第10話 等閑-防衛相の闇

 等閑とうかんとは、物事をいいかげんにすること。「等閑なおざり」とも読むから、日本語を外国語として学ぶ方々にとっては理解に苦しむだろう。「等閑とうかん(附)す」や「等閑視とうかんし」という用いられ方もする。


 「かん」は、元々は「しきり」のこと。門の間に木を置いて、他からの侵入を防ぐものだった。それがいつからか、同じ音の「かん」に通じて、「ひま」や「のどか」という意味を持つようになった。ちなみに「閒」とは「間」のことである。なんで日と月で違うのに、同じ意味の言葉なのか。これは今回のテーマから外れるため省く。


 この言葉が漢籍で用いられた記録は古い。かつては「等」とも表記されていたようだが、唐の時代、白居易の「琵琶行」という詩に、すでにもう「等閑」の表記がみえる。

 

 秋月春風等閑度(秋月・春風、等閑にわたる)


―――秋の月も春の風も、何にも考えずにのほほんとやり過ごす


 「等閑」さんも、歴史の古いことばなのである。


 さて、今回の副題に「防衛相の闇」と記した。


 実は、個人的に、自衛隊のファンである。戦争を賛美しているのではない。生まれ育った土地が、自衛隊基地の近所(陸上自衛隊明野駐屯地)で、幼い頃から自衛隊に慣れ親しんできたからだ。日々あたりまえのようにヘリが飛び回っていた。


 年に一度「航空祭」というお祭りがあり、対空砲や、重火器類の見学、当時最新ヘリだった「アパッチ」のシミュレーター体験、更には輸送ヘリに乗せてもらって、伊勢湾上空をぐるっとプチ旅行させてもらったこともある。


 生まれ育ったまちには、当然、自衛官が多くいた。先輩後輩同級生も、数多く自衛官になっているし、教え子にも自衛官は多い。


 それで自衛隊を好きにならないなんて、そんなわけはない。大好きなのだ。


 しかし今回あえて「闇」という言葉を使ったのは、気になる記事を見つけたからだ。


 といっても初出が2014年というとても古い記事なのだが。


 住友重機が、世界的な標準の4倍ほどの価格でデータ偽装した、暴発の危険性が高い不良品の機関銃を、何と40年間、自衛隊に納入し続けていた。それが発覚しても、住友重機へのペナルティはあり得ないほど軽微なものだった。


 そして別の記事になるのだが、2021年、住友重機は、独占していた機関銃の生産から撤退したという。


 更に、住友重機の機関銃生産に関するデータは、下請けの子会社を通じて、中国へ流出していたのだそうだ。


 これらはすべて「東洋経済オンライン」(https://toyokeizai.net/)から記事として見ることができる。ここは自衛隊をディスり放題(https://toyokeizai.net/category/defense)だが、自衛隊消滅しろ!と言っているわけではなく、日本の防衛はこれでいいのか?という問題提起をちゃんとしてくれている点で、読むに値すると信じている。


 住友重機という法人に所属し、社会のため、家族の生活のため、推し活のため・・・理由は何でもいい・・・日々精勤されておられる方々をひとまとめにして「お前ら~」と責めても仕方がない。


 しかし防衛相が、長年、独占的に住友重機という特定の企業と蜜月関係で、自衛隊員の命を危険に晒す(結果、国民を危険に晒すことになる)不良品を、40年間もの間、相場の4倍近いぼったくり価格で購入し続け、バレたら軽微なペナルティで終わらせた「闇」を、このまま、「等閑視」してよいのだろうか。


 しかも機密データが中国にダダ洩れだったって。どういうこと。


 こういうことを忖度なく、記事として提供してくれる「東洋経済」は、有難いし、こういう言論を弾圧しない、という点で、日本はやっぱり、いい国だぜ、とも思う。


 でも、これ、もっと大きな問題として取り上げられてもいいんじゃないか。住友重機で働くすべての人たちが悪いわけじゃないし、防衛相で働く人たちが全員、ダメなわけじゃない。


 だからこそ、余計に、こんなひどいこと、


防衛相:「ちょっとだけペナルティね」


住友重機:「あっ、ごめーん株主様、罰金払ったけれど少額だし、経営には影響ないからね」


住友重機:「あっ中国に機密情報バレてたのバレた?ごめんねー」


住友重機:「もう作るのやーめた」


終了


 え?防衛相?それでいいの?


 住友重機もヤバいけれど、防衛相の「闇」もヤバい。


 あ、「ヤバい」を使うと、すぐに「語彙力の低下がー」と文句言う人いるけれど、


それを言うなら、清少納言に、


―――「あはれ」と「をかし」ばっかり。これでは語彙力の低下がー


と言ってあげて下さい。


 これを「防衛相の弱腰体質」と見るとして、それはそれで不安だし、あるいはもっと怖い「闇」がそこにあるんじゃないかって考えると現在の東アジア情勢を考えても、不安だし。「ヤバい」って言っちゃうよ。


 ところで、


 等閑と書いて「なおざり」と読む。もうひとつ「おざなり」という紛らわしい言葉もある。この違いについても、いつか取り上げたい。


(参考)

東洋経済オンライン(https://toyokeizai.net/)

『大漢語林』(大修館書店)


 

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