第二十五話  僕を呼び出した相手はっ

「ようこそ、いらっしゃい」

「お、おじゃまし、まーす……」

 なんと今日、僕がやってきたおうちは……新居堂さんのおうち!

 僕のおうちよりも大きくて、壷とか生け花? とかが飾られていたり、おーっきな振り子式柱時計があったり、脚がくるんとなってるのが特徴な円形のテーブルがあったり。

「おじゃまします」

「ようこそ」

 かぜ結依ちゃんのおうちへ行った日の夕方、僕の家に電話をかけてきたのは、なんと瑛那だった。

 おしゃべりしたいから、汐織と一緒におうちへ来てほしいと思っているのだけど、っていう内容だった。

 初めての流れだった気がするけど、もちろんおっけぃなので、日を調整して、この日が実現した。

 僕は瑛那の家がどこにあるのか知らなかったから、汐織に公園まで来てもらって、案内してくれた形だった。

 おうちの中もこんな感じだけど、外から見ても、塀が大きかった。

 なお結依ちゃんは、あれから特に電話とかはない。まだかぜなのかもしれない。

 汐織は薄ピンクの半そでシャツに、オーバーオール装備だ。短めの髪な汐織なので、機動力が高そうな装備である。

 瑛那は白い長そでブラウス……なんだけど、折り目? みたいなのがあったり、刺繍ししゅうみたいなのがあったり、そでのところもなんかふわっとしていたりと、普通のじゃないのは僕でもわかる。

 それと白くて長いスカート。制服みたいに折り目付いてるタイプ。

 髪については、やはり夏休みのおうちでも、三つ編みをひとつ作る、いつもの瑛那スタイルだった。

 僕は紺色の長そでシャツに、ジーパン。

「ここが……瑛那の家?」

「表札はちゃんと見たのかしら」

「見ました。新居堂って書いてあった気がします」

 瑛那も結依ちゃんのようににこっとする人だけど、こう、常に落ち着いている感じだよなぁ。ゆ、結依ちゃんも割と落ち着いている方かっ。

「どうぞ、座って」

「し、失礼します」

 僕は緊張しながら座ったけど、汐織はここによく来ているのか、慣れているみたいだった。

 このイスも、なんか背もたれ丸くて、背もたれも座るところも赤くてふかふかで。

 フォーメーションは、僕の左前に汐織、右前に瑛那。

「雪忠は、紅茶を飲むのかしら」

「全然飲まない」

「じゃあ、他の飲み物の方がいいかしら」

「ぁ今? 瑛那がくれる~……の?」

「ここにあるのだけれど」

 急須……じゃなくてティーポットが置いてある。茶托……じゃなくソーサーと、湯呑なわけがないティーカップも、それぞれみっつ。白ベースで青と金の装飾がある感じ。

 それら以外にも、紅茶道具がいくつかあるようだ。

「飲む飲む! 嫌いとか飲めないとかじゃなくて、機会がないだけだから! むしろ飲ませてくださいお願いします」

 僕はテーブルに両手をついて、頭を下げました。

「じゃあ、入れるわね」

 やんわり笑顔で、瑛那のおててによって、ティーポットが持ち上げられ、赤茶色の紅茶が注がれていく~。なにその茶漉ちゃこしみたいな網目のやつ。

 お~確かに香りっていうのがあるのぉ~。

「で……僕を呼んでのおしゃべりって、なにか僕に聞きたいことがあった~、とか?」

 だって普段この二人から同時に誘われるなんてないしぃ。てか瑛那なんて、初めて遊ぶしぃ。

「わたくしは、場所を用意しただけよ。今日のことは、汐織の提案よ」

 注ぎながらおしゃべりする瑛那。

「汐織が? じゃあ汐織は、なにか目的がっ?」

「そうね。桂太郎から聞いて、ついちょっと、おせっかいをしたいと思って」

「お、おせっかい?」

「どうぞ。砂糖やミルクはいるかしら」

 あ、僕の前に瑛那紅茶がやってきた。

「……と、とりあえず飲んでみる」

「汐織は、ミルクでいいかしら」

「ありがとう、お願い」

 紅茶入れさばきも丁寧ていねいで、ミルク入れさばきも丁寧な瑛那。

 僕ティーポットさばきの練習とか、したことないよ……。

「いただきまーす」

「どうぞ」

 ではまずはエネルギー補給といきましょう。ずずっ。

(…………ん~っと…………)

 香りは、確かにする。でもさ、これ……

「え、瑛那?」

「なにかしら」

「これ、味なくない?」

 おい汐織そこでんぐふってなってけほけほすんなや!! 瑛那もちょっと笑ってっし!

