危険度:測定不能 襲撃 上

『——この一ヶ月の間で、世界各地の巨大研究施設が相次いで謎の爆発現象が起き、すべて破壊されています。日本にも同じような研究施設が静岡県にありますが、襲撃される恐れがあると見られています。政府関係者は、自衛隊を出動させる考えを示しました』


テレビから聞いたことのある話が出て来たからよく聞いてみると、破壊された研究所のニュースが流れてた。

研究所の事は秘密だと思ってたから、まさかテレビで普通にこの事が出てくるなんて想像して無かった。でも、ニュースでは超能力者の事とかは言ってないし、詳しい事は知られていないみたいだ。


『その事件後から研究施設周辺では謎の怪現象が発生している模様です。それらの事と関連しているのかは、現在判明していません。ですが、現地の警察官の捜査や市民からの話では、研究施設が関係していると思われます


学校に行く準備をしてたら、さっきのニュースに関係してる事が次に流れてた。


「……これって、研究室にいた超能力者とかが外に出ちゃってるんじゃないの?」


つい声が出るくらいに、私は衝撃を受けた。だって……私のいる研究所にだってすごい能力を持った人とか物とかがあるみたいだし、海外の研究所にだってすごい能力を持ったものがあるはず。


「おーい茜ちゃん。友達が外で待ってるよ」

「もうこんな時間だ!ありがとお姉さん。行ってきまーす」


ちょっと気になる事をテレビでやってたから、寮のお姉さんに言われるまで時間ギリギリまで聞いてたことに、全然気づかなかった……。




今日は呼ばれては無かったけど、朝に見たニュースの事が気になって頭から離れなかったから、研究所に行くことにした。

友達もそれぞれ用事があったみたいで、今日は暇だったから行きたいって思いは……ちょっとあった……かも。





「——あれ?超能力者たちみんなが集まってる……みんな一緒にいるのは珍しい気がする」


メインホールこんなとこ悪魔デビルとセブンと最中ちゃんの三人が集まってるなんて、見たことが無かった。

いつもは悪魔は地下、セブンは戦闘部隊、最中ちゃんは研究室ってかんじでみんなバラバラの所にいるから、三人一緒にいるなんて何かあったのかな?


「あっ茜ちゃんだー。今日も来たんだね。ほらセブンもぼーっとしてないで手でも降ってあげなよ」

「……」

「よぉ、来たのか新人。ってか今日は予定無かったのにわざわざ来たのか。寮にいりゃよかったのに」

「暇じゃないし。朝見たニュースが気になって来たの」

「朝って……あーあのニュースね」

「あぁあれ見たのか。それならなおさら寮にいた方がよかったと思うけどな。ここに居ると下手すりゃ死ぬぞ?」


悪魔の言う通り確かに死んじゃうかもしれないけど、もし来たら連れてきてほしいってお兄さんも言ってたし、部屋まで逃げれば多分何とかなるでしょ。

でもお兄さんまだ起きそうにないから、ちょっと不安かも……。


「そんな事分かってるけど、気になっちゃたんだからしょうがないじゃん……。そういえば三人は何でここで集まってたの?」

「簡単に言うなら暇だったからかなー」

「何があってもいいように、この三人オレらには仕事が無いんだ」

「ふーん……だからここに居たんだ。……あ、そういえば毛玉はどうしてるの?」

「あぁ、あいつは研究室にいる。おとなしいから地下じゃなくてもいいんだと」

「毛玉はおねーちゃんの研究室とこにいるよー。いつでも会えるし、気になるなら行ってみてもいんじゃないかな?」


せっかく来たんだし、毛玉の様子を見てこようかな。ついでにお兄さんと今日のニュースの事を話してもいいかもしれない。


「そういえばオレ、この前毛玉を見たんだけどさ……聞いてたのが毛の玉って事だけだから、まさか猫だったとは思わなかったよ」

「まーね。あたしたちも猫だったなんて気付かなかったし。ねー?茜ちゃん」

「うん。私も抱いてたのに全然分かんなかったよ」


毛玉と初めて会った次の日に研究所で会った時は、毛玉を見ても気付かなかった。話しかけられてやっと気づいたくらいだし……。

なんか能力を使うと毛が逆立つみたい。話を聞いた時、ちょっとおもしろくて笑っちゃった。


「じゃあ私は毛玉の様子を見に行くよ」

「いってらっしゃーい」

「じゃあな」

「……」


セブンに手を振って毛玉の研究室へと向かう。

向かってる途中の研究室では研究員さんが、それぞれ機械をいじってたり、パソコンに向かって作業してたりと、何だかいつも通りにも見える。

でもやっぱり、襲われた時のために色々準備をしてるんだろうな。

色んな研究室の前を通り過ぎて、ようやく目的の研究室に着いた。


「こんにちは。お姉さんいますか?」

「お、来たのか。毛玉に会いに来たんだろ?今ちょっと忙しいから、探してみて。多分その変にいるから」

「おーい、毛玉いるー?」

(う~ん……お!茜来たのか)


毛玉は研究室の端っこで寝てたみたいだ。この毛玉の反応は私を待っていた——んじゃなくって、私を使って行きたい所があるから、私が会いに来るといっつもねだられてる。


「はいはい……いつものね。すぐ行くの?」

(ちょっと待て。彼女に言ってから行くぞ)

「お姉さん、毛玉を連れて行きますね」

「ん?あぁいつものとこに行くのか。いいぞ、行ってらっしゃい」

「にゃ~ん!」(おう!行ってくるぞ)


