もうとすると言葉が自然と頭の中に流れてきた。


 「え、婚約届?」


 「いえ、魂約届です」


 「この転生というのは?」


 「一部の方への特典ですね」


 「生き返れるってことですか?」


 「違う世界に違う形でですが」


 「なんで俺だけ?」


 「厳密には貴方だけではないのですが」


 「はあ」


 「天は二物を与えずと言えば分かるでしょうか」


 あまりよろしくない頭を回し思い至る。


 「……それって俺には良いとこがないってことじゃ」


 「はい」


 「なるほど」


 ショックではあったが、転生できる喜びで誤魔化す。普通のボールペンで転生のマークを塗りつぶした。


 「転生を選択されましたら一つ特徴をお書きください」


 女性の声と共にさっきまでの紙が瞬時に入れ替わる。観光先でマジックを見ている気分だ。


 「特徴というのは?」


 「なんでも構いません。外見、性格、能力、家柄、お一つだけお書きください」


 数秒考える。

 特に思いつかなかったので、"金持ち"とだけ走り書きする。書き終えると紙とペンは忽然と消えた。


 驚く暇もなく女性は淡々と進行を続ける。


 「では手のひらをこちらへ」


 「はい」


 手を差し出すと、思ったよりも強く両手で握られた。というか痛。


 「ちょ、いたたたたたっ!!」


 「終わりました」


 本格的に痛み始めた時には手は離されていた。解放された手を見ると何やら紋章のようなものが浮かんでいる。


 「なんですかこれ」


 「転生者の証です」


 「え、なんのために?」


 「他人には見えませんので気にしなくて大丈夫です」


 「え、あ、はい」


 少し圧を感じた。ストレスだったが耐える。早く転生したかった。


 「では全て終わりましたので転生いたします」


 「お願いしま」


 言い終わる前に、気付けば視界は入れ替わる───────


 


 おぎゃぁあ、!おぎゃぁあ!


 

 「あ、泣きました。ようやく安心ですね」


 「まあ……元気そう……」


 「わ、私にも見してくれ」


 「ふふ、そんなに慌てなくてもいいじゃない」


 「それは、そうだがなぁ、、っ可愛いな」


 視界が女の顔、女の顔、男の顔へと入れ替わる。これが自分の親だとすぐ気づく。とりあえず、俺は笑った。


 「「っ、笑った!」」


 「……仲良いですね」


 一人無反応の女を不満に思うが、俺は笑うことに集中する。親には甘やかされて生きたかった。


 「これは、いい子になりそうだな」


 「私たちの子どもだものね」


 2人とも俺に夢中である。俺も俺で自分の親の顔をじっと眺める。

 髪は綺麗に整えられ、肌も歳はあれど潤っている。特徴に書いた金持ちが反映されているのだろうかとなんとなく察した。


 とりあえず気の向くままに生きてみよう。どうせ二度目の人生なのだし。


 産まれて物心がついて初日。俺はそんなことを考えながら笑い疲れて眠った。


 

 

 

 


 


 


 


 


 

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