【リメイク版】第8話 宿命と願い

私には今、宿命がある。かつての戦友…、いや、ライバルであるメノカ・イチノミヤは私の大好きなユウナを無能呼ばわりした。いや、教団のルール破るアンタの方がよっぽど無能だよ!?まぁ、どちらにせよユウナを無能呼ばわりした時点で私の敵。いくら世界一規模の大きいアサシン教団『コントーレル』が全員でかかってこようと3年前の戦争で空いた大穴の代わりになるヤツがいなければ私に勝つなんて到底無理だけどね。


「それで、本当に明日はシエラと『コントーレル』全員と戦うことになったのですか?」

「うん。ユウナを無能呼ばわりした上挑発してきたし…、まぁ、ユウナのかつての仲間ってことである程度の手加減はするけどね?」

「シエラ、あなたは前までそんな簡単に挑発に乗ったりしなかったはずですが…」

「そのはずなんだけどね…。私、どうせホムンクルスだし…。せめて、ユウナのことが大好きでたまらないのだけはプログラムのミスじゃないって、証明したいのかな…?」


自分がホムンクルスであり、本来は感情を持たない者と知ってから涙もろくなったかもしれない。また、涙なのか分からないものが目から溢れた。


「だから、何度も言わせないでください。シエラはシエラです。私の為にシエラが怒ってくれて私は何だか嬉しいです。だから、元気を出してください」

「ごめんね、心配させちゃって。もうすぐ終焉戦争キリング・ヴィィエンデンに向けて準備もしなくちゃだし、ホムンクルスとしてめそめそしてる場合じゃないよね。明日は絶対に勝ってくるよ」

「明日、全力で勝ってきてくださいね。あと、一応ですが、その戦争の件もあるので人は殺さないようにお願いしますよ」

「分かってるよ。さて、今日は疲れたし明日に備えて寝るか」

「はい」



正午くらいになり、昨日の場所に行くと本当に全勢力で来ていた。


「本当にやり合うつもりなのー?怪我で済めばいいけど、無傷では帰れないものだと思ってねー」

「クソ、本当にソロで来るとはな。やっぱり無能に足を引っ張られるのは苦痛か?」

「へぇ、まだユウナのこと無能呼ばわりするんだ。いいよ、地獄を見せてあげる」


私、ユウナのことが好きすぎてこんなことしちゃってるのか…。人間の“恋”ってこんな感じなのかな。


「さ、さっさと片づけるぞ!総員、かかれ!」


メノカの号令で四方八方から雑魚ザコどもが躍り出てきた。ここまでの戦闘はあの戦争以来だけど、なんとなく感覚は思い出せそう。

私は試しに、右手を上に挙げ、右腕全体に魔力をできるだけ流し込んでみた。すると、腕の周りに紫色の魔法陣がいくつも発生してそこからランダムに多種多様な魔法が乱射された。

威力は発射してからも調節できたことを思い出し、当たっても相手が気絶する程度に威力を調整してみたりすると、殆どのヤツは血1滴すら流さず地に伏せた。

ウソ…。私の魔法、強すぎ…!?


「こうなったら、私が直々に倒してくれる!」


誰も指1本私に触れられない惨劇に耐えかねたのか、メノカが真っ向勝負

に出てきたようだ。愛用の長剣の刃先をこちらに向けながら突進してきた。そうだ、ざまぁってなるような負かし方をしよう。そう思った私は魔力がこもったままの右手でその剣先に向かってパンチした。

案の定、剣は粉々に破壊され、メノカの手の中には柄だけが残った。


「化け物が!大戦争を終結させた英雄のクセに死んだことにして逃亡して、挙句その力を乱用して私の大切な剣を…!」


相当大事なものだったのか…。とりあえず、挑発してきた方が悪い。まあ、絡んだ方も悪いのかもしれないけど。


「こうなったらっ!」


何を血迷ったのか、ふところから銃を取り出してそこの道を通っただけの如何いかにも駆け出しって感じの冒険者の頭に突き付けた。


「おい!この部外者を殺してほしくなければ大人しく降参しろ!降参しないならコイツを殺す!」

「それ、だいぶ卑怯じゃない?まあ、私の体を1発で打ち抜けたらお前の勝ち。私は何の抵抗もしないから撃ってみなよ」

「舐めた真似を…!?」


そもそも魔力を使った超爆裂鉄雷弾エクスプロージョンレールガンとか厄災レベルの兵器じゃないと私の体を打ち抜くなんて無理だろうけど。

そんなことを考えてるうちに発砲する音がした。どうせ私の勝ち…、なんて思っていたらグシャッというグロい音がして、胸の辺りが血で汚れていた。

でも、それは飛び血…?

気が付くと、目の前にユウナがふさがっていた。


「ユウナ、何してるの!?死んじゃうよ!」

「シエラだけが私の為に命を張るのはおかしいです。私にもシエラの為に命を張らせてください」

「ねえ、血、止めないと!誰か、テレポートで病院へ…」

「私の心配はいいですから、まずは落ち着いてください。ここは私が片付けます」


そう言いながら、ユウナはダガー1本でメノカのところまで歩きだした。

メノカが何発も連射したが、ユウナは避けたり、時に顔や腕に弾丸をかすらせながら歩いていった。


「馬鹿な!?無能は無能のままだ!お前は偽物だ!」

「いいえ、私は伝説のアサシン、フェリシエラ・ヘルダーを愛し、愛された者、ユウナ・ダファンドル。貴様は悪だ。ここで私が成敗する!」


ユウナは光の速さでメノカに飛び掛かって首を切り落とした…。ように見えた。


「…へ?う、うわぁぁぁぁ!?」

「右手の親指と人差し指、切り落としたのでもう銃のトリガーを引くこともリロードすることもできませんね」

「こんな…、こんなはずじゃなかったんだぁぁぁ!」


そう言いながら、メノカは消滅していった。


「どうやら、本人ではなかった、おそらく影人シャドウのようです。本人はもう、死んでいるんでしょう」

「そっか。…ありがとう、私の為に命張ってくれて」

「それは、シエラも、同じ、です。私の為、に、命を張って、くれて、ありがとう…」

「ユウナ、ユウナ!?誰か、テレポート使える人はいませんか!?」


ユウナは倒れちゃったけど、2人の仲はもっと深まった、かな。


続く

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