第9話 それからそれから

―――――さて、ここからは事件の後日談。

 南リアの同僚である暮崎は、ストーカーと窃盗の罪で逮捕……とまではいかなかったが、当然の如く厳重注意となり、柳の会社はクビ、リアに対しては接触禁止となった。彼だけなら逆恨みで復讐に来てしまうかも…という不安は残ったが、世間体を気にする彼の両親が無理やりに遠方の実家へと連れ帰ったそうなので、恐らく大丈夫だろう…。と言う話になった。


「―――という訳で… 南さんも、念のため引っ越しはするみたいですよ。住所、相手に知られてるのは怖いものね…」

「…でも被害者の方がお金を出してまでその後の対策をしなきゃいけないの、なんだかなぁって思っちゃうんですよね…。悪いのは相手なのに…」

「そうだね…。まあ、慰謝料ってことで引っ越しの資金は相手のご両親からもいただいたみたいだから…それでこれから先、安心して暮らせるなら…とは思うかな…」

「むー…」

「………でも……、確かに被害を受けた方が何かしなきゃいけないって言うのはなんだかモヤモヤしちゃうよね」

 芽衣子の素直な意見に、コーシカは、当たり前のはずがいつの間にか忘れていたことを思い出したみたいな気持ちになって、思わず微笑んだ。

大人になるといつの間にか「仕方ない」って飲み込んでしまう方が楽だから…と諦めてしまうことも増えた気がする。でも、本当はそんな風に無理やり飲み込んで、諦めちゃいけないことだってたくさんあるはず。

だからこそ、コーシカは芽衣子がこの課にきてくれたことを改めて良かった…と思った。

まっすぐで新鮮な気持ちを思い出させてくれる彼女と居たら、自分も初心に帰れる気がしたのだ。


 そして、当初の依頼であった失くした傘は─────と言うと、

結局、ストーカー行為に及んでいた暮崎の家で見つかったものが返却された。

 残念ながら壊されてしまっていたが、リアはとにかく自分の手元に戻ってきたことを喜び、コーシカたちに心から感謝した。

 一歩間違えば、傘どころではなく自分自身の身も危険だったことは明らかなので、ある意味でお父さんが自分を守ってくれたのかも…と。近いうちに実家に顔を出して、一緒にお酒でも飲んでこようかと思っていますと微笑んだのだった。


「それにしても、ただの傘探しだと思ったのにとんだ大騒ぎになっちゃいましたね…!」

「うん、本当に。芽衣子ちゃんがいてくれて本当に良かったよ。大活躍だったもの」

「えへへ…」

 先輩に誉められるのは満更でもない。芽衣子の顔がだらしなくにやついてしまう。

「──でも、何故かこんな風になんだかややこしいことになっちゃうことも結構あるんだよね────」

「へ?」

「でもね!だからこそ芽衣子ちゃんみたいに強くて頼りになる子が一緒に頑張ってくれるのは、凄く心強いなって」

 コーシカのその言葉に、なんだか思ったより大変な場所に来ちゃったのかも知れない…?なんて、自分の前途を不安に思う気持ちを抱きつつ、やっぱり頼りにされるのは嬉しくなってしまう。


「ふふん…!これからも、私、悪いやつはバリバリ捕まえちゃいますよ!!」


 拳を握りしめる芽衣子をニコニコと眺めているコーシカの尻尾も、ピンっと嬉しそうに立ち上がっているのだった。

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遺失物捜査課のしっぽさん 夜摘 @kokiti-desuyo

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