第2話

あれから数年が経った。

わたしはまだ、あの人に抱かれたい。

あの人の着ていた服。あの人の声。髪色。隣に座れた幸運。友達にはやめときなって、相手は下っ端だよ。

わたしはそうは思わない。なぜなら昔暴漢に襲われそうで怖くて怖くてしょうがなかった時。

まだ本当に、彼のいう子供な自分。

学生だった自分を、貞操も、なにもかも助けてくれたのが彼だった。髪色が珍しいのでよく覚えている。セーフティの解除、銃口を向ける。それが、見えない。

素人のわたしだからだろうか。銃の構造も知らない。ただ、鈴よりも危険で、鐘よりも美しい、早い音がわたしのこころまで釘付けにした。

その時に恋をしたわけじゃない。

怖くて失禁しそうにも何も出ず、しかし涙も何をされるか分からなかった自分には流せず。

ただ。


助けられた。


それだけが事実。暴漢は危ない人だったらしく、手を頭に組んだままゆっくりと振り返らず去っていった。


だいじょうぶか?大通りまで送ろう。それとも一人で行けるか?


あのとき、なんと答えたか。鞄を握りしめて、気づいたら大通りでまだ震えている自分がいた。

そして。いま。

豊かな黒髪。豊満な肉体。眉を少し整えて描いて、ルージュをひくだけで、誰もが振り返る女とやらに、私は3年くらいでなれた。23歳。少し遅れたが、まだ、女盛り。発情したっておかしくない。

でも。


友達にお願いして、彼氏と貴女の、セックスを見せてと頼み込んだ。ネットのAVは請求が怖いし、可能な限りでいいから。ちょっと遠くから。

服を半端に脱ぎ、舐める、広げる、音を立てる。

それは生々しくて、途中でわたしは吐いてしまった。

わたしはやっと、大人の私になれたのに。

でも、これでAVなんてものを見ずに済んだ。

友人にもその相手にも実技を見せてもらって感謝している。

彼はあのバーに通っている。あの路地は危険だったけれど、わたしだって、3年顔を広くしたのだ。危ない友達もいる。

わたしも、ちゃんと彼を目指して、恋を目指して本職に耐えたりアルバイトをしながらお金を稼いで一杯がとても高い、しかし美味しいあの安全な店に通っている。

今夜は、あの人がバーにくる日、と思う日。

そしてある情報も入手している。


あの人に抱かれるまで、あと

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