第11話 考えは浅く、沼にはまるのは深く

 連休明け。


 俺は仕事が始まると目の前のことをコツコツと済ませていくことに追われている。うまい答えが見つからない悩みの解決は後回しにしてしまっていた。佳奈に付き合うことはできないと言わなければならない。


「はぁ。。。」


 仕事はまだ半人前。気の抜けない会社で立ち回ることと、佳奈とのことがあいまって気分は優れない。毎日紗良に会える平日は唯一の救いとなるはずだが、それが原因で佳奈と付き合えないわけだからどうも素直に喜べない。


 一方の紗良はというと、会社で近くに居合わせればじっとこちらを見つめてくる。嬉しそうで恋をしている目だ。気恥ずかしくて困る。もちろん会社では二人の関係は気づかれないようにしたいと申し合わせてはいるから、あからさまに親しげに話しかけてくることはないが。



 佳奈は、週末はできる限り俺に会いに来たいと言ったが、どう考えても週末は紗良と過ごすことになると思い、「まだ仕事に就いたばかりだから」と言い訳をしてそこまで会うことはできないと伝えた。



「佳奈だけじゃなく、紗良も熱量がすごいんだよなぁ。」


 紗良も仕事帰りや週末に二人で過ごすことに期待するようなことを度々言う。


「金曜日は古都君の家で映画を観よう。」


「土曜は外出して日曜日はゆっくり過ごす方が良いよね?」

 

 週末はどっぷり二人でいることが彼女の中で決まっているらしい。

 

 でも、うん。わかるよ。付き合いたてなのに「週末は予定が・・・」とばかり言うやつは居ないだろう。問題なのは、俺の状況だけだ。


 なにを悩むことがあるんだ、さっさとけじめをつけろと言われるだろうが、俺はせっかくまた仲良くなった幼なじみに絶縁されてしまうのがとにかく怖い。


「俺が付き合えないと伝えたら、佳奈はどうするだろう?」


 もう会わない?


 嫌いになって絶縁?


 友達として・・・は?俺からそういうのは狡いだろう。。


 少し付き合ってみてやっぱり遠距離は無理だという?


 ないないない、それはない。


 ああ、くそっ!


 こんなことまで考えてしまった。


「もう、佳奈を抱くことはできないのか・・・。」


 最低なことを考えたことはわかる。だからいらだちが募った。最低だとしても思ったことは本当にそれができないことが辛いからだ。


「ダメだ・・・話してみるか。」


 俺は佳奈を知る友人である慎也に相談してみることにした。




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 仕事終わりに慎也の働く居酒屋に一人で来た。


 紗良には知り合いに会いに行く約束があるから今日は別々に帰ろうと伝え、佳奈には慎也の店で飲むから夜に連絡は出来ないかもとメッセージを送った。まるで犯罪者のような気持ちになる。


 慎也の居る店に着くと、仕事中に悪いとは思ったが働きながらも慎也は小刻みに話を聞いてくれた。



慎也「つまり、佳奈ちゃんと付き合うつもりでヤッたけど、タイミングが悪くて好きな女と付き合えることになったからそっちと付き合ったってことか?」


古都「結果は・・・確かにそうだけど・・・。」


慎也「で、まだ佳奈ちゃんにはなにも伝えてない、と。」


古都「どう伝えるべきかわからなくてお前に話したんだ。俺はどう伝えたら佳奈を一番傷つけずに、」


慎也「あ?傷つかない方法なんてないだろ?」


古都「で、できるだけ、」


慎也「はぁ・・・お前って実はクズだったんだな。」


古都「ちがうっ!俺は二股とかそういうことをするつもりとかは全然なくて・・・」


慎也「いや、お前、つもりがないとか言ってなってんじゃんかよ。」


古都「だからっ、伝えなくちゃいけなくて、どう話せばいいか、」


慎也「はぁ~、気に入らねぇな。そんなうじうじしてるやつだったかお前。」



 正直、俺は慎也がここまで否定的に言ってくると思っていなかった。こいつに話すのは間違えたかと悔やんでいると、


慎也「じゃあさ、お前、何でも良いから電話して、佳奈ちゃんフレよ。そのあと俺がちゃんと慰めて俺が付き合うから。もういいよお前、俺がいるから気にしないでその女と仲良く付き合ってろ。」


古都「は!?なに言って・・・ふざけんなよ!」


慎也「知るか、馬鹿野郎。」


  「俺に任せろよ。俺ちゃんと佳奈ちゃんのこと好きだし、大事にするよ。俺はいずれ地元で家の仕事継ぐんだし、そういうことなら早くあっちに戻ったって良いかもな。」



 予想外のことを言い出す慎也に、俺は口をパクパクと動かして言葉を失った。 


古都「な、そういう話してんじゃねんだよ・・・。本気じゃないなら適当言うなよ、、」 


慎也「いやいやいや、適当やったのはお前。俺はなにも冗談も適当も言ってねーから。考えて物言えよお前。」


  「良いからお前は、さっさと電話して、思いつくこと言って佳奈ちゃんと終わりにしろ。けじめつけろ。」


  「お前が早くしなかったら、俺が先にバラすからな?いいな?」



 そう吐き捨てるように言うと、慎也は休憩してくると言ってどこかへ行ってしまったアルバイトのホールスタッフである大学生の喜美になにかを話しかけていた。




 喜美視点


 この居酒屋でバイトを始めた理由は、時給が良いから。社員さんも嫌な人は居ないし、おしゃれな店だからひどい酔っ払い客は滅多にいない。まかないが無料なのも魅力の一つ。


 社員さんのお友達で、たまに一人で来てくれる常連さん。神代古都さん。私は彼のことが結構気になる。と言うか結構好きかも。


 理由は?と聞かれると、やっぱりスーツを着て一人で静かに飲んでるところとか。かっこいいっていうか、「いいな。」ってなんとなく見ていて、だんだん話すようになったら好きになってた。


 こないだは女性と来ていた。私は慎也さんに古都さんが気になるって言ってあったから、彼女がいるなんて聞いてないって慎也さんを問い詰めたけど、本当に彼女ではないらしい。でもすごく、、近いし触るし・・・て言うか私にマウントとってきた。アレは狙ってるでしょ。


 あれからちょっとモヤモヤしていたけど、今日は古都さんが仕事帰りに一人で来てくれた。でもなんか、様子が暗いし、何ならちょっと青くない?え、大丈夫?


 心配しながらいつ話しかけようって思ったけど、なんだか深刻そうに慎也さんに「相談がある」って古都さんが言っているのが聞こえた。


 話、あんまり盗み聞きできそうにないけど、、気になる。


 




 









 

 

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