004-1 はじまりの国 1日目 ゲート前


「でもなぁ」


 首をかしげるピコバール。人のいる町をみつけた嬉しさで舞い上がったが、いくらなんでもおかしすぎる。


ほこらのなかに町があったとは……いや地面の下と感がるのが現実的だな、なら、上にある空と太陽はどう説明をつければいい? 本物だとすれば別の場所にある地上に転移したと考えるのが自然だが。世界がここに移ってきたのか。いやいやいや、ほくらが麦の大地に転移したってほうがまだ納得いくぞ。だとしたら……あーもう、わからん」


 髪をくしゃくしゃにかきあげると、白いのと黒いのが、パラパラ落ちた。


「言っておくけどフケじゃないぞ」


 ガオは、まったくピコをみていない。初めての町に大騒ぎだ。


「なに? よかったな町だ! もう麦粉だらけにならなくていいんだ」


 ダンプをばったんばったん揺れ動かし、踊るようにクローラを先進後退。くるくる踊ってる。ひとり祭り状態である。


「あてずっぽうの麦の道の旅も終わりだぞ!」


「旅が終わるか。そうだな」


 ふっとため息が漏れる。


 短い旅の終着点があるとすれば城だろうが、その城が消えて麦の大地に落下した。転移したのが自分たちだったとしても、地面が引き裂かれたのは疑いようもない。城や城下が無事であればいいが。


「ピコがため息! 今度はなにを企んでる? どうせロクでもないギャグでも考えたんだろ白状しろ。うりうりっ」


「ウリウリじゃない!」


 リボルバーの銃把で、ガオの画面を小突く。


「イタッ……くはないけど、たたくな。高性能が低性能になったらどうするんだ」


「悩むのがバカバカしくなった。ここはどこのなんという町だろう。回ってみるか」


 少なくとも、あてのない放浪には終止符が打たれたと、ピコバールは気持ちを切り替えて町を眺める。ほとんどの建物が木造の2階建て。店や住宅がキレイに並ぶ、どこにでもありそうな町である。


「景色はふつう。だけど喧騒に満ち溢れてるな」


 町ゆく人々が騒がしい。互いに何かを質問しあっては、「うわー」「おしまいよー」とか嘆いてる。ピコバールたちをガン見する人も多かった。


 誰かに聞こうと見回してると、じっと観察していた男の一団が、ずんずんガニマタでやってきた。緊張感。というよりも怒気をはらんだ目つき。リーダー格の男が、腕組みすると、見下げるように切り出した。


「おい小僧。ゲートから来たな。どうやった」


 躾けのなってない大人だ。初対面の相手に小僧と怒鳴りつけるとは。いつもならやり返すピコバールだが、男に言葉のほうが気になった。


「ゲート?」


 後ろにあるのは祠と同じ形の出入り口。それをゲートと呼ぶらしい。どうなったもなにも、普通に入ってきたのだが。問題でもあるのだろうか。


「司る者とやらが、誰も出られないとせせら笑っていたゲートだぞ。俺たちは出られなかった」


「別の道から出ればいいのでは?」


「別の道? はんっ 道なんか消えてるぜ。町そのものから出られないんだ」


「町から出られない?」


 町が隔離されたということか。それはこの町だけか。ほかの町や消えたか、違う場所に隔離された? 確かなことはここに城はない。わけがわからない。


「うーむ誤算だった」


 誰かに聞く前に、過多な情報を受け取ってしまうとは。男たちも分かっていないようだし謎が謎を呼ぶ展開だ。


「その銃……新品で高そうだな。お前は何者だ」


 別の男だ。リボルバーを気にしてるようだが、堂々巡り思考を邪魔されたピコバールは、ぞんざいだ。内ポケットから名刺とりだした。


「こういうものだ」


「“ほっこらダンス普及協会 会長 ピコバール”」


 「ふざけんな!」 せっかく作った名刺を男は破り捨てた。


「いたって真面目に普及したいのだが」


「そこじゃねぇ!」


「大人を前にしてものおじしないとは。お前、貴族の子供だな?」


 なんだか知らないが、降ってわいたとつぜんの危機。「貴族だ」と正直に答えたら恐ろしい目に遭いそうだ。絶体絶命のピンチ。だというのに満面の笑顔でガオによりかかった。


「ガオ君ガオ君。みたか。男たちにいたぶられる美少女。こんな展開を待ち望んでいたのだよ。ここから主人公が撃退するまでが序盤のテンプレだ。むっふっふ」


 ガオがあきれる。


「撃退には賛成だけどハマりすぎだ。そういや踊ってるときに、銃の説明書きをライブラリにみつけたんだけど。読むか?」


「そういうことは先に言え」


 使い物にならないリボルバーを荷台にほうる。男たちは目を剥いた。


「しゃべる運搬車を連れてるのか。やはりこいつただものじゃねぇ。やっちまおうぜ」


 殺気が高まっていく。5人の相手はそれぞれ武器と呼ぶには弱いが攻撃アイテムを持っていた。刺又、草刈り鎌、切り出しナイフ、大槌、のこぎり。職業がわかる親切設定である。


「ふっ。ぼくをなめるなよ」


 ピコバールは、末姫の相手役として護衛のやり方も叩き込まれてる。こいつらは戦いプロではないから、制圧はかんたん。学んだ授業を思い出す。状況にあわせたバリエーションあったはずだ。



1 敵の目をひきつけつつ大声で衛兵を呼ぶ。

「城じゃないから衛兵なぞいない。これじゃない」


2 敵の中に突入して末姫が逃げる時間を稼ぐ。

「特攻して散れというのか。次だ」


3 敵の攻撃を一身浴びて、その間に末姫を逃がす。

「侍女の命をなんだと思ってる!」



 ぐふッ。ピコバールはその場に崩れた。


「……ほかにもあったはずなのに。きとんと授業を聞いておけばよかった」


「こいつ勝手にダメージ受けてるぞ。やっていいのか?」


 ピコバールは、落ちていた枝を拾って立ち上がった。


「バカにするな。ぼくには秘密の作戦があるのだ。まずはリーダー格を水魔法で転倒させ、その隙をつき、中央を通り抜け、背後から悠々攻撃して勝利する戦法。覚悟しろ」


「こいつバカだ」


 枝を魔法の杖にみたてて、アースウォール……を唱えようとしたとき、リーダー格の男が撃沈した。


「こらっ! 大の男がよってたかってなーにを息巻いてんの。小さな子をイジメて恥ずかしいって思わない? その子ボロボロじゃない。うちに連れて行くわよ」


 小気味よいおかみさんが、フライパンで殴ったのだ。上背のある男たちに一歩もひかない。むしろ押してる。


「だがよぉ。カザリア。こいつは」


「ドンク。女は護るものだっていったあれは寝言?」


「女?」


「汚れちゃいるがドレスだしもとはキレイな髪。気づかなかったらバカだよ。その目は節穴かい。わかったら解散しな……あんたはこっちだ。いらっしゃい。運搬車くんも」


 そう言ってピコバールの手つかんだ。


 地面でうめくリーダー格はいい返せない。ぶつくさいいながら解散する男たちを横目に、ピコバールをひっぱっていった。


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