第27話 ―紗凪― What's Up with That?

 紗凪が目を覚ますと、頭痛がした。目の上がズキズキする。

 声が聞こえた。

 

「……紗凪っ! 紗凪っ!」

「……先輩……?」

 

 視線の焦点を合わせると、雪音が目の前にいて、こちらを覗き込むようにして泣いていた。

 ……先輩?

 

 ――と、記憶が甦って来る。そうだ、悲鳴が聞こえて駆けつけようとしたら、母家で人の声が聞こえて覗き込んだら、流唯にサブマシンガンで殴られたのだ。

 額に手をやったら、ぬるりとして、その瞬間ズキリと強く痛んだ。手を見ると血で濡れていた。殴られてよろめいてかまどにぶつかり、脳震盪を起こしたのだ。

 

「ごめんなさい、先輩、僕――」

「紗凪……良かった。吐き気は? 手脚の痺れは?」

「……いや、大丈夫、かな。それより何がどうなって……」


 周囲は血生臭く、足下には野犬の死骸が折り重なっていた。これほどの数の野犬に襲われていたら、一溜りもなかっただろう。

 雪音が言った。

 

「椎衣那と澪が来てるようなの。それに〈狼餽〉が――いえ、〈女王餽〉が現れたの」

「え?」

「正体は――流歌らしいの」

 

 それを聞いて、身体が震えた。流歌? 流歌ちゃんが? じゃ、蒼緒ちゃんは――?

 とっさに蒼緒の事が思い浮かぶ。彼女は流歌を可愛がっていたから。

 

 とにかく現状を理解したい。母家の外で話し声がする。雪音に起こしてもらいながら、玄関から外を見た。

 巨大な〈狼餽〉が倒れていてそれに流唯が覆いかぶさっている。蒼緒が血を流して倒れ、衣蕗が抱き抱えていた。奥で澪が立ち尽くしている。そして――


 絶句した。


 椎衣那が衣蕗に銃口を向けていた。


 なんだこれ?

 隣で雪音も絶句している。

 ……が、紗凪はある事に気づいて声を上げた。


「流唯さん!」


 流唯が懐から薬瓶を取り出し、自分に、〈狼餽〉に何か液体を振りかけているのが見えた。そして着物の帯に挟んでいたマッチを擦る。

 その瞬間、彼女が、〈狼餽〉が、激しく燃え上がった。

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