第6話 すごいモフモフだな

 直径三十センチくらいのモフモフの白い毛玉が現れた。


「ぷぅぷぅ!」


 しかも変な鳴き声だ。


「……何よ、こいつ?」

「さあ?」


 身体が僅かに上下しているので、生きているのは間違いない。

 よくよく見てみると、毛の中に目や鼻らしきものを確認できた。


『アンゴラージというウサギの魔物です』


 と、システムが教えてくれる。

 完全にアンゴラウサギである。


「これが魔物……? いや、見かけによらず、意外と強いのかも……?」

『能力は特にありません。攻撃手段は突進です』

「突進しても、このモフモフの身体じゃダメージなんて与えられない気がするんだが」


 アズが咆えた。


「何なのよ、この明らかに雑魚そうな魔物はあああああああああああっ!?」


 その声に、アンゴラージがビクッとしてしまう。


「おいおい、可哀想だろ。ほら、怖くないから」


 目をウルウルさせているアンゴラージを手招きすると、恐る恐る近づいてきた。

 そのまま抱きかかえてやる。


「おお~、すごいモフモフだな」

「ぷぅぷぅ」

「? もしかして鳴き声?」

「ぷぅぷぅ」


 どうやらアンゴラージは「ぷぅぷぅ」と鳴くらしい。

 見た目も鳴き声も可愛らしいやつだ。


「こんな可愛い生き物を、何匹でも簡単に作り出すことができるってことか? 最高だな。よし、残りのポイントをすべて使って――」

「ちょっと待てい! あぎゃっ!?」


 俺の頭をチョップしてきたアズが、罰を受けて悲鳴を上げる。


「こんなのでも罰を喰らうの!?」

「みたいだな」

「それより、そんな弱そうな生き物、量産してどうするのよ!? 何の役にも立ちそうにないじゃない!」

「いやいや、そんなことはないぞ」


 俺は目をウルウルさせているアンゴラージの頭を、優しくなでなでしてやりながら、


「ほら、見てみろ、この可愛さ。すごい癒し効果だろう?」

「ダンジョンに癒しとか要らないでしょ!?」

「そんなにかっかしてたら、絶対ストレスが溜るって。ちょっと抱えてみろよ」


 俺はアンゴラージを無理やりアズに渡した。


「た、確かにすごいモフモフしてるわ……って、これじゃ攻撃力も半減するでしょ!」

「ぷぅぷぅ……」


 哀しそうに鳴くアンゴラージ。


「うっ……そんな鳴き声出したって、あたしの評価は変わらないんだからっ……」

「ぷぅぷぅ……」

「……も、もういいでしょっ!」


 このままだとその可愛さに陥落してしまうと思ったのか、アズは慌てて俺に返してくる。

 よしよし、そのうちデレそうだな。


「にしても、こんな魔物が生まれるなんて……迷宮構築も要らないものばかりだし……どう考えても、こいつにダンジョンマスターの才能なんてない……終わったわ……あたしの来世……」


 アズが地面に両手両膝をつき、この世の終わりのような顔で絶望している。

 と、そのときだった。


『警告。ダンジョン内に侵入生物です』

「マジか」


 マップを確認してみると、入り口付近に、敵対的な存在を示す赤い丸があった。

 ちなみにアズやアンゴラージは、黒い丸でその位置が表示されている。


「うーん、もうちょっとダンジョンが育つまで待ってほしかったな」


 こちらの戦力は、いま生み出したばかりのアンゴラージただ一匹。

 何がダンジョン内に侵入してきたかは分からないが、正直、撃退できるとは思えない。


「そんな配慮してくれるわけないでしょうが」


 考えてみたら外の生物が、空気を読んで侵入を遠慮してくれるはずもない。


「入り口を閉鎖しておけばよかった」

『ルールに乗っ取り、ダンジョンの入り口は閉鎖できません』


 あ、できないんだ。


「ぷぅ……」


 状況を理解しているのか、不安そうに震えているアンゴラージに、アズが怒鳴った。


「あんた、なに怯えてんのよ! こういうときに戦うために生み出されたんでしょうが!」

「ぷ、ぷぅっ……」

「敵を排除してきなさい! ほら、とっとと行け!」

「ぷぅ~~~~っ!?」


 アズに脅されて、アンゴラージは慌ててダンジョン入り口の方へと駆けていくのだった。

 可哀想に……。

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