第4話

彼は、優しかった。


まず、ゆっくりと、シャワーを浴びたての体にシャツを羽織っただけの、はだかのわたしに。


綺麗だ。


と、控えめにキスをしてくれる。

なぜ20歳のときに抱いてくれなかったの?

あのバーで出会ってから心の中で、体で何度も求めた。その度に下腹部の女の部分はジワリと蜜が溜まって、花は開きたいけれど。わたしは開き方を知らない。果実は食べて欲しかった。ずっとずっと。


シャツを脱がされ、彼に、唇で乳首や首筋、下腹部、あらゆるところをさらりとしたような感触と表面のささくれ。ところどころざらりと引っかかる、男の手で撫でてもらえる。

愛撫だ。大人の女に育ってよかった。彼にも脱いでほしい。触られるだけでしあわせで、はずかしくも心地いいのが。またさらにはずかしい。


貴方も脱いで欲しい。


とろけた蜜が、彼の大事な隠れ家のシーツを汚してしまう。彼になら、舐められても大丈夫かもしれない。しかし、彼はどこまでも優しく、声の出し方も知らないわたしを、上唇と下唇の、わずかなひらきや、皮膚同士の擦れだけで、わたしは。


びくんっ


女の場所から洪水のように彼への愛液が溢れ出す。まだ身体を愛撫されただけで。こんなになってしまうなんて、どうしたらいいの。


俺のどこが、そんなにいい?


彼は心底不思議がっている。まだ何も始まっていないのに、身体を撫でられただけで絶頂を迎えてしまう。どこがいいか。そんなの、耐えられなくて。


おねがい、こんな切ない気持ち、耐えられないっ

はやく、おしえて


もう自分の太ももを持ち、開脚して、溢れ出る蜜をどうにかしてもらいたかった。そんなことはできない。でも


彼が指を一本、差し込んでくる


(いやあっ!!!)


ビクンッ、と今度は痛みから拒絶の痺れと震えを示してしまう。


ここを、触ったこともないのか。


男は23になったわたしの。

自慰行為すら戸惑ってしまう羞恥心。行為への戒めの気持ち。そして、行き場のない快楽を求める狂おしさを、理解してくれた。自分でするのさえ、恥ずかしいのだ、と。


いたかったか、すまなかった。


彼はわたしをいたわる。わたしは、また子供に戻ってしまったの?男女の営みは知っているのに。おねがい、つづけて。そう願う。願いは叶った。彼が、私の中に入れた指を、舐めた。そんなっ、そんなきたない、そこに入れたのも、舐めるのも


嫌だったら、言うんだ。すぐやめるか、別の方法でいく。


指が、また、私の中へ差し込まれるっ、と身構えたら。女性器、言うのも恥ずかしい。その場所を、濡れて滑る中指でこすり、なかでたまっていた愛液をトロトロと流し出してくれる。好きな人に、好きな人の指で、こんなにやさしく撫くり回されたらっ。入り口らしい。そこだけで私はまた、身じろぎひとつできない処女のからだで。

彼の、あの人殺し手前の指で溶かされる。彼は、人を殺さない、下級と言われるマフィアだった。今はそんなことはどうでもいい。噂だからだ。


静かなんだな。


声の出し方が分からないの。


思ったことを言えばいい。


……、はずかしい。


そうだ。


男が、少し笑ってくれた。


普段は、もっと静かだが。せっかくだ。おれも、バーで、もしできるなら、お前を抱きたいと思ってた。


私の事を?


ああ。


嗚呼、うれしいっ


また身体がベッドに横たわりながらビクビクとする。


話していた方が、緊張がほぐれるみたいだな。  


どうして、舐めてから指を入れたの?


ガクガクしながら涙ながらに快感でおかしくなっている。身体が熱くて汗も出て、彼はただ、ほんの一本の、男らしい中指でわたしを撫でるだけで、少し力を込めるだけで、私を大人にしていく。

指が、ゆっくり、私も知らない、私の中へ。

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