第16話 シームレスなナレッジの提供

2023年10月2日、リコージャパンは「ナレッジワーク」を導入すると報道された(https://saleszine.jp/)。


リコージャパンの専務執行役員は、


「シームレスなナレッジの提供」ができるようになると語った。


「ナレッジワーク」は、あくまでもシステムの名称(商品名)なので、そういうものだと理解できるだろう。


しかし


「シームレスなナレッジの提供」


には、ちょっと日本語としてどうなん?


と違和感を持たれる方もいらっしゃるのではないか。


「途切れることのない知識の提供」


ではなく、


「シームレスなナレッジの提供」


と表現することに意味はあるのか。


いや、専務執行役員氏は、別にカッコつけたくてこのような表現を選んだのではない、と断言したい。


・シームレス(seemless)


seem(縫い目)がless(ない)のだから、途切れることが無い、スムーズに物事が運ぶ、という意味も含有するし、ビジネス用語として便利な語彙であるには違いない。


支障なく、スムーズに、滞りなく、順調に、継続的に、


ぜんぶ「シームレス」と言っておけば済む。便利だ。



・ナレッジ(knowledge)


知識を意味するこの言葉。ビジネス用語としては、もうちょっと意味が深い。


知識は知識でも、ある組織の中でコツコツと積み上げられてきた独自の知見だったり、長年の経験、試行錯誤の蓄積からくる重要な情報だったり、ビジネスにおいて最重要となる知識のことを「ナレッジ」という。


たとえば「犬=dog」というのも、知識には違いない。しかしビジネスにおいてはこれを「ナレッジ」と呼ぶわけではない。


例えば、これから学習塾を起業するとしよう。


次のような知識のことを「ナレッジ」という。


・銀行から融資を引き出すための事業計画の書き方

・小部数でも問い合わせが確実に来るチラシの作り方

・最初の1人目の生徒をいかに大切にするか

・成績の上がらない生徒との向き合いかた

・保護者が納得するクレーム対応の方法

・顧客管理と成績管理のデータベースシステム構築


これらは、知識は知識でも、誰でも知っていることではないし、その仕事を長年経験してきた人でなければ到達できない「知見」が含まれている。


ではナレッジは「専門知識」でよいではないか、とも思うが、専門知識の中でも、その中でもやはり特別な知識なのだ。


ワインの世界でいえば、


同じフランスのワインでも、ボルドーとブルゴーニュ、それぞれワインの味わいが違う。どちらにも、それぞれの「良さ」がある。その違いに関する知識は「専門知識」だ。


しかしそれを「ナレッジ」と呼ぶには、あまりにも浅い知識なのだ。ちょっと調べればわかるし、実際、飲めばわかる。畑の土や気候の違いで、味わいが大きく変わる。


しかし、次のような専門知識は「ナレッジ」と呼べる。


・香りを嗅いで、ほんの一口、口に含んだだけで、ボルドーのどこの畑の、何年に作られたワインか、銘柄を当てられる。


・土を口に含んで、この土はブルゴーニュのどこの畑の、何というワインの原料か、銘柄を当てられる。


ウソみたいな話だが、ほんとうの話だ。これは紛れもない「ナレッジ」だ。


専門知識の中でも、その中でも特に貴重な専門知識は「ナレッジ」と呼んでいい。


ということは「業務遂行上大変重要かつ大変貴重な知識」なんて表現するよりも、「ナレッジ」と呼んでしまった方がはやい。


だから、


何でもカタカナにしやがって!


と文句を言う前に、


なぜ、その語彙が外来語として定着したのかを考えるべきだ。


さて、ここまできて、


シームレスなナレッジの提供


という言葉が、働く人たちにとってどれほど重要な事柄なのかが見えてくる。


例えばプロの料理人を志すなら、昔なら、中学卒業後には修行に入って、何年も何年も師匠のもとでコツコツと下働きをしなければならなかった。


理不尽な仕事を押し付けられながら、安月給にあえぎながら、先輩や師匠たちの技を盗み取るしかなかった。


ところが、職人たちの「ナレッジ」は、いまや共有されて「調理専門学校」に2年間通うだけでも、相当のスキルや知識を身に着けられる。


学校も商売なので、より重要な「ナレッジ」を学生たちに提供していかないと、発展できない。


また料理人の世界も、かつてのような方法では通用しないと、しっかり教え、育てる環境ができているという。


こうして日本の料理人の平均レベルは、段々と向上している現状がある。個人の見解だけれども。


ビジネスにおいて、いかに「シームレスなナレッジの提供」が重要か。


カタカナ語を乱発する風潮に、眉を顰めるのはわかる。


だって、わからないんだもん。


でも、そこで敬遠するのではなくて、


なぜそこは、カタカナでなければいけないのか、


調べる


考える


納得する


受け入れる


活用する


そうすることで、私たちの語彙力は更に豊かになるでしょう(^^)/


すごい語彙。

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