第3話 神様の確率変動??

 佳奈に思いがけない告白をされたあと、俺は佳奈を家まで送り届けて帰宅した。


 もう遅い時間なので、家族は寝静まっている。上京してからも俺の部屋はそのまま残されていて、久しぶりの自分のベッドに倒れ込んで今日あったことを整理してみた。


 久しぶりの再会。昔からの友達である佳奈。異性に対する好意的な意識こそあったが、ここ数年は特別な交流などなかった。ずっと俺のことが好きだっ言われて嬉しい気持ちよりも戸惑いのほうが強い。


 そういえば、今日になって思い立ったと言っていたな・・・。

 もし付き合うことになったら、佳奈が東京に来て同棲することもできるなんてことも言っていた。なぜそれが気になるかと言えば、裏山で見つけた祠で自分が祈ったことがあるからだ。自分は彼女ができますようになんて願ってはいない。ただ、東京での暮らしが楽しくなりますようにと願ったんだ。つまり、佳奈と付き合ったとして将来的には同棲をしたらと考えると、きっと今より楽しいに違いない。


 そういう叶い方?

 疑い深くも信心深くもないが、なんとなく神様はいると思っている。そうでなければ古びた祠を見つけて掃除をしたり拝むことなどしない。


 会社の気になる女性、宝生紗良のことが頭に浮かぶ。での彼女には恋人がいるらしい。そして今、俺に与えられた機会は幼なじみとの再会。そして告白。でも自分は馬鹿正直に「気になる人がいる」と言ってしまった。佳奈の想いに誠実であるようにとあの場ではああ言ったが、自分は間違えていないだろうかと、ぐるぐると思考を巡らせていた。


 なにを気にすることがあるんだ。俺はフリーだし、長く自分を想っていてくれた人が、あんなに気持ちを素直に伝えてくれたんだ。昔から彼女は明るくて可愛らしかった。これから先、特別な関係になれば楽しいに違いない。佳奈の言うように、休みの間に二人で過ごす時間をできる限り作って、関係を深めていけば良いに決まっている。


 そう心が佳奈に傾きかけたとき。


 ブブッとスマートフォンの通知の音がした。佳奈からだ。


「今日はありがとう。会えてすっごく嬉しかった!明日も会えないかな?」


 メッセージを見て心が高揚するのを感じる。昼に迎えに行くから一緒に昼食を食べようと返事をしながら、やはり自分は彼女をとても好ましく感じていることを認識した。


かわいいな。


ん?


 俺はもう一件の通知に気づいた。数時間気づいていなかったその通知は宝生紗良からのものだった。


『こんばんは。神代君は連休どうしてる?良かったらご飯でも行かないかな?』


 軽い動揺が心臓をどくんと弾ませた。え?なんで?休みの日に会おうなんて言われたことが今までなかった。数回ほど会社帰りに二人で食事くらいはしたけど、プライベートな付き合いになる気配などなかった。それだし、恋人いるんだろ?男と二人で会いたいなんて誘ってくるものか??


 時間を見る。23時ちょいだ。まだ返信してもかまわないだろう。


『こんばんは。お疲れ様です。今、実家に帰省中っす。お土産買っていきます。渡しがてら飯行きましょう。』


 そう返事をすると、割とすぐに既読がついた。本当は、「恋人がいるって噂を聞いたけど俺と二人で会うのは大丈夫なんですか?」と聞きたかったけど、なんかちょっとそれは小さいことにこだわる男みたいで気が引けてやめた。


『帰省してるんだね~』

『今年うちの会社10連休もあるじゃない?神代君と話したいなぁって今日なんとなく思ってさ。』

『お土産はお菓子がいいな♡』


 そして、可愛いウサギのスタンプ



 なんだなんだなんだ!?今日は!

 この人、今までそれなりに敬語だったのに。ハートついてるし。しかも佳奈と同じで今日思いついたって言ってるとか、やっぱり俺が神様に願いごとをしたからなのか?!ううっ、、っていうか、連休中に会えると思っていなかったから嬉しいんだけど!


『お菓子っすね(笑) 了解です!しこたま買ってくっすよ。』

『実はそっちに帰る日を決めてなかったので、親の予定とか聞いて明日連絡しますね。』


『うん。あー誘うの緊張した。笑』


『え、なんで緊張?いつでも誘ってくださいよ。』


『だって、断られたら悲しいじゃん?』

『彼女がいるんで、とかさ。神代君、かっこいいし。』


 うわうわうわうわうあwーー

 やばいこれ、破壊力すごい。

 誘いたかったってこと?かっこいいとか思ってたってこと?いや、うぬぼれてはいけない。このくらいはなんとも思ってないから言える台詞かも知れない。今、これって聞くチャンス?


『彼女いないっすよ。てか俺も宝生さん、彼氏いたら悪いなって誘わなかったんで同じっすね。』


 言ってやった!つか彼氏いるの知ってるんだけどさ。


 しかし、返ってきたのは意外な言葉だった。


『私もいないよ、彼氏。』


 え?ええ?


『そうなんですか?俺、宝生さんは恋人いるって先輩が言ってるの聞いたことありますけど。』


 どういうことだ??


『え、いないよ?あ、もしかしたらしつこく誘われたときにそうやって断ったことあるかも。』


 舌を出して可愛くてへぺろしているウサギのスタンプが届く。


『そうなんすね。俺ずっと宝生さんは恋人いるって思ってましたよ。』


 平然を装っているけど、俺は内心、今日一日の情報量の多さにパニック。そしてさらに追い打ちをかけられるのだった。


『あーだから神代君ってなんか壁のある感じだったんだね。』

『そっかそっかー。だからかー』

『んーじゃあ。次からはもっと遠慮なく押すね。おやすみ!』


 否応なく会話を切られた形になったのと、なんて返事をしたらスマートなのかというスキルがなかった俺はそのまま日和って返事をしなかった。そして、もっと遠慮なく押すと言う言葉の意味について考えるのをやめられなくなったのは言うまでもない。好意を匂わせられていたのですよね??違ったら恥ずかしねる・・・。


 あれ?なんか今日の俺、節操のない男って感じしない?









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