「雪忠は、ジュースを飲むときに比べて、普通の緑茶を飲むときは、どんな味がいいなど、こだわりがあるのかしら」

「う~ん」

 考えてみよう。う~ん。

「……お茶って、のどかわいてるときに飲むか、ごはん食べてるときに飲むとか、そんな感じだから……何味~とかは、そこまで気にしないかな?」

「紅茶も、そのように飲んでくれて、構わないわ」

「ああなるほど」

 瑛那先生から教えてもらったので、もう一口。ずずっ。

「……今度、おうちでも飲んでみようと思います」

「ええ、そうするといいわ」

 瑛那は自分の分に、ティーポットを小さくしたようなミルクの入れ物でもなく、砂糖でもない、また別の小さな入れ物から、なにやら液体を注いでいる。

「それは?」

「レモンよ」

「僕には牛乳と砂糖しか聞かれてなかったよ!」

 くぉらまた汐織んぐふっとかなってやがるし!

「ごめんなさい、そうだったわね。入れてみたいのかしら」

「ぷんぷん! じゃ試しに」

 あ、わざわざ瑛那立って、僕の右隣に来て、少しレモン液体を入れてくれた。

「このスプーンを使ってくれていいわ。混ぜて飲むのよ」

 さらに瑛那から、ただの白色だけど花の模様が見えるソーサーと、銀色のスプーンを渡してくれた。このちょっと歩くだけの瑛那もまた、優雅である。

「わかりました」

 ぐるぐる。スプーン置いてっと。

 ではもう一口。ずずっ。

「おお、味付いた」

「また飲みたくなったら、言ってちょうだい。まだあるわ」

(それは~……つまり~…………)

「……またここに紅茶飲みに来ていい、ってこと?」

「ぷっ、ちょっと雪忠ったら、さっきからなによもうっ」

「ふぁ?」

 汐織こそなんださっきからうぷぷってなってばっかで! やはり瑛那は笑っていた。

「ええ、いいわよ。また一緒に飲みましょう」

 瑛那とまた一緒に紅茶を飲むことが、決定いたしました!

「ちゃんちゃん。じゃなくて汐織! 今日の目的はっ? まさか僕に紅茶飲ませたくてとかっ?」

「そのことはそのことでおもしろかったわっ。さっき言いかけたけど、桂太郎から聞いて、おせっかいをしたいと思ったのよ」

「ああ、で、そのおせっかいって?」

 ずずっ。なるほど、レモン紅茶か……。

「……雪忠」

「な、なに?」

 汐織は紅茶を置いて、僕をまっすぐ見てきた。

「桂太郎たちの前でも、結依ちゃんのことが好きだって、言ったらしいわね?」

 その瞬間がしゃんっ! って瑛那がカップ滑らした!? こぼれてはないっぽいけどっ?

「うひっ!? そ、そんなこと言ったつもりないけどぉ?!」

「でも桂太郎は、結依ちゃんが雪忠に告白するかもって話をしていたとき、まんざらでもなかった、とも言っていたわよ」

 また瑛那方面からがしゃんが鳴って、すごいまたこぼれてない。

「なんでそんな筒抜けなんだよぉ~……」

 んまぁその。これ絶対秘密だかんな! とか、だれにも内緒な! とかは言ってないけど。

「……あたしに告白したのは、雪忠たちのおかげらしいから、手伝いたいらしいわっ」

「えぇっ!?」

 今度はカップがしゃんどころか、手を勢いよくテーブルについて立ち上がった瑛那。そのがしゃん。

(えか瑛那のえぇっ!? ってっ)

 瑛那また目をいっぱい開いてすごい顔してる……さっきまでの紅茶瑛那はいったいどこへ……!

「汐織っ、あ、あなた……え、ええっ!?」

「言ってなかったかしら?」

「聞いてないわよ!!」

 瑛那の声が響き渡るぅ。

「……まあ、そういうこと、よ」

 瑛那は……ゆーっくり座った。

「……こ、こういうときは、おめでとうと言うのかしら」

「瑛那が桂太郎のことを狙ってたのなら、くやしいわって言っていいと思うけど」

「ねらっ?! な、ないわよ!!」

 瑛那って、こんな声出してぷんぷんキャラだったの?

