第019話 指名依頼

 俺がこのSFな世界に転生して一週間が過ぎた。一日、二日目程とは言わないものの、依頼をこなしていて安定して稼いでいる。


 今日もいつものように依頼を受けるためにマテリアルギルドにやってきた。


「おう、元気してたか?」


 受付に向かう途中で俺に声を掛けてきた男。その男はドワーフのような見た目で、俺が船の掃除の依頼を受けた相手だ。


「ん? ゲンゾじゃないか。久しぶりだな。俺は元気でやってるよ。あんたは?」

「ああ。お前さんのおかげで船内がピカピカになったもんでな。張り切っておるよ」


 俺の質問に笑みを堪えきれないといった様子で答えるゲンゾ。

 船が綺麗になったのが、よっぽど嬉しいみたいだ。


「それは良かった。また掃除をしてほしかったら依頼してくれよ」

「ああ。それは勿論だ」


 それだけ喜ばれると俺も嬉しくなる。

 言ってくれれば、また掃除依頼を受けたいと思う。


「依頼を受けるからまたな」

「ちょっと待ってくれ」


 挨拶も程ほどに、受付に向かおうとすると、ゲンゾに呼び止められた。


「ん? どうかしたのか?」

「明日久しぶりに小惑星に採掘に行くんだが、お前さんも一緒に行ってみないか?」


 俺が振り返って問い返すと、思いがけない提案を受ける。


 現在、コレットは奉仕活動を命じられている上に、彼女の船は故障中。

 俺が宇宙に行く機会がない。可能なら滅茶苦茶行ってみたい。


 だけど……。


「それってビギナーの俺でも受けられるのか?」

「問題ない。それに色々話も聞いてるぞ。なんでもお前さん、ロボットの修理ができる上に、警備ロボットを制圧できるくらいに腕も立つみてぇじゃねぇか」

「それが狙いかよ」


 ニヤリと口端を吊り上げるゲンゾ。

 なるほど。俺を誘う理由に合点がいった。


「もちろん、こっちのほうも弾ませてもらうぜ?」


 ゲンゾは悪い顔をして指で輪っかを作る。


 採掘は惑星に生息する薬の材料よりも稼げることもあると聞いていた。大当たりを引けば、結構な稼ぎになるかもしれないな。


「ふーむ。そうだな。条件次第で受けてやるよ」

「報酬は採掘量の一割相当でどうだ?」

「それってどのくらいになるんだ?」

「そうさな。少なくとも一万ユラを下回ることはあるまい」


 一万ユラと言えば、百万円だ。

 俺は今、稼げると言ってもせいぜい一日千~二千ユラ、つまり十万~二十万円程度。ゲンゾの依頼はかなり美味しい話だ。


「一日でか?」

「うむ」

「それなら引き受けるよ」


 一1日で百万円も稼げるのなら、俺に断るという選択肢はない。


「よし、決まったな。一緒に来てくれ」

「了解」


 俺はゲンゾと共に受付に向かい、指名依頼を引き受けた。


「明日、俺の船に来てくれ」

「了解」


 ゲンゾと別れた俺は今日の依頼をこなしてコレットと帰宅した。


「明日、ゲンゾの指名依頼で、採掘の手伝いとして小惑星に行ってくるよ」

「え、もう指名依頼がきたの? 凄いね!!」


 俺が今日の話をすると、コレットは滅茶苦茶驚いていた。

 ビギナーで指名依頼を受ける人はほとんどいないそうだ。


「しかも報酬も滅茶苦茶いいみたいだから、楽しみにしておいてくれ」

「うん、楽しみにしてるよ。でも、宇宙は危険だから気をつけてね!!」

「ああ。肝に銘じておくよ」


 この辺りは薬を求めて人が多くやってくる。人が集まるところにはお金と物が集まる。そういうところには宙賊がつきものだ。それに宇宙に棲む未知の生物もいる。


 宇宙はコロニーとは比べ物にならないくらい危険だ。

 

 俺はコレットの言葉をしっかりと心に止めた。




「ゲンゾ、開けてくれ」

『おう。ちょっと待ってろ』


 次の日、ゲンゾの船にやってきた。一週間程経っているけど、中はまだある程度綺麗な状態を保っていた。


「よく来たな。今日はよろしくな」

「こっちこそ、初めてだからお手柔らかに頼む」


 俺たちは握手をして挨拶をし合う。


「ん? そっちの人たちは?」


 ふと、ゲンゾ以外の人間がいるのが見えた。


「紹介しよう。今日一緒に作業をする俺の仲間たちだ」

「エイブだ。よろしくな!!」

「トロン。よろしく」


 どちらもゲンゾと似たような見た目をしていて、やっぱりドワーフを連想させる。聞いてないけど、宇宙ドワーフとかそんな種族なのかもしれない。


 エイブの方は明るくて裏表がなさそうなタイプで、トロンは口数が少なくて寡黙なタイプだ。


「俺はキョウ・クロスゲート。キョウと呼んでくれ。よろしく」


 俺は二人とも握手を交わした。


「早速だが、今日の目当ての小惑星に出発するぞ。キョウついてきてくれ」

「了解」


 俺は三人の後を追ってコックピットについていく。


「キョウはその席に座ってくれ」

「おう」


 ゲンゾの指し示された席に腰を下ろすと、コレットの船と同様にシートベルトが自動的に閉まった。エイブとトロンも空いている席に座る。


「メインジェネレーター始動。各部異常なし。出艦許可……問題なし。出発だ」


 ゲンゾが操縦席に腰を下ろしてパネルを操作して動力を入れた。そして、各種チェックをした後で船が動き出す。


 窓の外に見える景色がゆっくりと動いていく。


 ホログラムの案内に従い、コロニーの外に移動する。周りには俺たちと同じように外に出る宇宙船が列をなし、反対側にはコロニーに入ってくる船が同じように並んでいる。


 視線の先にはポッカリと真っ暗な闇が口を開けていた。


 コロニーにやってきた時はそれどころじゃなかったから、いかにも未来感のあるこの光景に感動を覚える。


 ゲンゾの船は流れに乗って宇宙に飛び出した。


 一週間ぶりの宇宙。非現実感があっていまだに信じきれていないけど、体の感覚は現実だと訴えてくる。


「よし、大いに稼ごうじゃないか!!」

「「おおー!!」」


 ゲンゾが掛け声を上げて、鉱石がとれるという小惑星群を目指して船を飛ばした。

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