第025話 破壊

「キョウってこんなに強かったんだね!!」


 戦いが終わったところでコレットが感心するように話しかけてきた。


「まぁな。でも悪いな、厄介事に巻き込んでしまったみたいで」

「んーん。気にしないで。キョウが守ってくれたから」


 気丈に振舞うコレット。その体は小刻みに震えていた。

 この前の宙賊のこともあるし、怖かったに違いない。


「それにしても誰がこんなことを……」

「そうだねぇ……」


 俺は誰かの恨みを買っている覚えはない。


 ないけど、俺はマテリアルギルドに登録したばかりなのに、かなり稼いでいる。それをよく思わない奴らはおそらく沢山いる。


 それに掃除や修理を生業としている奴らもいたかもしれない。そんな奴らから見れば、自分たちの仕事を奪った略奪者。良い気はしないはずだ。


 そいつらの中の誰かが犯人なのだとすれば、絞るのは難しそうだ。それ以外に思い当たる人物はいない。


「まぁ、考えても仕方がない。来るなら返り討ちにするまでだ」


 とはいえ、誰が相手でもチート職業の賢者である俺に掛かれば、何も問題ない。


 俺は楽観的に考えることにした。


「キョウなら大丈夫そうだけど、気を付けてね」

「このくらいなら何人来たってへっちゃらだ。心配するなって」


 心配そうなコレットに、俺は力こぶを作る仕草をして応える。


「分かった。ひとまずガーディアンズに通報してアナベルさんにきてもらおっ」

「そうだな」


 コレットから連絡をしてもらって襲撃してきたロボットを引き取りに来てもらう。


「また、あなたたちだなんてね」


 到着するなり、アナベルさんが呆れた様子を隠そうともせずに声を掛けてきた。


 二週間前に事件を起こしておいて、今回は謎のロボット集団に襲われる。彼女にしてみればトラブルメーカーだよな。


「べ、別に今回は何もしてないよ!! 巻き込まれただけなんだから」

「そうでしょうね。話を聞かせてちょうだい」


 慌てて否定するコレット。アナベルさんは俺たちを促して先を歩き出した。


「分かったよ」

「了解」


 俺たちは車に乗せられて出入管理局へ移動した。




 出入管理局のとある一室。


 俺とコレットは先ほどの出来事をアナベルさんに話して聞かせた。


「なるほど。無人タクシーから降りて路地に入ったところで襲われた、と」

「そうだ」

「コレットの家の近くなら、人通りも結構あったはずですが」

「なぜかあの時、周りに誰もいなかったんだよな」


 俺はアナベルさんに言われて思い出す。


 いつもなら誰かしら通行人がいたはずだ。あの時間帯なら誰かとすれ違わない方がおかしい。俺はコレットと話していて全然気づかなかったけど。


「そういうところまで手回しできる相手ってことでしょうか」

「かもしれない」

「それは少し厄介ですね」


 アナベルさんは少し俯いて考え込む。


 街の一角の人払いできる程の権力かお金を持っている人物。そんな奴が相手だとすれば、ただの素材屋のビギナーランクの俺には分が悪い。


「キョウは皆に必要とされてるし、狙われるはずないと思うんだけど……あっ」


 コレットが呟いて黙った後、何かを思いついたように声を上げた。


「誰か思い当たる人がいるのか?」

「あ、いや、私の思い違いだったみたい」

「そうか」


 気になってコレットに聞いてみたけど、彼女は首を横に振る。

 誰か思い当たる人物がいたのかと思ったけど違ったらしい。


「まぁ、あなたたちに心当たりがないのなら、これ以上考え込んでもどうしようもないでしょう。聞きたいことは全て聞けましたし、後はこっちで捜査するので、あなたたちは帰っていいですよ」 


 力のありそうな相手に狙われるようなことをした覚えはないんだけどな。


 強いてあげれば、掃除ロボットや荷運びロボットの需要が落ちた会社くらいか。俺が一瞬で綺麗にしてしまうものだから、少しは影響しているはずだ。


 でも、俺が受けられる依頼には限りがあるし、売り上げが変わるとしてもこのコロニーだけだ。それだけで俺をどうにかしようっていうのは考えづらい。可能性はなくもないだろうけど。


「分かった」

「そうだね、帰ろ」


 俺たちは釈然としないまま帰路に就いた。


「バリアッ」


 俺は念のためコレットの家に結界を張って眠ることにする。


「これでよしっ」


 全体が結界に覆われたのを感じとると、俺はベッドに横になって目を閉じた。


 ――トントンッ


 丁度その時、ドアをノック音がなる。


「どうぞ」

「もう寝てるかと思った」


 俺の返事を聞いたコレットがおずおずといった様子で室内に入ってきた。

 なんだか申し訳なさそうな顔をしている。


「いや、今ちょうど寝ようと思っていたところだよ。どうしたんだ?」

「あの、えっと、私もここで寝てもいいかな?」

「…………え!?」


 コレットは俺の質問に言いづらそうにしながら答えた。俺は彼女が一瞬何を言っているのか理解できなくて思考回路がショートしてしまった。


「そのぉ……ダメなら戻るけど……」


 悲しそうに顔を俯かせるコレット。


 そこで俺はようやく思い当たった。彼女は直接的な戦闘は初めてだったに違いない。宙賊に襲われたことはあれど、あんなに間近で命の危険を感じたことはなかったんだろうな。


 そこで一人だと怖くて俺のところにきたんだと思う。


「あぁ、分かったよ……布団はあるか?」

「うん!! 持ってくるね!!」


 俺はコレットの願いを聞き入れた。彼女はまるで真っ暗な室内に明かりがついたように笑顔を輝かせて、部屋から走り去っていった。


「おやすみ!!」

「お、おやすみ」


 布団を持って戻って来たコレットは意気揚々と挨拶をして眠りについた。一方で可愛い女の子が同じ室内で寝ていると思うと、なんだか気が気じゃなくて俺はいつまでも眠ることができなかった。




 次の日、いつものように出勤する俺たち。


「大丈夫? クマが凄いけど?」

「ああ、問題ないよ」


 俺はほとんど眠ることができなくてコレットに心配されてしまった。


「それじゃあ、また後でね!!」

「ああ、またな」


 別れて、俺がマテリアルギルドで依頼を受けていると、端末がブルブルと鳴る。


『キョウ!! 船が、船が……!!』


 通話に出てみると、突然コレットが涙声で俺に訴えかけてきた。

 まさか……。


 俺は彼女の言いたいことが思い当たり、すぐにハンガーに駆けつける。


「おいおい、どういうことだ。これは……」


 次の依頼を受ける前にハンガーにやってくると、コレットの宇宙船が滅茶苦茶に壊されてしまっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る