「雪忠たちのおかげで、今、こうなっちゃったわ」

 桂太郎、かぁ。この前まで、矢鍋くんだったはずなのに。

「ぼ、僕はそんな……ねぇ?」

 主に奥茂が押せ押せって感じだった気がするから、僕はそんな~…………ねぇ?

「とにかく、桂太郎がそんなことを言っていたから、ついでに瑛那も巻き込んで、今後の二人について、一緒に考えてあげようと思ったのよ」

「ど、どういうことかしら」

 瑛那さん、汐織さんに向けてのそれ、ちょっとだけ目が怖い気がしますよ。

「瑛那は雪忠ともよくしゃべっているみたいだから、いいアドバイスをしてあげられるかと思って」

「なん、ですって……?」

 瑛那さん瑛那さん、やっぱりちょっと目が。

「瑛那はどう思う? 結依ちゃんと雪忠の関係」

「どう思うとは……どういうことかしら」

 まだ口調がちょっと怖いような気もする瑛那。

「結依ちゃんはやっぱり雪忠のことが好きって見えるのか、雪忠はやっぱり結依ちゃんのことが好きって見えるのか」

 瑛那は~……なにこの間。

「す、好きって……こ、こっちの意味じゃなくて、あっちの意味……かしら?」

 どっちぃ?!

「そういうこと…………もしかして瑛那、こういう話、苦手なの?」

 うわ汐織セリフ的にはそう言いながらも、顔はニヤニヤしてやがるっ。

「にっ、苦手というほどでもないわっ。でもわざわざわたくしを入れる必要はあるのかしらっ?」

 僕も得意じゃないけどさぁ……そんな目に見えて苦手なのか瑛那っ。

「一人でも多い方が、参考となる意見が集まりやすいでしょ」

「……でも、なぜわたくしがっ」

 瑛那よりも汐織の方が、パワーバランス上なのか……?

「繰り返した方がいい? 雪忠ともよくしゃべっているようだし、きっといいアドバイスをしてあげてくれると思ったからよ」

 瑛那は右手で右目を覆っている。目はつぶられている。視力検査みたい。

「……雪忠は、それで悩んでいるというの? わたくしも混ざることで、雪忠の悩みを解決に導けそうなのかしら?」

 その右手は右ほっぺたにずらされ、僕を見てきた瑛那。

「で、でも~……結局これって、最終的には、僕が自分でどうにかしなきゃいけないんじゃ……?」

 僕は汐織を見た。

「それはそうかもしれないけど、じゃあなぜ、まだ告白をしていないの」

「……たっ、タイミング、が……」

 と、汐織の圧に屈してタイミングなんて言葉を使ってしまい、はっと思ったときには時すでに遅し。

 汐織は両ひじをテーブルにつき、組まれた両手の上にあごを乗せた。

 瑛那は……ちょっと口開いてる。

「なあるほど……そんなに結依ちゃんのことが、大好きだったのね」

 この二人相手に、言葉でかなうわけがなかった。

「そ、そうなのね、雪忠……」

 僕は~……とりあえず顔を後ろに倒し、うなだれとく。

「確定したところで、瑛那のご意見を、どうぞ」

 確・定!

「意見って…………そんなの、まったくわからなかったわ」

 みんながみんな、やっぱりの嵐だったのに、瑛那だけだよ味方はっ。

「そう? 教室で結依ちゃん、よく雪忠のところへ行っているじゃない」

「……わたくしは雪忠と話すのは楽だから、結依さんもそうなのかと、思ったくらいよ……」

「来てくれた結依ちゃんに対して雪忠も、楽しそうにしゃべっていたでしょう?」

「……わたくしとお話ししているときと、同じように見えたわ……」

「あのおとなしい結依ちゃんが、男子へ積極的にしゃべりかけに行ってるのよ?」

「……雪忠には、男女問わずに相手できる、優れた会話術を持っているものだと、思っていたわ……」

「瑛那褒めすぎ褒めすぎ……」

 な、なにこの空間。

「……思ったんだけど、瑛那」

「なにかしら」

 瑛那なんか元気ないぞ。

「ひょっとして……雪忠のこと、好き?」

 また瑛那によるがしゃん立ち発動! だからなんでティーカップからもポット類からもなにもこぼれていないんだ!

