第八話  ほんとに……いやまさか……いやしかしねぇ?

 汐織と中庭にておしゃべりした日から、どうも結依ちゃんのことを考えてしまう。

 ……こらそこ。前からだったとか言わない! ……事実か事実じゃないかと言われれば、事実ですけれども!!

(結依ちゃん、やっぱ休みの日に遊ぶっていうことは……そ、そういうことなんだろうか?)

 いやいやひょっとしたらただ単に遊びやすい相手、って思われているだけかもしれないし。

(でもなぁあの話をしたのが汐織っていうのがなぁ……説得力強くて……)

 しかも結構当然かのごとく言ってたし。

(ん~~…………)

「どわっ」

 ぇ何なんかぶつかった?! はっ! 前を見ると、てか見上げると

「ああぁ若稲、ごめん」

 ぼーっとしていたからか、廊下に出たところで、若稲とぶつかってしまった。

(てか女子にぶつかってしまったあーーー!!)

 次の理科の授業は、理科室で行われるから、その移動のために、ね。

(あ、若稲そのままついてきてる?)

 右隣を歩く若稲が、授業に使う教科書・ノート・ピンク色の筆箱を抱えて持ちながら、僕のことをのぞき込んできている。

「な、なに? わ、わざとじゃないよ? ほんと」

 わざと女子にぶつかれるような技術持ってません!

「なにか困っているのか?」

「え?」

 若稲の声を聴けるタイミングは、六場以上に珍しいんだけど、声と言い回しがかっこいいんだよな。

「私に気づかず、まっすぐぶつかってきた。あんなこと、初めて」

「ぼ、僕もそんな、女子にまっすぐぶつかるとか、ないない」

 てかそれ、僕が接近してるの、そのまま見てたってこと? ど、どこから見ていたんだ。

「助けられることは、あるか?」

 ほんとかっこいいな、うん。

「あ~……自分で解決しなきゃいけないと思うから、大丈夫」

 そうだよなぁ。僕もちゃんと解決っていうの、していかなきゃなぁ。

「危なくなったら、私を呼べ。大事な友達だ」

(ほんとかっこよすぎるよあんたぁ!!)

「あ、ありがとう若稲。かっこよすぎてやばいよ」

 もうそのやわらかいキメ顔まで最高の流れ。

「ねね、二人で何の話してんのー?」

 おっと、淋子が僕の左隣にやってきた。

「いや、話らしい話は、別に? な、なぁ若稲」

 あ、若稲はいつの間にか、いつもの無表情気味に戻ってて、うんと一回うなずいた。

「じゃあたしの話聞いて~。昨日京香と一緒におつかい行ってたんだけど、京香の男子友達と出会ったわけ! そしたらその子がちょーイケメンイケてるメンズでびっくりしちゃってさぁ! ほんとに一年生かと思ったけど、今朝探したらほんとにいたのよぉー! もー世間は狭いってかぁーんじぃ~!」

 世間は広いようで狭いって、そういう使い……方?

「のわっちはどんな男子がタイプー?」

「ちょ?!」

 それ僕挟んでする話題ぃ!?

 それでも若稲、ちゃんと考えているようだ。

「……私より、強い人?」

(なんとまぁ!)

「それこの学校にいないっしょー?」

 うわー淋子ストレートにそんなこと言っちゃって、若稲もちょっと口開けて目も開いちゃってますよこれ……。

「若稲って、強い強いとは聞いてるけど、そんなに強いの? さすがに女子なんだから、強い男子くらいいるんじゃ……?」

 ぼ、僕なりに言葉を選んで、淋子に聞いてみたっ。

「本人から『私より強い人』、っていうヒントが出てますよー?」

(つ、つまり……そんなに数が少ない条件、なのか……?)

「でも女の子は、好きな男の子を前にすると、弱くなっちゃうから、そこまで含めたらいるかもね!」

 なかなか難しいお話だ……?

(べ、別に特別身体が強いわけでもない僕なんかの言葉で、説得力があるかはわからないけど……)

「……だ、男子は、やるときゃやるから、若稲よりも強くてかっこいい男子、いっぱいいるさっ」

(ど、どうよ)

 まだしばらく口を開けていたが、それがいったん閉じられて、

「そうだな。私はそう信じている」

(ほっ。よかったよかった)

 そうそう。男子はやるときゃやるのさ!

「あれー? ひょっとしてゆっきー。のわっちの彼氏に立候補~?」

「は!?」

 どうしてそんな解釈になるんですかねぇ?!

「でもゆっきー強いの? ゲームセンターの腕相撲ゲームとか、すぐ負けそう」

(あんなの最後にやったのいつだろう……)

「み、自ら危ない橋を渡らないことも、世渡り術のうちのひとつさ、ははは」

「ゆっきー弱そうだよ? のわっち」

「残念だ」

 くっ……まだまだ若稲みたいに、かっこよくは振る舞えなさそうだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る