薄氷の花びら 🌸

上月くるを

薄氷の花びら 🌸





 冬のあいだ、小川のお空は真っ白で、ミシミシ音がする天井になっていました。

 三月に入るとさすがの凍みもゆるんで、日が昇ると天井にすき間ができました。


 川底でじっと動かずにいたお魚の子どもは、明るくなった天井を見上げました。

 すると、透明な、うすい、きれいな花びらが何枚かひらひらと浮かんでいます。




      🌞




「かあさん、春だね、春がやって来たんだね!」

「そうね、ぼうや、もうすぐ本当の春が来るわ」


「え~、うそだい、もう来ているよ、本当の春」

「いいえ、ぼうや、もうしばらくのしんぼうよ」




      🐠




 そんな会話をかわしたあとで、お魚のぼうやは、不満そうに口をとがらせました。

「だって、かあさん、ほら、あそこに桜の花びらが何枚も浮かんでいるじゃないか」


 かあさん魚はギョギョギョギョ(訳:ホホホホ)おかしそうに笑って言いました。

「あれはね、ぼうや、氷が溶けていくところなの、ぼうやには花びらに見えるのね」


 いやいや期を引きずっていたぼうやは、青い頬をうっすら赤くして反論しました。

「そんなのぼく、とっくに知ってらい、わざと花びらにまちがえてみせただけだい」




      🧸




 かあさんのお魚は、そんなぼうやを愛しげに見て、やさしくやさしく言いました。

「いいのよ、自由に感じて。かあさんは、ぼうやのそういうところが大好きなのよ」


 それを聞いたぼうやのお魚は、うす赤かった青い頬(笑)をパッと輝かせました。

 薄氷の花びらは、本当の桜が咲くまでの、お茶目な水のゲームだったみたいです。




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薄氷の花びら 🌸 上月くるを @kurutan

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