「な! なななっ、なにを言っているのかしら汐織!!」

 ごめ。焦る瑛那激レアすぎて。

「結依ちゃんより先に告白するなら、今がチャンスよ?」

「ちゃっ…………」

 手はテーブルにつきながら、立ち上がっている瑛那。明らかにいつもよりも目を大きく開けて、僕を見ている。

(ぇ、僕はなんて返したらいいのこの状況?!)

 もちろんこんな状況、生まれて初めて。

「……だっ、で、でもっ、結依さんの想いを考えれば、わたくしなんかが、そんなっ」

 うおー瑛那超焦ってるぅ!

「瑛那はさすが、優しいお嬢様よねぇ」

「し、知らないわそんなことっ」

 あ、瑛那座った。忙しいね瑛那。

「だって、雪忠」

「いや僕に言われてもっ」

 汐織を敵に回すべからず……。

 ここで瑛那は、息を深く吐いた。

「……雪忠」

「あ、な、なに?」

 相変わらず、いつもの覇気はない感じだけど。

「雪忠が優れているところは、わたくしもよくわかっているつもりよ。結構お話しをしてきたもの」

「ああ、うん、まぁ」

 今年も同じクラスになったし。

「そんな雪忠なら、告白をすれば、きっとお相手の方も受け入れてくださるわ。もっと自分に自信を持っても、いいと思うわ」

「そ、そう?」

 そうそうこれこれ瑛那オーラ。

「そうよ。わたくしの意見は間違っているかしら、汐織」

 瑛那と汐織の二人組は、ほんとなんていうか、ハイレベルというかなんというか。

「瑛那が言うことだもの。間違っていないわ」

 汐織もこう、さらっとかっちょいいこと言うよなぁ。

「この二人の言葉では、信用に足らないかしら」

「そそそんなことないよ。ありがとうございます」

 両手をテーブルについて、頭を下げた。

「……雪忠の幸せを、わたくしは願っているわ」

 くぅ~……瑛那の言葉もずばずばハートに突き刺さってくるぜぇ……。

「つまり、瑛那が告白して雪忠を幸せにさせる自信がある、っていうことね?」

「やっ、ややこしくしないでちょうだいっ!!」

 笑う汐織。ぷんすか瑛那。汐織さっきから僕と瑛那で遊んでないか?!

「結依さんも、わたくしの大切な友達よ。汐織によればっ、二人は想い合っているのだから……」

 ここでまっすぐ見てきた瑛那。

「雪忠が、勇気を出して、結依さんを幸せにしてあげてちょうだい」

(ぼっ、僕が、結依さんをしししあわせせせ)

 ししあわせせとか、そ、そんな大それたことっ……でも瑛那の言葉だしっ……。

「……ぼ、僕にそんな資格、ある?」

「資格があるなしということではなく、雪忠が結依さんの幸せを願い、大切にしたいかどうかよ」

「たっ、大切……まぁ、それは、そう、かな……」

 紅茶飲も。ずずっ。うん。

「頑張って、雪忠。わたくしは雪忠の誠実な想いを、信じているわ」

 強力すぎる応援。

「……え、瑛那からそこまで言われたら…………」

 ここまで言ってくれたんだ。期待にこたえたいし、僕もやっぱり、その……

(結依ちゃんと、一緒に……いたいし)

「雪忠。視点を変えて、もし結依ちゃんが他の男子からの告白を受けて、お付き合いを始めて結婚していったら、どう思うかしら?」

「つらすぎ」

 即答だよ汐織悪いかこんにゃろっ!!

「あたしも雪忠のつらい姿なんて、見たくないわ。瑛那が言ってるように、誠意を尽くせばきっと大丈夫よ。頑張りなさい」

 ちっ。なんだかんだ、汐織もいいやつじゃないかっ。

(じゃあ……僕は…………)

「…………わかっ、た」

 そう僕が言うと、汐織は半分ニヤニヤ半分笑顔みたいな表情、瑛那は落ち着いた表情で、僕を見てきた。

「で、瑛那。雪忠にいつ告白するの? 今かしらっ?」

「汐織~!!」

「ごめんってばっ、ふふっ」

 瑛那の叫びがめちゃ響き渡るぅ!

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