ゴミ掃除

監視の仕事が終了し——とは言っても、あたしはほとんどなにもしてないが……まあ、とりあえずは彼女が家に帰るまでは見届けた。

夜の方は解析班がカメラとか、ドローンとかを使って引き続き見てくれるらしい。

だからこそあたしたちこっちは夜寝る事が出来るし解析班には感謝しかない。


永塚から今日の報告も聞くつもりだが、特に急いで報告するようなことも無かったみたいだし、報告はしばらくの間滞在するホテルに戻ってから聞くことにした。


「それで、どうだった?高校の方は」

「初日でしたから、普段どういった感じなのかは分からないですけど、今日は特に何かがあったわけでも無かったですね。……そういえば、留学生が多かったかな?」

「留学生ねぇ……。まさか子供も送り込んでたりしてな」

「どうでしょう?その可能性は考えられますが、詳しい事は知らないと思いますよ?例えば……空森さんと友達になるとか、学校での事を聞くとか、それくらいならお願いしてそうですけど……どう思います?」

「色々聞いてると面倒ごとになりかねないし、それくらいの指示はされてそうだな。親が誰なのか調べてもらうとしよう。全学年の名簿とかあったりする?」

「空森さんのクラスの名簿ならありますけど、流石に全学年は無いですね」

「今日はまずクラス全員を調べてもらって、他は明日以降でもいいでしょ」


名簿をスキャンして解析班へと送る。親まで調べる必要があるから、結果が送られてくるのは明日以降になるかも——。




「ん?もう調べ終わったのか。やっぱ解析班は仕事が速いな」

「奥沢さん。何かあったんですか?」

「これ?これは昨日送った名簿の照合結果」

「え!?もう終わったんですか?やっぱり速いですね……それで結果の方はどうですか?」

「留学生が五人いる中の三人の親が、軍と研究施設と政府関係者みたいだ」

「同じクラスにいるのが、よりによってそこの関係者なんですね……それにしても奥沢さんはいつも通りに見えますけど。こういうの凄く面倒くさがるじゃなですか」

「それがこの三人の親たちこいつらは監視役で送り込まれたみたいなんだ」

「このクラスだけでも三人の監視役って事は……全クラスだと結構な数になるんじゃ……」

「その可能性は高いだろうが、今は考えたくないな……」


まだ監視役として来てるのかも分からないし、確保するつもりで来てる奴もいるかもしれない。このまま大人しくしてくれるといいんだが……それよりも今は国内の奴の方が何かをやろうとしてるみたいだから、あたしはそっちの対処を優先しないとな。


「そろそろ時間だし行くか」

「そうですね。早く行きましょう」


永塚の手を取り移動する。そして昨日と同じように電車に乗り、吉祥寺まで移動したが、道中では何事も無く無事に学校まで到着。

昨日とは違って今日は私服で来たから昨日ほど目立ってはいなかった。


「じゃああとは頼んだ。何かあったらすぐに連絡してくれ。すぐに行く」

「奥沢さんは心配性ですね。そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。私だって一応戦えるんですからね?」

「それは知ってる。今日はあたしもやる事が出来たから、何かあったら早めに言ってほしいんだよ」

「わかりました。すぐに連絡しますね」


永塚と別れた後、あたしは調査のために別の場所へと向かう。

厄介な奴らが都内に集結しつつあると聞いたから、暇な時間を使う事にした。本当はそいつらが面倒を起こす前にしておきたかったのだが、今回は調査だけに留めておくようにと言われている。


