第24話 ―椎衣那― Deadly Poison

 椎衣那しいなは蔵をぐるりと回り、母屋の玄関を目指した。後ろから蒼緒あおが駆けてくる。

 ライフルの射撃音が聞こえる。それから獣の声も。〈女王餽〉の啼き声につられた野犬だろう。片目が見えない椎衣那にとっては動く的である野犬は、分が悪い。

 ――が、銃声が止む。

 すると、玄関から女性が飛び出して来るのが見えた。

 おかしい。この屋敷には妹と姉しかいないと聞いた。姉は〈女王餽〉で、衣蕗と戦っているはずだ。

 

流唯るいさん……!?」

 

 案の定、後ろから蒼緒が驚いた声を上げる。

 どういう事だ。

 流唯――と呼ばれた女性がこちらを向く。手にはサブマシンガンを持っている。

 

「流唯を捕まえて!」

 

 母屋から声が聞こえた。雪音だ。

 その声に弾かれたように銃口をこちらに向けようとするが、それがこちらを向く前に、銃身を押さえて銃口を逸らし、足払いして倒れたところを押さえ込む。ひどくあっけない。

 ――流唯は人間だ。

 ……が。

 

「っ!」

 

 気を緩めた瞬間、肩口に何かを刺された。

 

「……注射器?」

 

 その時、流唯の着物のたもとから何かが落ちた。瓶だ。薬瓶。だが銘柄までは見えない。

 何を注射された?

 

「……致死量の猛毒よ!」

 

 びくりとした。その瞬間、流唯が拳で殴るようにして注射器を押し込んだ。針が肉を抉る。

 

「っ!」

 

 痛みで怯んだところを流唯が逃げる。あっと思った時には、ふらふらと足元が覚束ないまま蒼緒に飛びかかっていた。

 

「流唯さん……!?」

「貴女さえいれば、流歌は……っ」

「!?」

 

 流唯が蒼緒の首を締めるのがわかった。

 椎衣那は注射器を引き抜くと、ハンドガンを流唯に向けた。瞬間、ドッドッと鼓動が速まるのを感じた。震える手で膝下を撃つ。

 

「ああああっ!」

 

 流唯が悲鳴を上げた。そして悲鳴にも似た声を上げた。

 

「流歌、逃げて!」

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