第9話 すっげぇヤツになりてぇんだ

「オレ、すっげぇのになりてぇんだよ」

相談室のカウンターにやって来た悪魔がそう言う。


「なるほど~。具体的にはどんな感じの、すっげぇのになりたいんでしょうか~」

シエルが相づちを打ちながらそう聞いた。

「んー……とにかくすっげぇの。めっちゃかっこよくて、ハイパーヤバイ存在になりてぇんだー」

悪魔が、背中の黒い小さな羽を揺らしながらそう言った。



「すっげぇヤツになりたいなら、こんな所で油売ってないでハイパーヤバイ存在になる努力をしないさいよっ……!私達、そんなに暇じゃないのよっ」

カウンターから少し離れた席に座るリリィが小声でそう言う。

リリィの言う通り、皆そんなに暇じゃない。

カナリーはチラッとシエルの机を見る。

そこには書類の束が積み上がっているのが見えた。

そして、カウンターにて相談を受けているシエルは困っていた。


カナリーは席を立ち上がり、カウンターに近づく。


「シエルさん、ここは私に任せてください!」

「え?で、でも~……」

口を濁すシエルを安心させるため、カナリーはニッと笑った。

「大丈夫です!」

カナリーが自信満々にそう言えば、シエルも「それなら……お願いしてもいいかな?」と言った。




「はじめまして!担当をさせていただく、カナリー・サンフラワーです。ガラ様ですね。ガラ様は凄い人になりたいとの事ですが……なぜ、凄い人になりたいのですか?」

「オレさー、見ての通り下級悪魔なわけ。でも、いつかはオレもすっげぇヤツになりたいなーって思ってるんだよ」

「目標となる人物とかいますか?」

「んー……とくには」

ガラがそう答えると、カナリーの瞳がキラリと光った。

「では!ある鳥達から真似ていって、凄い人になっていきませんか!?」

「と……とりぃ?」

カナリーはスケッチブックを取り出し、サラサラ~っとペンギンの絵を描く。


「こちら、コウテイペンギンです!またの名をエンペラーペンギン!!」

「おぉ……。え、何?オレも名前をコウテイガラとかエンペラーガラにしろってこと?」

「それも面白いですね!ですが……私が提案するのは……体を鍛えることです!」

ガラは首を傾げた。

「コウテイペンギンって、ペンギンの中でも体が大きいペンギンなんです。そのため、寒さが厳しい場所でも生きていけるんです!」

「ふむふむ……つまり?」

「体を鍛えて、厳しい環境でも活動ができる筋力を作りましょう!!老後を健康に過ごすにも筋肉は大事です!体を鍛えると同時に精神面を鍛えるのも良いと思います!!」

カナリーがそう言うと、ガラの瞳がキラキラと輝いた。

「筋トレかぁ!確かに、体が立派だとそれだけで存在感とかあるよなー!オレ、健康で長生きしたいし……良いな!筋トレ!!」


カナリーはスケッチブックの次のページを開き、再びペンを走らせた。

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