The Cab - One Of Those Nights

 第6作目はちょっとマニアックなところから持ってきました。2004年に結成されたネバダ州ラスベガス出身のアメリカンロックバンド──The Cabです。どうですか、ご存じでしょうか?


 ──えっ、知らない……?


 でもね、彼らのことについて調べてみると、少し特殊な経歴を持っているようで、皆様にとっても興味深いものかと思いますよ。まず、バンドの結成は現メンバー・Alexander DeLeonと旧メンバーCash Colliganが、ネバダ州のLiberty High Schoolで共に音楽を嗜んでいたことに端を発します。そうです、高校生が友人同士で始めたバンドなんですね。


 この時から、デモ音源をMySpaceと呼ばれるアメリカのSNSに投稿し始めていた彼らは、音楽活動の一環としてYouTubeに動画投稿をしていたIan Crawfordというギタリストを加え、その他数名のメンバーと共に2005年から本格的に活動を開始しました。2000年代後半にブレイクを果たしたアーティストにありがちなバイオグラフィーですが、なんだか、今時って感じがしますよね。


 結成初期は、地元ラスベガスで地道にライブ活動をしながら燻ぶっていた彼らですが、同じくアメリカのロックバンドであるBoys Like Girlsのライブに赴いた際に、偶然居合わせたPanic! at the Discoの旧メンバー・Spencer Smithと知り合い、自身のデモ音源を渡したんです。その後、彼の仲介によってデモ音源が同国を代表するロックバンド──Fall Out BoyのPete Wentzの手に渡ると、彼らの才能を認めたPeteの主催するレコードレーベル・Decaydance/Fueled by Ramenと晴れて契約を結ぶことになったのでした。


 なんと壮絶な巡り合わせでしょうか! もしひとつでも運命が変わっていれば、僕は今日この楽曲を紹介することもできなかったどころか、彼らの素晴らしい音楽は世に出回っていなかったのですから……。


 余談ですが、The Cabの本格デビューを手助けしたPanic! at the Discoは彼らとほぼ同時期に結成されたバンドで、Fall Out BoyのPete Wentzにインターネットで音源を送り付けてデビューを果たしたという点で、色々と共通点があります。しかし、Panic! at the Discoは活動19年を迎える今年、イギリスでの公演を最後にバンドを解散させることを発表しており、悲しい限りです。The Cabはそこまで似せなくて良いですからね! どうか末永く、僕たちを楽しませてください!


 図らずも色々なバンドの名前を出してしまいましたが、あくまで今日ご紹介するのはThe Cabの名曲です(ちなみに僕はFall Out Boyだと『The Phoenix』が、Panic! at the DiscoだとTaylorとのデュエット曲『ME!』が好きです)。


 The Cabの特徴はR&Bやヒップホップ、エモポップ、ロックを絶妙に融合させた次世代的な音楽性です。多岐にわたるジャンルの音楽を良いとこ取りしようぜーっていう風潮は、最近の流行りなんですかね。そういう意味では、前々回にも紹介したEasy Lifeとも共通点があります。


 小話はこの辺にしておいて、そろそろ『One Of Those Nights』の歌詞を見ていきましょうか。皆さんお手元に歌詞を出してみてください。それでは、参りましょう──。


「解き放たれた俺は壁を這い上がる」

「聞けば俺は逃亡者、指名手配だ」

「置いていくな、信じてくれ」

「俺は王の首を取れる」

「(いや、無理だ、出来ない)」


 おやおや、何だかこれまでの歌詞とは明らかにテイストが違いますね。何処からか逃亡した革命家のような存在が王座を簒奪しようとしているのか、仲間に自分を信じるよう訴えかける反面、心の中ではやっぱり無理だと嘆いている様子が歌われているようです。次のフレーズの意味はこの通りです。


「狂いそうだ、もう何日も眠れていない」

「俺の鏡はお前の肖像画で上書きされて汚れてる」

「置いていくな、信じてくれ」

「お前は俺にとっての病魔だ」


 こんな感じですかね。俺の鏡って何のことですかね。歌詞から推察するにどうも屋内にいる様子ではないので、屋外にある鏡のようなもの、例えばガラスとかですかね。でもそれだと敢えて「俺の」と主張する道理がない。


 思うに、ここで言う「俺の鏡」とは自身の瞳のことで、肖像画とは瞳に映る相手の顔ということですかね。そしてその相手に対して「お前は俺の病魔」だなんて言うのは、革命を志す歌詞の主人公にとって足手まといだということでしょうか。──正直に白状しますが、ちょっと分かりません……。


 ここで一気に曲調変化です!


「俺の武器は壊れた自制心だ」

「その場しのぎの戦いに興じるだけだがな」

「とっとと命令してくれよ」

「お前の愛情に応えるから」

「どうして俺を置いてったりしたんだ」


 あれ、結局置いてかれちゃったのかい主人公くん。ここでは歌詞中の"you"をずっと「お前」と表現していましたが、もしかしたら人ではない説も浮上してきましたね。結局主人公が何と戦っているのかはわからないまま、サビに移行していきます。


「俺はめちゃくちゃだが、お前はもっとだな」

「お前に無駄な時間を過ごさせるだけの時間をくれよ」

「他愛もないある晩のことだ」

「訳もなく俺を置き去りにするなら」

「俺が理由を与えてやるよ」

 

 なんだかしっちゃかめっちゃかになってきましたね。でも、僕個人の見解としては、主人公の戦いの様子は比喩表現で、愛する人にフラれてしまった男による失恋ソングのような気がしてきました。愛情に飢えた主人公が結局置いて行かれて感情がごちゃ混ぜになって混乱する。もう心が離れてしまった「お前」にとっては無駄な時間になるだろうけど、なんであろうと少しでも一緒に居たいから時間をくれといったある夜の話、置き去りにされた理由が分からないから無理やりにでも理由を作って自分を納得させるしかないといった、主人公の苦悩を物語った歌詞だったり──ちょっと無理がありましたかね……?


 2番へ続きます!


「時間が傷を癒すなら」

「お前にヒントを与えてやろう」

「謝罪の気持ちを込めた花束を持って来たんだ」

「俺が体裁を整えたことがわかるように」

「騙されたよ、簡単にね」

「あっさりと投げ捨てられたよ」


 スラングと言うか、慣用句的な表現もあって僕の英語力では少し難しかったですが、どうやら失恋ソングであるという僕の推測は、必ずしも見当違いではないような気がします。この後は既出のフレーズを繰り返すので省略しますが、実際の音楽を聴くと直情的で叫ぶようなボーカルにハイテンポなメロディーと歌詞の内容とのギャップに驚くと思います。日本の恋愛や失恋の要素を含んだ音楽はゆっくりとしたリズムでしみじみと歌われるものが多い気がしますから。


 歌詞紹介は以上です。今回は歌詞というよりも、The Cabという素敵なインディーズ・バンドを知ってほしいという思いの方が前面に出てしまいました。『One Of Those Nights』以外にも沢山の良曲がありますので、この機会に是非聞いてみてください……!


 次回もUSバンドから一曲、何かしら紹介しようと思います。リクエストも受け付けていますので気軽にコメントや感想をお書きくださいな!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はThe Cab - One Of Those Nightsから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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