第34話 ―蒼緒― Call My Name
流唯の遺骨と流歌だった灰を埋葬した小さな墓の前で手を合わせると、蒼緒は二人に謝った。助けてあげられなくてごめんなさい、と。
蒼緒たちが現れなければ、流歌だった〈狼餽〉はずっと人を襲い続けたのかも知れない。それに、椎衣那曰く流唯の病は末期だったのではないかと言う事だった。薬はほとんど効いていなかったのだろうと。
流歌は生前から流唯の薬を町へ買いに行っていて、その習慣を続けていたのだろうとも、椎衣那は言った。効かないのも知らずに。流唯はもう死期が近い事を、流歌に言えなかったに違いない。
流歌だった〈狼餽〉を退治せねば、被害者はもっと増えていたのかも知れない。
だから彼女を――〈女王餽〉を退治した衣蕗を責めるつもりは毛頭ない。衣蕗は特機としての任務を全うしたのだ。
けれど、蒼緒は流歌に自分を重ねずにはいられなかった。
――化け物。
でも、人間の心はある。変態はせずとも自分の血肉は〈狼餽〉で出来ている。
自分は何なのだろう。
答えは出ない。それはこれから自ずと出るのかも知れない。これからも特務機攻部隊として、戦ううちに。
せめてどうか二人が安らかでありますように。
そう願いながら蒼緒は墓の前から立ち上がった。衣蕗もすでに立ち上がっていた。
「行くか」
「うん」
その隣に並ぶ。
今はまだ自分が何なのかはわからない。それでも、衣蕗の〈花荊〉でいられるなら、――衣蕗が蒼緒と呼んでくれるなら、篠蔵蒼緒でいられる気がした。
「どうした、蒼緒?」
「ううん、なんでもない。……でも、」
「うん?」
「衣蕗ちゃんって、〈狼餽〉の血を吸ってるって事だよね? 他の〈狼餽〉の血も吸えるのかな?」
「はあ?」
衣蕗が嫌そうな声を上げる。
「いや、理屈ではそうかも知れないけど、吸いたくないよ。……ていうか、蒼緒以外の血なんて吸う気ないし」
そう言われて心臓が跳ねる。
……衣蕗ちゃんってたまにドキっとする事言うんだよね。――無自覚なくせに。
そう思ってちらりと衣蕗の顔を見て、赤らんでいるのを見て、またもドキっとした。あれ? 無自覚じゃ――ない?
「……わ、私以外の血には、興味ないって事?」
「あ、当たり前だろ!」
「わ、私、〈狼餽〉だよ? 他の人間の女の子とか――」
そう言った時、衣蕗が足を止めた。驚いて蒼緒も足を止めて彼女を振り向いた。その手を衣蕗が取る。
「い、衣蕗ちゃん?」
「怒るぞ! わ、私が、う、浮気するとでも思ってるのか? 私の〈花荊〉は蒼緒だけだ!」
そう言って、ぷいっと顔を背けてしまう。その顔は耳まで真っ赤だったし、手はぎゅっと繋いだままだ。
う、浮気って……。そう言えば、好きって、こ、こここここ告白――されたんだ、よね? いいんだよね?
途端に蒼緒の顔も真っ赤になる。嬉しくて死にそうだ。いや、せっかく助かったんだし告白されたんだし死なないけど!
蒼緒もその手を握り返した。衣蕗もまた握り返してくれる。
「あ、蒼緒……」
「い、衣蕗ちゃん……」
ちらりと衣蕗を見上げると、彼女もこちらを見ていて。……あれ? これってなんかいい雰囲気だったりする? ――と思った瞬間に、手を引かれた。
「蒼緒――」
引き寄せられる。彼女の綺麗な顔が近づい――
と思った時だった。
「衣蕗――。蒼緒――。もうそろそろここを発つわ――……って、あら、お邪魔だったかしら?」
雪音がこちらに来るところだった。
慌てて二人して離れる。
「あら、いいのよぉ、私の事は気にしないで――」
「気にするわ! あほ雪音!」
「いいわね、新婚さんはぁ――。どこでもいちゃいちゃし放題で」
「そっくりそのまま返しますよ?」
衣蕗と蒼緒でやり返すが、当然気にも留めない。飄々として紗凪のところへと戻って行く。
蒼緒たちはそろってため息をつくと、行くか、という衣蕗の声で歩き出した。――が。
手を後ろへ引かれて、振り向いた瞬間。
「んっ、」
キスをされた。
耳を真っ赤にして衣蕗が歩き出す。
……心臓が飛び出すかと思った。
蒼緒はその背を追った。
「待ってよ、衣蕗ちゃん!」
「い、行くぞ! ――蒼緒!」
貴女が名を呼んでくれるから、私は。
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