異世界俳人ビキニ鎧ちゃん番外編(新年) ーMr. mkー

ひぐらし ちまよったか

第1話

 ――『ミラー・ボール』。


 それは1970年に『アポロ計画』の過程で偶然、月と同じ軌道上に発見された、直径約3メートルほどの『の穴』。

 いわゆる『ワームホール』である。


 この穴がしている宇宙のうち、隣り合ったふたつを繋げている事が実際に確認されたのが、2000年に入った頃。


 ある日、穴の向こう側から何者かが地球のネットワーク内へと侵入し『ペル研究所』のサブ・コンピューター『ISSA』に、ハッキングを仕掛けるが発生した。

 この出来事によって隣接宇宙に存在が判明したのが、と思われる謎の天体『KAC』である。

 現在も続くそのアクセスは、逆に天体『KAC』の細かな姿を、ペル研究所の技術者たちに知らせる結果となった。


 比較的若い天体である『KAC』だが、その外見は、どうも地球によく似ているらしい。

 ――と、言うより。

 いったいどういう理由で、どういった方法を使ったのか不明だが、は自らの姿や環境を、変化させているようなのだ。

 地球は以前から、月軌道の穴を通してに『覗かれ』、『真似され』ていたのかもしれない。

 この地球の、どの辺りが彼の琴線に触れたのか? 研究者の間でも、それは謎。


 しかし、地球が何万、何億年もかけて創り出した自然の造形を、おそらく相当短い時間で『模倣』をし、今の形に落ち着いたのは事実であろうと認められた。

 彼は更に驚くことに、数々の動物や人間までも地球そっくりに『クリエイト』して、その『地上』に生存させているという。



 そんな謎の意識体『KAC』は、インターネットという環境がよっぽど気に入ったのだろう。初アクセス以来『ISSA』を拠点にして、世界中のサイトを検索し、地球をワガモノ顔で自由に遊びまわり始めた。

 ネット上に氾濫する数多くのデーターが検索され、『KAC』の地球に似せたは、日増しに加速を続けていった。


 そして遂に彼は『ISSA』のサーバーへ『画像の配信』までも、始めた。

 『ゴーグル・マップ』にそのまま表示できるフォーマットで、自身のデーターを毎日のように送信、更新し続けて行く。

 それを見た研究員たちは、次々に驚きの声を上げた。

 隣り合った宇宙に、うりふたつの星が出来上がっていたからだ。


 そこには地球の景色が見事にされ、ボールの向こうのにアリゾナの大峡谷や、アマゾンの熱帯雨林がされていた。

 都市や町なども、規模の違いは有るが存在し、そこでは地球と変わらない多くの人々の営みが、イキイキと映し出されていたのだ。


 まるで『映え』の自撮りをアップする『コスプレイヤー』の様な、なぞの惑星の謎の行動。


 研究者たちは躍起になって惑星『KAC』へ直接アクセスする方法を模索し、宇宙の神秘を解き明かそうと数々の試みが、永い間続けられた。


 ――向こう側から覗く『KAC』の目には、地球の姿は、天空に浮かぶ『水鏡』のように見えるのだという。

 むしろ興味を持たない方が可笑しい、とでも言うつもりなのだろうか。




 ――ある時、永遠と繰り返されてきただろう『KAC』の不思議な行為が、変化を見せる。

 興味の対象を地球から、昨年春に発売された日本の『とあるオンラインゲーム』に変えて、積極的にこれのコピーを繰り返し始めたのだ。


 異世界見守りゲーム『はじめてのおせかい』である。



〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



「――この『ウサギ小屋』の様な建物に、の技術者を唸らせる『天才ハッカー』が、住んで居るというのか? アン・ビリーバボー……」


 諜報員『ミスターmk』の、率直な感想である。


 訪れた郊外の建造物は、日本で古くからよく見られる、粗末な外階段、外通路が付いた木造モルタル造りの、二階建てアパートだ。

 その一階の部屋から『米国・ペル研究所』の技術者達が二十数年間、挑み続けて成功出来ていない『KAC・本星』への直接アクセスが、毎日のように行なわれているという。


 にわかには信じ難いが、先日、有名な物理学者『K博士』が出入りしていた、との情報もあり、事の信憑性はグンと上がった。


「――まどろっこしいのは性に合わん。突貫有るのみ」


 ダークグレイの背広に隠したホルスターから、38口径チーフスペシャルを抜き取って装填を確認する。

 銃規制の有る法治国家日本の、郊外とはいえ住宅街。

 こっちが『あんびりーばぼー』だよ、ミスターmk!


「よし!」

 目的の一階角部屋の扉脇に身を潜め、いつでも抜けるよう懐に握把グリップを握り、中の様子を見極める。

 陽が傾き始めたアパート周辺に、人の気配は全く無い。

 室内に灯かりは無いようだが、玄関脇の電気使用メーターがぐんぐんと音を立てて、目まぐるしく回転を続けている。

 木製の合板で作られた粗末な玄関ドアに開く、6インチ四方ほどの擦りガラスの窓に、暗い室内で時折変化するモニターの光らしき点滅が確認できた。

 現在まさに『星間アクセス』の真っ最中なのだろう。

 意を決して壁に寄って、玄関脇の呼び鈴を押した。


「……」


 反応なし! 鳴りもしない……おんぼろアパートめっ!

 仕方なく壁を背に、恐るおそる扉をノックする。まさかイキなり発砲してくる事は無いだろう。


 ――コツコツ。


「開いてるよ~! どうぞ~」


(開いてるだって!? 罠かっ!)


「今、手が離せないんだ~! 勝手に開けて入って~!」


(そ、そんな不用心……有り得ないぞ日本人)


 静かにドアノブを回し、ゆっくりと慎重に……。


(トラップの類は、仕掛けられていない……)


 脇の下に固定されたショルダーホルスターに収まる、小型リボルバーのトリガーガードへ指を添わせ、恐るおそる室内を覗き込んだミスターmkの視線が、夕陽に照らされた綿入れの背中を無防備にこちらへ向ける、あぐらで座った男の姿を確認した。


「――うちはパソコンは有るけどテレビは無いから『え〇エッチ系』は見れないよ~! 新聞社勤務だから新聞は取ら無いし、洗濯もコインランドリー使うんで洗剤いりませ~ん!」


 小物が散らかる暗闇の室内にナデシコ色の髪の少女の後ろ姿を大きく映し出し、おしりを見上げる格好で、振り返りもせず喋り続ける。


「宗教だったら、おばあちゃんの実家が真言宗のお寺なんで無理で~す、残念! 夕陽が眩しいんで、ドア閉めて帰ってもらえます~?」


 そう言って男は、薄い無精ひげの顔を、ようやくコチラへ振り向いた。


「――えっ!」


(自分の背中が狙われていた事に、いまごろ気が付いたのか? たしか地方新聞社のジャーナリストだと聞かされていたが……)


「が……が、ガイジン、さん……?」


(……そこかよ)


「――え、え、え……excuse me. I am lonely japanese. excuse me - excuse me.(チョットすみません。私は孤独な日本人です。チョットすみません……ちょっとすみません)」


「――日本語、分かりますよ……落ち着いて下さい」


 ミスターmkは、深いため息とともにホルスターの拳銃から手を引き戻し、肩をすくめた。


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