「とりあえず解析班から送られてきた場所を見て回るか」


吉祥寺ここから近いところをいくつか見て回るとしよう。時間があれば遠くまで行けるが、そこまで暇でもない。

他の所は荒川が見回るみたいだし任せても大丈夫だろう。




「まずはここか……」


事前に少し前に潰れた工場だと聞いていたが、駐車場に車が何台か止まっている。集まっているのはガラの悪い奴ばかりで、見える限り若いのが多かった。


「なんだか若い奴らばっかだな。どう見ても使い捨てにしか見えないんだけど、金で雇われてんのか……?」


暴力団系と聞いてたから少しばかり警戒してたんだけど、そこら辺にいる不良を集めてるとは思わなかった。


「長居すると怪しまれるし次に行くかな」


——残りの三つを見てきたが、それぞれの場所にいたのは不良程度の連中ばかりで大したこと無い奴ばかりだったけど、人数が多い。

これなら、今のうちに少しでも数を減らしておいた方がいいんじゃないかと考えてしまうが、問題なのは後始末の方だ。


制圧後の後始末やら、周辺住民への隠蔽を担当している回収班がいれば、あたしも今日見た場所を潰してやってもいいのだが、どうやら回収班は荒川と一緒に行動しているらしいから、あっちに任せる事にした。


「とりあえず終わったし報告だな。——ってもうこんな時間じゃん……これなら直接ホテルに帰るか」




そして、そいつらが週末に都内に集結することが分かったため、まとめて捕まえる作戦が立案され、警察と協力することになった。

実行に移されるのは週末の昼間。都内——主に杉並区と世田谷区の境目の道路を規制して捕まえる事となっている。

罪状は誘拐未遂だ。




「——時間は大丈夫ですか?」

「ん?……そろそろ行く時間だ。こればかりは遅れるわけにはいかないし。じゃあ、あとはよろしく」


今日は一人での行動だし、現場まではタクシーで行くことにした。迎えに来てもらう事も考えはしたが、流石にあたし一人のためにわざわざ来てもらうのも面倒だろうからやめてもらった。

ホテルのすぐ近くにあるタクシー乗り場からタクシーに乗り込む。


「どこまで行きます?」

「とりあえず甲州街道を八王子方面に行けるところまでお願いします」

「今日通行止めになってる区間があるんですけど、甲州街道でいいんですか?」

「ええ、行けるところまでで大丈夫です」


出発した車が順調に進んでいたのは最初の数分だけで、笹塚辺りから一気に車が増え渋滞していた。

警察が計画通りに高井戸周辺の高速道路と街道を封鎖しているみたいだ。おそらく脇道の方はドローンで空から見ているはず。


「ものすごい渋滞なんで、ここまでになりますけど……どうしますか?」

「ここで降ります。急いでるん料金はこれで」

「ちょっと!お客さん!?これは流石に多すぎますって!」


運転手が慌てて大きな声を出してるいが、これからの迷惑料も込みで支払ったから驚いているんだろう。

これからこの周辺で何が起きるのかは予想もできないけれど、大体はスムーズに片付くはずだ。相手が銃火器などを持ってなければいいんだが——。


しかし、その心配は杞憂に終わった。

確保した連中は武器といった物を何一つ持っておらず、気絶させるための薬品がいくつか見つかっただけだ。

他には空森彼方ターゲットの顔写真とか、スマホの中には依頼者からのメッセージが残っていた。この依頼者が誰なのかはまだ分からないが、目を引くのは報酬金額だ。


(——マジかよ。こんな大金支払ってまで欲しい奴がいるってのか)


記載されていたのは億超えて兆の金額なんて、そうそう支払える奴は限られてくる。美術品コレクターか、はたまた政府関係者か、……それともなのかは不明だけど少なくとも金を持ってる奴って事だけは確定でいいだろう。




開始してからほぼ半日が経過して確保した人数は百人以上。これでもあたしが関わったものだけだから、他でも確保してるだろうし全体の数はもっと多いかもしれない。この多さだと、捕まえてないのもまだまだいそうだ……なんて考えも浮かんできて、少しばかり気が滅入る。


だが、事前の情報と照らし合わせると、まだ捕まえてない車のナンバーは残り二台。これには警察の方の情報は反映されるのが遅いから、もしかしたら警察がもう捕まえてる可能性が高い。