お姉さんに聞こえるように毛玉が鳴き声を出して研究室を出る。

——って言うか毛玉お姉さんに躾られたんだ……。最初に来たときなんて、お姉さんの事を彼女なんて呼んで無かったし、私の事だってその時はまだお前とかで名前覚えて無かったし、いつの間にか呼び方が変わってる。

まあ流石に研究室で好き勝手に過ごしすぎたんだろうな……。自分の研究室で好き勝手に過ごされて、お姉さんも怒るよね。お姉さんって怒ったら絶対怖いと思う。自分で考えて少し寒気がしてきた……。


(おい、着いたぞ。早く開けてくれ)


ぼーっとしてたら目的の部屋の前についていた。そして私に開けろと言う毛玉はなんだか偉そうだ。

とりあえずカードを読み取り機にタッチしてロックを解除する。


「そんなに急がなくてもいいじゃん」

(何を言ってる。いい匂いだってするし、ご主人の近くにちょっとでも長く居たいからな)

「いや……お兄さんはずっとここに居るでしょ。ずっと扉の前に居たらいいじゃん」

(扉の前に居たって意味ないだろ。中に入るには茜と一緒じゃないとダメだしな)


毛玉の言う通り、ここに入るには主に研究員の誰かか私と一緒じゃないと入れない。その中でも仲が良い私が選ばれているんだろうか。


(やっぱりご主人の匂いは良いな)


ごろにゃんとご機嫌な鳴き声でお兄さんのお腹の上で丸くなっている。最初に来た時からそこに乗っているから、お気に入りなのかもしれない。


(やあ、今日も来たんだね。一緒に来てるのはあの子か。よく来るけど、よっぽど心地良いのかな)

「まぁそうみたいです……」

(そういえば、この子はまだご主人って呼んでるのかい?)

「そうですね、私が言っても変えなくて」

(んーやっぱりなれないな……でも気に入ってるなら仕方ないか)


毛玉の呼び方にお兄さんは慣れてないみたいだけど、私から言ってもダメだったからあきらめたらしい。毛玉にも悪気があって言ってるわけじゃないし、お兄さんも強く言えないんだろう。


お兄さんと話をしてたら、いつの間にか時間が経っていたみたい。時間はもう五時で今日は用事が無い日だったから帰らないといけない時間だ。


「毛玉。もう時間だから私そろそろ帰らないといけないんだ。早く部屋から出るよ」

(……もうそんな時間だったのか。ご主人、また来るぞ)

(長い間話して疲れただろうし、早く帰って休んだ方がいいよ。……あと今日は用心した方がいいかもしれない。またね)

「はい。また来ます」


お姉さんの研究室まで毛玉を送り届けた時に、何だか変な事を言ってたな。何だったかな?確か——(何だか変な感じがするな。今日は茜も早く帰れ)って言ってたけど、毛玉がそんな事言うなんて珍しい。

それにお兄さんも普段言わない事も言ってたし、ちょっと気を付けた方がいいよね。


「皆まだここに居たんだ」

「おー茜ちゃん。そうか、もう帰る時間なんだね」

「今日は用事も無かったし、寮でゆっくりするんだ」

「そうならさっさと子供は帰んな」

「悪魔さー、茜ちゃんにそんな言い方しないでもいいでしょー?それともこれからやろうとしてる事に巻き込みたくないとか?」

「いや、それは無い。あいつと親しい奴だからな。何か言われたら面倒だし」


最中ちゃんの言う通り、確かに悪魔は何かをしようとしている。わざわざ帰れなんていうくらいだから、よっぽど関わってほしくないんだろう。


「何しようとしてるのさ」

「茜ちゃんに嘘言っても無駄だよー」

「そんな事分かってるって。ちょっとお前と仲が良い人型生命体について調べようと思ってたんだ。ったく余計な事言うなよ」

「なんだそんな事か。私もちょっと気になるし、見てから帰ろうかな」


どうやら悪魔は能力を使ってお兄さんの事を調べるつもりだったらしい。お兄さんは謎も多いし、ちょっと気になってたからちょっと聞いてもいいかも。


「はぁ……仕方無いな。すぐに帰れよ——」

「へぇ、あいつの事調べようとしてんのか。お前面白い事やろうとしてんじゃん」

「え?」


気付かなかった。さっきまで私たちだけだったこの場所に、全く知らない人が突然現れた。しかも私以外の三人も気付いていなかった。


「どうした?早く続きをやってくれよ」

「あの……あなたは誰なんですか?」

「そんな事は後でもいいだろ。お前もぼーっとしてないで続きをやっていいぞ?」


いきなり現れたこの人は軽く喋ってるだけなのに、誰も動けなかった。なんて言ったらいいか……理由があるわけじゃないけど、この人に敵うわけが無いって私はそう感じた。

そして何よりもこの人の姿。白くて短い髪に目は薄い赤い色をしてるように見えて、すごい目立つ感じだし、お兄さんに似てる気がした。

でもお兄さんと違って、この人は目とか髪の色が濁っているような……。


「なんだ続きはやらねぇのか……ま、いいか。それより、あいつここに居るだろ?」

「う~ん……あいつって誰の事?」

「似たような奴がいるはずだが、誰も知らないのか?」


やっぱりこの人、お兄さんを狙って来た人なんだ……。じゃあこの人が世界の研究所を破壊してた犯人で合ってるはず。

何とかしてお兄さんの所まで連れて行かないと、どうなるか分からない。


「はぁー……聞くだけ無駄だったか——」


そう言うと同時に私の目の前で白い光の球体が大きく膨らんでいくのが見えた。

大きくなるまでの時間は一瞬だったし、球体がはじける直前に分かったのは今から死ぬって事だけだった。

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