第5話 不動産屋社員の見解

 丸安株式会社の総務部に頼まれて紹介したマンションのことで、我が不動産屋に質問があった。何か曰くのある物件なのではないか、と。

 いわゆる事故物件と言われるものは、告知義務があり、必ず知らせなければならない。

 しかし、いつまで告知するのかというのが難しい。単に「三人まで」というようなやり方だと、単純な話をすれば、各々が一ヶ月しか入居しなかったとすれば、たった三ヶ月でおしまいということになる。

 反対に一年とかいう話にすれば、ずっと前の霊が居座って居ることもあると聞くので、これまただめだ。

 どこかで、霊の寿命は二百数十年だとか書いてあったので、それならば告知義務の期間は、二百数十年にするべきなのかもしれない。

 そんなことを先輩社員に言えば、

「真面目だなあ」

と呆れられた。

「でも、入居する方にしたら、大問題ですよ。

 例えば先輩が入居した家にお化けが出て、告知義務の期間が過ぎてるので言いませんでした、なんて言われたらどうします?」

「訴えるな」

「でしょう」

 私と先輩は頷き会って、そりゃそうだ、しかたない、と言い合った。

「でもその部屋、本当に何もないんだろう?」

 先輩の言うとおり、事故物件でも何でも無い部屋だ。

「そうなんですよねえ」

 日当たりも良く、駅からも近く、買い物するにも二十四時間開いているスーパーが近くにあって便利だ。建物もまだきれいだし、虫などが出るという訴えも、排水がどうのという訴えもない。唯一、エレベーターと駐車場がないことがマイナスだと言えるが、全体的に見て、いい物件だ。

 それなのに、今回の入居者は、異音を聞いたと言うらしい。

 実はその前の入居者も、夜中に異音がすると何度も言ってきた。そして、ある日逃げるように退居して行ったのだ。

「おかしいですよねえ」

「前の前の入居者は、事故で亡くなったらしいけど、家で亡くなったわけじゃないしなあ」

「それ以外の入居者は全員、生きて退居して行ってますしね」

 揃って首をひねる。

「もしかしてその事故死した人、よっぽど家に未練があったんじゃないですか」

 先輩は一応考えてから、首を振って苦笑した。

「そんなの、おかしくねえか。だったらそこら中に、事故物件が転がりそうなもんだろ」

「それもそうですよね」

 二人はううむと唸り、結論を出した。

「きっと続けて、神経の細い人か、幻聴気味の人が入居したんですよ。たぶん」

「そうかあ?どっちも二十代の若い人だぞ。前の人は図太そうな人だったし、今回の入居者も大阪人だし」

「先輩。大阪人が繊細じゃないとか言い出すんじゃないでしょうね。怒られますよ」

 最期は冗談に紛らせつつも、入居者の気のせいに違いないという見解で落ち着いたのだった。


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