だが、こいつらの目的は空森彼方あの子だし、油断はできない。今日はずっとドローンに頼りっぱなしだったから、ドローンとその操縦者両方に不調や疲労が出ていたので今は休ませている。


「あと二台。どこにいるんだろうな?」

「おそらくこの近辺にいるとは思いますが、どうでしょう?もしかしたら車を変えている可能性もありますから」

「まだ安心はできないし、とりあえず探すか……押収した物ってどこに置いてあるんだっけ?」

「押収品なら——今はあそこのワゴン車にあります。何か気になる物でも?」

「いや、何か手掛かりになりそうな物とかあるかと思ってさ。ありがとね」


ワゴン車の近くでは押収した物を整理しているのが二人いた。

一人はノートパソコンを使って何かをしているが、スマホのデータを解析にでもかけてるようだ。

そしてもう一人はその他の品や、解析が終わったスマホなどの電子機器を箱に入れてワゴン車へ運んでいる。


「ずいぶん荷物を積んでるけど、どこに運ぶんだ?」

「あ、奥沢さん。どうしました?これは警察署まで運ぶ予定なんですけど……何か見たいものとかありましたか?」

「あ~いや……回収した物の中に手掛かりとか無いかなと思ってさ。例えばターゲットの写真とかまとめて無い?」

「写真なら……そこの箱のなかに何枚か入ってます。残りはスマホの中に入ってたんで、もう一台のパソコンを……あれを使えば取り込んだものを閲覧できますよ」

「忙しいところ、ありがとな」


まず確認するのは箱に入ってる写真から。

枚数が少ないって言ってたし、こっちで手掛かりを得られれば長々とパソコンの画面を見ずに済む。


中に入っていた写真はわずか十数枚だけだった。

しかし、どれも彼女が一人で映っている同じ写真ばかりだったのだが、その中の一枚だけ他とは違う写真が混ざっていた。


「あれ?この写真には二人映ってるのか。もう一人は確か……中河原って友達だったっけ?これはちょっとまずいな……!」


急いで永塚に電話をかける。


『はい、永塚ですけど。奥沢さんどうしました?』

「今日、空森彼方は勉強しに友達のとこに言ってたよな!?その友達の名前って中河原か?」

『そうですね。中河原美咲ちゃんだったはずです』

「その二人はまだ勉強してるのか?」

『いえ、もう終わって駅に居ます。でも忘れ物しちゃったみたいで、中河原さんが持ってきてくれるのか空森さんは駅の改札で待ってますよ。何かあったんですか?』

「こいつらは空森彼方以外にもう一人狙ってるみたいなんだ!それがその友達かもしれないんだよ!」

『……少し周囲の様子をうかがってきます』


永塚はそう言うと電話を切ったが、大体は伝わったみたいだ。

あたしも駅まで移動しないと……確か明大前だったかな……?すぐ近くだし、車を借りるより走って行った方が速いな。


——駆けだしてすぐに再度電話がかかってきた。


「何かあったか?」

『非常にまずい状況かもしれないです。空森さんを狙ってる奴らの車が駅の近くまで来てて、銃を所持しています』

「人の多い所で銃をぶっ放す気か?最悪だな」

『私がそいつらの処理をするので、すみませんが中河原さんの方は見に行けません』

「分かってる、こっちで何とかする。多分そいつら不良じゃないぞ、大丈夫か?」

『あの程度には負けませんよ。でも、周囲に一般人が多いので、相手が生きてるかどうかは分からなくなりそうですけど』

「気にするな。回収班を向かわせる」


電話を切り、【緊急、回収班を明大前周辺へ】とだけ書いて送信。

すぐに返信を知らせる電子音が鳴り、画面をチラリと見ると【要請しました】と返信があった。回収班を派遣してくれるみたいだし、永塚の方はどうにかなりそうだ。

あたしはもう一人のところへ急ぐとしよう。

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