勇気の原料

エスカレーターに乗った。泣きそうになった。みんな同じ速度で運ばれていくのが怖かった。そのまま工場に繋がっていれば心配はないけれど、私は苦労しなくていいと思えるほど自分の形を知らない。かといって苦労したいと思えるほど思考に余白を作り出せない。整理整頓が下手なんだ。前に連なる人たちも同じだったらいいのにと思う。同じように不器用な人ばかりか、もしくは宇宙人並みに文化の異なる人たちだったらいいな。みんな同じような厚さの靴を履いているから、望み薄だけどね。そんなことを考えて気を紛らわす。だってすれ違いざまに出生地を訊くには、滞留時間はあまりに短い。しかし好奇心を閉じ込めておくにはあまりに長い。上下をかき混ぜるのに時間がかかるのは、重々承知だよ。だからこそ瞬発的に動ける人だけが、繋がりを更新していけると思う。私にはそのための土台が足りない。弾薬が足りない。だから原料を買ってきて、小分けにして、喉元に詰め込んでおかなくちゃならない。そのためにエスカレーターに乗った。泣きそうになった。

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