006 魔法の国 3日目



 まだ暗い日が昇る前。ガオは、天幕の外に人の気配を感じた。そっと前進して、ピコバールの寝袋を踏みつけた。


(……ピコ)


(踏み殺す気か。起きてるよ)


 天幕の外から声がかかった。王様だった。


「起こしてしまったようじゃの。ほっほ」


「王様。こんな時間になんのご用?」


「きゅうに売り物がほしくなっての」


「売り物は逃げないから。なにが欲しいの?」


「きまっておる麦の穂じゃ。“麦の道”の麦はよい魔法素材になるというのでな。じゃが我が国は財政難で金貨は惜しい。格安で売って欲しいの」


「ピコ。この王様へんだよ。値段の交渉をする時間じゃないのに」


「王様。値引き以前に、麦の穂は売らないといっておいたけど」


「ピコバールよ。旅人がひとり消えたところで世界は困ったりせん。そうじゃろ?」


 王様が杖をかまえた。


「殺す気だ。住民にバレない時間をえらんだのか。ピコ、銃をとって」


「住民に近寄らないよう命じただけじゃ。ファイヤーボール!」


 王様は、火の呪文をとなえた。杖から発生したファイヤーボールは、まっすぐピコを狙う。


「ピコあぶない」


 ガオはダンプで防ごうとした。間に合うものではない。半分寝ぼけのピコに火の玉が当たって彼女を焼いた、そうみえたガオは防御から報復へと、舵を切った。火の玉は弾かれ、天幕の焼き破った。


「ピコ!」


 お盆サイズの土盾“アースシールド”が、ピコの正面に現れていた。火の玉は、土の盾にで弾かれたのだ。


「お、おぬし魔法が使えるのか。」


「使えないなんていってないよ。天幕って高いんだよ王様。弁償してくれる?」


「ぬぬ。銃と短剣をもっとるから普通の商人かと。ええい、とにかく麦を渡すのじゃ」


「ロクなことにならないよ。やめたほうがいいな」


「うるさいっ」


 王様はテーブルの麦をひったくった。見た目よりもずっしり重い麦は、王様の手の中で輝きはじめた。


「なんじゃこれは!」


「だから言ったのに。もうむりだ」


 驚いた王様は、手をふりまわして放そうとするが、麦の穂は離れない。手の中でさらに重さを増していって、ついには、支えきれないほど重くなり、持ちきれなくなった王様は地べたに手を着いてしまう。


「麦の道の麦はね。国で一番えらい人が触れると国ごと吸いるんだよ。知らなかった?」


「離れん……お、重い」


 重さはさらに増えていって、ついに王様の手は麦に潰される。それでも重みは増していき、王様の腕は麦の中に吸い込まれた。


「ぴこ、助けてくれぇーーーぬお、お、おおぉぉ…………」


 王様がぜんぶが麦に吸われた。次に公園が吸われて、あたりの建物も吸われる。やがて全部が吸われて麦穂のなかに収まっていく。そして魔法の国がなくなった。





 風に揺れる麦の草原。丘を越えたむこうに丘が続く。草原の道ゆくのはひとり乗りの軽戦車。小さなダンプに載せたリュックは、ひとりに用にしては大きく、旅をするには小さかった。拳銃と短剣をぶらさげた旅人はピコバールという。


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