岡本に案内されて千秋がやってきたのは、ビルの六階北側のフロアだった。

 だだっ広いフロアには、オフィス用のデスクとイスが、島型レイアウトでズラッと並んでいた。自社で使っているような安っぽいやつじゃなく、ちょっとおしゃれなやつだ。

 このフロアだけで二百人ほどの席があるようだ。社内に三十人ほどしかいなかった自社との差に、千秋はまたため息をついた。


 ――自社は作業場、ここはオフィスって雰囲気だよなぁ。


 岡本の話によると六階北側と南側、七階北側のフロアにいる人間全員がプロジェクト全体のメンバーになるらしい。

 その中で発注システム、工程管理システム……といった感じで担当する業務ごとに十グループほどに分かれていて。さらにその中で画面、業務処理、共通処理の三チームに分かれているんだそうだ。


 岡本はプロジェクト全体を束ねるプロジェクトマネージャー兼、基幹業務――今回のプロジェクトの肝となるシステムのチームリーダーも担っている。

 千秋が入るのも、岡本配下の業務処理チームだ。


「みんな、ちょっといいかな」


 岡本が声をかけると、三島さんしま分の席の人たちがキーボードを叩く手を止めた。約三十人の視線が岡本と、その隣に立っている千秋に集中した。

 千秋はごくりと息を飲んだ。


 自社の先輩たちはまさに技術職といった感じで、お世辞にも愛想がいいとは言えない人ばかりだった。

 時計を見ると十時ちょっと過ぎ。ここは九時始業だから、業務が始まって一時間ほどが経っている。ちょうど作業がノリ始めて来た頃のはずだ。

 こんなタイミングで自社の先輩たちに話しかけたら、間違いなく睨まれる。


 冷ややかな視線を覚悟して身体を強張らせていたのだが、


「今日からこのチームに入ることになった小泉 千秋くん。最初はわからないことばかりだろうから、みんな、いろいろと教えてあげるんだよ」


 三十人ほどのチームメンバーは、温かい拍手を送ってくれた。拍手の音を押さえているのは、周囲のチームへの配慮だろう。


「チームメンバーの紹介は今日の歓迎会でゆっくりするとして――まずは小泉くん、一言」

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