電波ヒロインにはチュートリアルを①

入学式に遅刻後、俺たちはどうやら別のクラス(というか男爵と公爵だからそりゃクラスも違う)に分かれて教室に入る。


そこにはどうやら俺を探していたらしい二人が、俺を見つけて駆け寄ってきた。


「もう、探しましたよ!」

「どこ行ってたんだ?」


この二人は、俺の幼少期からの知り合い。

ファム・ステルファス王太子殿下と、その婚約者であるルーシル・サラフィス公爵令嬢だ。


「あぁ、ファム、ルーシル。中々に面白い奴に会ってな。……事情を聴いてたら入学式が終わってた」

「またおかしなことに首を突っ込んでるのか……いい加減に痛い目を見るんじゃないか?」

「そうですよ、ターナー!一応次期公爵なんですから、それ相応のふるまいをすべきでは?」


一応って……。


「まぁ、普段はきちんとしてるから——」

「ターナー様、今年から一年間、よろしくお願いします!」


俺達がそう話していると、向こうから御令嬢さん方が声をかけてきた。


「あぁ。一緒に学業に励みましょうね」


俺は、キラキラスマイルで令嬢方に挨拶をする。


「それで今度——」

「あぁ、すまないね。今、殿下たちと話をしている所なんだ。……申し訳ないけれど、また後で、話してもらえると、嬉しいかな?」


そう言うと、令嬢方は、赤い顔を隠しながら、ペコリと頭を下げて行ってしまった。


「……やっぱりまるで別人ですね」


そう言ってルーシルはため息をつく。


「な、凄いだろ?」

「今の令嬢たち、完全にターナー狙いだったね」

「まぁ、優良物件だからな」

「いい加減、婚約者を作れば?」

「そうは言ってもなー。ピンとくる人がいないんだ」


……言い忘れていたが、俺に婚約者はいない。

というのも、ミルフェス公爵家の方針で、基本的に政略結婚は無しで、自分で嫁・旦那を見つけてくるのがルールだからだ。

5つ上の姉は、それで隣国の子爵を落として嫁いでいってしまった。

……筋肉が素晴らしかったらしい。


「まぁ、もしもの時は父上が誰かいい人を見つけてきてくれるだろ?」


ファムとルーシルは二人とも、ため息をついた。


次の日。俺たちは再び裏庭に集まっていた。

——詳しいことをミアから聞くためだ。


ミアは、ノートを持ってきていた。

ノートには、不可思議な記号がたくさん書かれていた。


「ミア、これはなんだ?」

「日本語」

「……もしかして、異世界の言語か?」

「そうだけど?」


見た限りでは、俺が今まで習ってきた言語と、全く異なる体系をしている。


「なぁ、ミア。これ、俺に教えてくれないか?」

「え?」

「だって、使えるのミアしかいないんだろう?」

「まぁ、確かにそうだけど……」

「面白い!それに、その、ニホンゴって言うのを話せる奴がいたら、少しは自分の世界の事を思い返せるんじゃないか?」


そこまで言うと、ミアは少し考え込む。


「……手が空いた時でいいなら」

「よっしゃ!」

「じゃあ、話を戻すよ」


そう言ってノートに書き込み始める。


「一番いいエンディングは、逆ハーエンドなんだけど……」

「ちょっと待て。『ぎゃくはー』とはなんだ?」


音の響きから嫌な予感がした。


「逆ハー?えっと……男に囲まれるっていう」

「それってだいぶ不健全では?」

「いいの!幸せならそれで!」


……いいのか?


「この国、一夫一妻しか認めてないぞ」

「そう、だから本命以外はお友達!そんなルート」

「なんか、本命以外の男がかわいそうだな……」

「いや、皆と仲良くしておかないと、もっとひどい目に遭う人も多いから」

「例えば?」


「えっと……確か、助けないと、今から半年後に亡くなる人もいたはず」

「まじか」


……確かにそれは避けられるなら避けたい未来だな。


「さて、まず最初に落とすのは、ローレル・ストラード一択!」

「ローレル・ストラード?あぁ、ストラード侯爵家の。でもあいつ、婚約者いなかったか?」

「婚約者とは婚約破棄になるから」

「いや、醜聞だな。……もし助けなかったら?」

「えっと、ローレルが身分に胡坐を掻いたダメ貴族になる」

「……じゃあ助けたら?」

「婚約破棄はするけど、身分制に疑問を持ち、四民平等を訴える人間になる」

「どっちもどっちだなぁ~!」


そんな両極端な人間なのか?ローレル。

確か、ファムの側近候補だったはず。

外すか?いやでもまだしてないことで罪に問うのはいいのか?


まぁ、でもそんな簡単にローレルが篭絡されると思えない。

ここは、ローレルが上手い事やってくれることを願おう。


「でも、まずはそれより前にやっておくことがあるの!」

「なんだ?筋を知ってるなら、さっさと落とせば、あ」


そっか、筋書き通りに行くために落とせないのか。


「今、チュートリアル期間だし、ステータス上げしてた方がいいの!」

「ちゅーとりある?すてーたす?」

「そう!今なら能力上昇値二倍!」

「……よくわからんが、なぜ今の時期限定で能力が上がりやすくなるんだ?」

「……分からないけど、とにかく今の時期がステ上げのチャンスだから!」


またおかしなことを言う。

いや、いつも言ってるか。


「まぁ、取り合えず、勉強をして学力のステータスをあげる!」


そう言ってグッと拳を握るミア。


「お、おう、頑張れ」


そこで俺はピンとくる。


「なぁ、じゃあさ、ついでにニホンゴってやつ俺に教えてくれよ!」

「……分かった。でも、私がステータスをあげる方が優先だから」

「わかった」


ミアは少し考えたが、どうやら問題ないらしく、すぐにOKをくれた。

さて、学園での生活は一体どんなものになるかな?

というか、ニホンゴを学べば、少しはミアの言う事を理解できるようになるか……?

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