第7話 俺の配下だよな?

 アズに脅され、アンゴラージが敵のいる方へと走っていった。


「可哀想だろ」

「あんたは甘すぎるのよ! あいつだって魔物なんだし、敵の一匹や二匹、倒してこいっての!」

「あ、逃げ帰ってきた」

「早すぎでしょ!?」


 アンゴラージが猛スピードでこっちに戻ってくる。

 その後を追いかけてきたのは、人間の子供と大差ないサイズの人型の魔物だ。


「グギャギャギャギャ!」


 緑色の肌と醜悪な顔つき、そして耳障りな叫び声は、ファンタジーでは有名な魔物である。


「ゴブリンか」

「はぁ、ゴブリン程度に逃げ出すなんて……」


 溜息を吐くアズだが、これはなかなかピンチかもしれない。


 俺は勇者とはいえ、ジョブが【穴掘士】で、戦闘力など皆無。

 アルミラージもまったく戦力にはなりそうにない。


 もちろん女の子のアズに、戦ってもらうわけにも――


「燃え尽きなさい」


 ゴウッ! とアズの手から放たれた炎の塊がゴブリンに直撃。


「ギャアアアアッ!?」


 全身が炎に包まれたゴブリンは絶叫し、そのまま黒焦げになってしまった。


「いや、戦えるんかい!」

「ふん、ゴブリンごとき、あたしの相手になるわけないでしょうが」

「そうじゃなくて。だったら最初からそう言ってくれよってこと」

「なに言ってんのよ? ダンジョンマスターとして、配下の魔物に戦わせるのは当然でしょ」

「お前はダンジョンマスターじゃないだろ」

「うっ……」


 相手はゴブリンとはいえ、こうも容易く瞬殺してしまうなんて、もしかしてアズは前世でそれなりに強い魔族だったのかもしれない。


「待てよ。つまり、アズにどんどん魔物を倒してもらえばいいってことか」

「なっ!? 何でそうなるのよ!?」

「だって今、ダンジョンマスターとして、配下の魔物に戦わせるのは当然だって言っただろ? アズは俺の配下だよな?」

「そ、それはっ……」


 俺はシステムに質問する。


「侵入生物って、どれくらいの頻度で現れるものなんだ? 正直、ダンジョンと言ってもただの洞窟と一緒だし、中に入ろうなんてあまり思わない気がするんだが」

『一般的にダンジョンの持つ魔力は、魔物が好むものです。そのため、ただの洞窟よりも魔物が侵入しやすくなっています』

「そうなのか。とはいえ、可能なら中に誘き寄せた方がいいよなぁ」


 まぁその辺はおいおい考えるとして。


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 レベル:1

 ダンジョンポイント:50

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「ゴブリンを倒したからポイントが回復したな。……よし」








「「「「「「ぷぅぷぅぷぅぷぅぷぅぷぅぷぅぷぅぷぅぷぅぷぅぷぅぷぅぷぅ」」」」」」

「何でこいつばっかり増やしてるのよおおおおおおおおおおっ!?」


 ダンジョン内をモフモフと動き回る無数のアンゴラージたちに、アズが絶叫する。


「ゴブリン相手にすら逃げ出す雑魚だって分かったばかりでしょ!?」

「可愛くて、つい。どのみちレベルを上げるには、ポイントを使わないとダメだしな」

「せめてもっと強いのを作りなさいよ!」

「まぁでも、戦力はアズがいれば十分だろ? それよりこれ、すごく気持ちいいぞ。お前もやってみろよ」


 アンゴラージたちの毛の中に身体を埋め、俺はアズを手招きする。


「や、やらないわよ!」


 そう言って顔を背けながらも、アズはチラチラと目だけでこちらを見ていた。

 本当は彼女もこのモフモフの海に浸りたいのだろう。


「素直じゃないなぁ」


 俺が見ていると恥ずかしいのかもしれない。

 少し一人にさせてみようかな。


「お腹が空いてきたし、街で何か買ってくるよ」


 そう言ってダンジョンを出ようとすると、アズが不思議そうな顔で聞いてきた。


「ちょっと待ちなさい。あんた、ダンジョンから出ることができるの?」

「え? そりゃ、出れるんじゃないのか?」

「ダンジョンマスターは普通、ダンジョンの外には出られないはずなのよ!」

「そうなのか?」


 システムに確認してみると、


『はい。本来、ダンジョンマスターとして迷宮神が用意した魔族であれば、ダンジョンを離れることはできません。ただし、今回のようなイレギュラーによってダンジョンマスターとなられた場合、出入りが自由になります』

「それはありがたいな。ずっとこんな土の中にいるなんて、正直気が滅入りそうだし」


 と頷いたものの、すでに長時間いるにもかかわらず、今のところ平気である。

 ジョブが【穴掘士】だからだろうか?


『なお、作成した魔物も外に出ることが可能です』

「えっ、そうなのか?」


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