第008話 何も起こりませんでした!!

「それじゃあ、この端末に従って登録してってね」

「分かった」


 俺はタブレットのような端末を渡されて、手順通りに登録していく。


「えっと……この記入内容って何かの冗談?」


 全部入力し終わると、アメリアは自身の端末に送られた情報を見て、俺をじっとりとした目で見つめる。


「いや、本当だけど……」

「どこの世界に、名前と性別以外の項目が分からない人間がいるのよ!!」


 俺の答えを聞いたアメリアは声を荒げた。

 周囲の視線が自然と俺たちの方に集まる。


 俺としても項目は埋めようとしたんだけど、名前と性別以外埋めようがなかったんだよね、はははは……。


「そう言われてもなぁ……」

「アメリア、ちょっと個室で話せないかな?」


 言い淀んでいる俺を見て、コレットが助け舟を出してくれる。


「……それもそうね。待ってて」


 コレットの言葉で周りの様子を察したアメリアは、しばらく席を外してすぐに戻って来た。


「こっちに来てくれる?」

「了解」


 俺たちはアメリアに連れられて個室に移動した。


「それで? 一体どういうことなの?」

「えっとね、話すと長いんだけど……」


 個室のソファに腰を下ろした俺たち。

 アメリアに促されてコレットが出入管理局で説明した内容を話し出した。


「はぁ……そんなことがあったのね。それならキョウの入力内容も頷けるわ」

「でしょ?」


 全ての話を聞き終えたアメリアは納得した表情になる。


「それにしてもよくアナベルさんが許可したわね、こいつ滅茶苦茶怪しいじゃない」

「怪しすぎて逆に大丈夫だって」

「あぁ~、なるほどね」


 アメリアはコレットの返事を聞いて色々と理解したようだ。


「分かったわ。その辺りはこっちで処理しておくわね」

「ありがとう。助かるよ」

「これも仕事の内よ。それじゃあ、マテリアルギルドの説明をするわね」

「頼んだ」


 事情を理解したアメリアは俺にマテリアルギルトについて教えてくれた。


「こんな感じだけど分かったかしら?」

「ああ。大体わかったよ」


 アメリアの説明によると、マテリアルギルドは冒険者ギルドのようにランク制を採用している。下から、ビギナー、ミドル、プロという3つに分かれていた。


 少ないように思えるけど、マテリアルギルドでの主な仕事は、コロニーでの雑用か、比較的危険の少ない小惑星の採掘やパーツ回収か、危険が多い未開拓の星の地表に降りて素材を採集するか、の3つだからだ。


 それに、ランクが高くなったギルド員は、稼いだお金でさらに高い宇宙船を買い、宙賊を狩るハンターになったり、星間貿易をする商人になったりする。だから、あまり沢山のランクを用意しても残る人が少なくて意味をなさないとのこと。


 ランクは依頼の達成数や評価などのギルドに対する貢献値が一定になることで上昇するらしい。


 マテリアルギルドは何もないところから稼ごうとする人たちの足掛かりみたいな場所だった。


「私はミドルランクだよ!!」


 コレットは主にパーツ回収をメインしている素材屋だそうだ。たまに、危険のない小惑星を採掘して鉱石を手に入れたりもするらしい。


「はい。これがあなたのギルドカードね」

「おお、ありがとう」


 DSO内でも受け取ったことがあったけど、リアルだとまた違った趣がある。


「これで登録は終わりよ。他に質問はあるかしら?」

「いや、大丈夫だ」

「そう。分かったわ。あ、言い忘れたけど、ギルドカードを紛失して再発行になると、結構お金がかかるから注意してね」

「了解」


 DSOではアイテムはデータだったから無くす心配なんてなかった。

 でも、ここはリアルだから気を付けないといけないな。


 今の俺は一文無し。ちょっとした出費が命取りになりかねない。


「コレット、パーツの受け渡しをしてきてくれる?」

「分かった!!」


 俺とコレットは一度ハンバーに戻って、今回売却するパーツの受け渡しを行った。


「キョウ、少し待ってもらってもいいかな?」

「どうしたんだ?」


 マテリアルギルドとのやり取りが終わった後でコレットに引き留められる。


「キョウが入っていた箱をオークションに出品しようと思って」

「俺もオークションって奴が気になるから見ていてもいいか?」

「いいよ」


 彼女は俺が入っていた箱の動画を色んな角度から撮影して、タブレット端末から商品として登録して出品していた。


 まるっきりネットオークションと変わらない感じだった。俺も珍しい物を手に入れたら出品してみようと思う。


「後は結果を待つばかりだね」

「楽しみだな」


 俺が入っていた箱がどれくらいの値が付くのかとても気になる。

 コレットの話によればかなり高額になるとのこと。

 彼女のためにも高値で売れてほしい。

 

 その後、俺たちは再びギルドに戻ってパーツの買い取り金額を受け取った。


「おい」


 マテリアルギルドを出ようとした時、突然後ろから話しかけられた。


「ん、なにか用?」


 振り返ると、そこにいたのはスキンヘッドで顔に傷がある強面の男。いかにも俺たちに絡んできそうな相手だ。


「これ落としたぞ」

「あ、ありがとう」


 しかし、その男は予想に反して礼儀正しく、コレットの落とし物を拾ってくれただけだった。


 俺たちは彼に感謝を告げてギルドを後にした。


「よし、それじゃあ、街を案内してあげるね!!」

「よろしく」


 ようやく街に入ることができる。

 今から街を見るのが楽しみだ。

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