危険度:暫定レベル1 発掘物

「撮るよー!はい——」

ある者たちは山頂で写真撮影しようとした寸前に……


「あーやっぱり良い眺めだな。少し休憩して——」

ある者は眺めのいい展望台で……


「あれ?あそこにいるのって鹿じゃない?ここに出るなんて珍し——」

ある者たちは登山道で野生動を見つけた際に……


『——六月に入ってから東京都にある高尾山の周辺で行方不明者が続出しています。分かっている限りでは、ここ二週間で八人の行方不明者が出ているようです。警察は他県からの応援やボランティア合わせて数百人態勢で行方不明者の捜索にあたっています』




今日は学校が休みだから外に行くか寮でゲームするか映画を見るか、何をするかあれこれ考えていたんだけど、研究所に来てほしいって呼び出しがあった。

最近は忙しいって言ってたから私が呼ばれるなんて一体何があったんだろう?……そういえばこの前、遺跡発掘の調査に行ってたみたいだし……何か関係があったりするのかな。とりあえずもう約束の時間だから行かないと……。




研究所はなんだか変だった。人は居るのに忙しそうでもなく、慌ててる感じも無い。私がここに来た時と同じような雰囲気だと思ったら、ちょっと暗いような……そうじゃないような……?

そしてメインホールの大型モニターの世界地図は、ヨーロッパにあったいくつかの研究所のマークが赤くなってた。多分壊されたって事なんだと思う。

前に見た時よりも破壊されたところは増えてるのに、皆が落ち着いてるように見えるのが不思議な感じがする。

もうどうにもならないからなのか、それとも犯人の事が分かったのかもしれない。もしかしたら発掘した物が重要な物だったりして。


約束の時間より少し早めに着いたから、おじさんが迎えに来るまでまだかと思ってると、もうおじさんが待ってるのが見えた。今までは私が先に居たのに、こんな事は初めてだった。


「初めてだよね。私よりも先におじさんが待ってるなんて」

「そういえばそうだった。今までは色々やる事があって忙しかったし……でも今日は違ってね。——今日は君に一番重要な事を任せたいんだ」


重要な事なんて最初は冗談かと思ってた。だけどおじさんは真剣な顔をしてるから、流石に私でも本当なんだって事くらい分かる。

でも、私にできる事なんて嘘つきかどうかだし、他には思い浮かばない。……聞いても多分難しい事だと思うから、とりあえずついて行ってもいいかも。

まあ……行った所で私が役に立つなんてあんまり思えないんだけどね。




案内されたのは大きな研究室だった。

人も機械も多い部屋でピリッとした雰囲気の中、ガラスの向こう隣の部屋をみんなが見ている。

それにつられて私もみんなと同じ方を見ると、大きな台の上に何かが乗ってるのが見えた。よく見えなかったから近くに行ってみようとしたんだけど——。


「到着しました」

「よし……始めようか」


おじさんは一言だけ言うと、それに答えたのは今まで見てきた中で一番偉そうなおじいさんだった。

他の人が何かを準備する中で、おじいさんは私と目を合わせて説明をし始めた。


「——君が紅葉茜さんであってるかな?」

「はい、そうですけど……」

「私はここの所長を務めていてね。急なお願いになってしまうんだが、あのガラスの向こう側の部屋に行ってもらいたいんだ」


ここで一番偉い所長さんに命令されたのかと思ってたら、まさかのお願いだった。いきなり向こうあっちに押し込まれないだけいいけど、何の説明も聞かないままあっちに行く気は私には無かった。


「行くのは良いですけど、あの台の上に乗ってるのは何ですか?」

「焦るばかりで説明がまだだったな。……あそこに乗ってるのは先日発掘された物と言えば分かるかな?」

「それならこの前テレビで見ました。光ったって事以外知らないですけど……」

「その光を放ったのは人の姿をしていてね。それが今あそこで横になっているんだ。見てみるかい?」


所長さんの言ってる事はよく分からなかった。発掘されたのが人の姿をしてたって言われても、一体何が見つかったのか。

ガラスに近寄って向こうを見ると、台の上に居たのは人の形をしたものだった。

発掘されたって言ってたから昔の物のはずなのに、すごく綺麗に見える。


「あれが発掘された物だなんて私も最初は信じられなかったよ。それ以上に信じられないのは、あれが作り物ではない事——」


隣で所長さんが説明してるのに、私は台の上から目を動かすことが出来なかった。そして何も言わないで続きを聞いていた。


「——人の姿形をしているのに我々人類とは違う生命体である可能性が高い」

「えっと……人間じゃないって事は、宇宙人って事……ですか?」

「宇宙人なのかは分かってない。我々の技術力ではあれが生命体である可能性が高いという事だけで、生命体だと確定したわけじゃないんだ」


……別にこの人?が宇宙人でも、作りものでも私が呼ばれた意味が分からない。だって私が居なくても調査はできそうだし……。


「私が呼ばれた理由が全然分からないんですけど、ここに来る必要ってあったんですか?」

「もちろんある。これは……君にしかできない事かもしれない」

「私にしかできない事って言われても——」

「——いや、君が何かをする必要は無い。あの発掘物の近くまで行ってくれるだけでいいんだ。……こっちの準備はできたみたいだが、今から行けるかい?」

「行くだけなら大丈夫です」

「じゃあ、始めようか」


いくつもの鍵が開けられると、分厚い鉄の扉がゆっくりと横にずれていき、完全に開くまで時間がかかった。どうせ入るのは私だけなんだから、完全に開けなくてもいいと思うんだけど、それはダメらしい。


「中に入ってもこっちと会話はできるから、気になった事とか気分が悪くなったりしたら気軽に言ってくれ」

「……分かりました」


緊張はしてたけど、不思議と怖くなくて足が止まる事はなかった。

部屋の外から見ても綺麗だったのに、近くに来てみるとさっきよりも綺麗に見える気がする。

白くて長い髪の毛にも、お人形さんみたいな顔にも、土とかの汚れがついてない。


「すごく綺麗なんですけど……これって本当に発掘されたものなんですか?」

『確かに発掘されているよ。記録も残ってる』


着てる服だって昔とは思えないくらいに綺麗に見える。昔の服がどんなものなのか知らないけど。

見れば見るほど変な感じがする。なんて言うか……見ちゃいけないものを見ているような……そんな感じ。


「何か変わった事ありました?特に変わってないなら、戻りた——」


何も変わった感じがしなかったから部屋から出ようとした時、変化が起こったみたいだ。

私にはさっぱり分かんなかったけど隣の部屋にいる人たちの声が聞こえてきた。


『対象から微弱なエネルギー反応を観測!』

『やはり生命体だったか。危険性は……なさそうだな。こっちの機械では変化してるのが分かってるが、そっちでは何か変化は感じてる?』


何にもすることが無いから、壁に寄りかかって話を聞いてるとあっちの部屋では何かが起きてるのが見えるみたい。

でもこんなに近くにいるのに何も感じないのは、私が鈍いって事は無いよね……?


「何にも感じないし、分かんないです」

『そうか……分かった。扉を開けるから少し待っててくれ』

(————困ったな……誰も反応なしか)

「あれ?今何か言いませんでしたか?」

『その声まだ聞こえるか!?』


耳が痛くなるから、急に大きな声を出すのはやめてほしい。

あっちで誰もしゃべってないなら、もうこの人しかいないじゃないか。


(そこにいる君は聞こえてるんだろう?)

「えっと、一応聞こえてますけど……」

(やっと通じる相手が来た……って君が超能力者エスパーだから聞こえてるのか)


どうしよう……何を言えばいいか分からない。隣の部屋を見ても真剣な顔で見てるだけだし、助けてくれそうに無さそう。


「あなたは一体何なんですか?」

(君の質問に答えたい気持ちはあるけど、先に言っておきたいことがあってね。今から話すことを別の部屋にいる人に聞いてもらいたいから、合わせて君も喋ってくれないかな?長くないから簡単さ)

「同じ事を言うだけでいいなら……」

(よし。じゃあ始めよう)


ゆっくりと深呼吸をして、間違えないように集中する。

隣の部屋の方を向いて所長さんと目を合わせると、話が始まった。


「(数日以内に、ボクと似たような奴が来る。もし来た場合、ここまで連れて来てほしいんだ)」

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