第3話 ウルの正体
突然の呼び捨てに私は動揺をグッと抑えて平然とした態度でウルのことも呼び捨てしたが、ウルは動揺など全くせず「はい」と微笑んで返してくるのだった。
くっ……何だか私だけやけに動揺させられている気がする。
「イリスさん、そしたらいつ実施するかは決めていますか?」
「えっと、なるべく早い方がいいですけど、ウルさんの方の準備もあるのでどうしようかと思っています」
「でしたら、俺の方は早くて明日には準備が出来るので、明日以降ならいつでも大丈夫ですよ」
早! そんな直ぐに準備出来るとか、ウルさんの知り合い凄すぎでは? というより、そんな人と知り合いのウルさんが凄いのでは?
私が少しあ然としていると、ウルの方から決行日を提案して来てくれた。
「そうですね、でしたら三日後はどうですか? イリスさんがお母様たちにも伝えたりする時間も考慮して、一番早い日だとそのくらいだと思いますけどどうですか?」
「え、あ、はい。三日後ならたぶん大丈夫です。今日お母様に伝えれば、急だと言われるかもしれないですが対応してくれるはずですので」
「では、決行は三日後ということで。時間は十時頃でいいですか? 俺の方からイリスさんの屋敷に伺わせていただきます」
「えぇ、それで構いませんけど大丈夫ですか? お願いしておいてあれですけど、急に準備とかもお願いして、いきなり貴族家に来てもらうなんてウルさんからしたら、辛くないですか?」
「本当にイリスさんはお人好しですね。俺のことは気にしないでいいんですよ。俺でいいと言ってくれたから引き受けているんですから」
「それならいいんですけど」
「ここで出会えたのも何かの縁ですし。一日だけでも貴族令嬢の婚約者を演じられるのは俺からしたら光栄なことです。なので、本当に気にしないでください」
私はそこまで言われ、自分から頼んでおいてまたウルに気遣われたと思い少し反省した。
自分で言い出したことなのだから、自分がしっかりしないでどうするんだ!
せっかくウルさんが引き受けてくれたんだ、絶対に成功させないと。
「それでは俺は今日から準備をし始めますので、また三日後にハーノクス家の屋敷でお会いしましょう」
「はい、よろしくお願いしますウルさん」
そうして私はウルと別れ、私も色々と準備をしなければと思い急ぎ足でヴィオラの元へと戻った。
あ、そういえばウルさんのフルネーム聞かなかったな……まぁ当日は呼び捨てって決めたし、問題ないか。
合わせてくれるって言ってたし、そこはウルさんに任せよう。
――それから三日後。
お母様たちと偽の婚約者であるウルとの顔合わせ当日、私はそわそわしながら自室で待っていた。
時刻は九時四十分であり、ウルとの約束の時間まで後二十分という時だった。
あーダメだ、何か凄く緊張して来た……落ち着いて座ってられない。
私はたまらず立ち上がり、部屋の中をウロウロとし始めた。
お母様に伝えた時は予想通り、急すぎると言われてしまったがそれでも会ってくれるといってくれたのは良かった。
ヴィオラにはもう少し相手の詳細を求められたが、私もそこまでウルのことを知っていなかったので印象と教えてもらったことだけ伝えた。
一応は納得してくれたがヴィオラはウルのことを少し警戒しており、もう少し自分の立場を理解して勢いで行動し過ぎないようにと注意されてしまった。
確かに私も色々とウルのことを信用し過ぎて話し過ぎたとは思っているが、ウルが悪そうな人には話していて思えなかったのだ。
私も反省して、次からはもう少し冷静に勢いで行動しないようにしようと思ってはいる。
そんなことを考えていると、突然部屋の扉がノックされたので返事を返すと、慌てた使用人が扉を開けて来た。
「ど、どうしたんですか?」
「イイ、イリスお嬢様、ああ、あの方が本当に婚約者様なのですか!?」
物凄く動揺している使用人に私は軽く首を傾げて、ウルが来たのかな思い「そうですけど」と返すと使用人は「そ、そうですか……」と口にした。
すると使用人は気を取り直して、一度失礼な態度をとったことを謝罪してから婚約者がお見えになったと教えてもらう。
「分かりました。もう、お母様の所に?」
「はい。ミラー様の元へ現在案内中です。ですので、イリスお嬢様もミラー様のお部屋へと移動お願い致します」
私は使用人の言葉に頷き、移動を始めると使用人は後ろから私について来ており、お母様の部屋の前に到着すると使用人が部屋をノックしてくれた。
そしてお母様から返事が来ると、使用人が扉を開けてくれ私が一礼してから部屋に入るが、まだ部屋にはウルの姿はなくお母様とお父様だけであった。
「それでイリス、貴方は一体どういうつもりであの相手を連れて来たのですか?」
「? もうお会いになったのですか?」
「いいえ、使用人たちから聞いたのよ。で、何を言われたの? 脅されているの? 何かされたの?」
次から次へと来るお母様からの質問に、私は何が何だか分からず混乱しているとお父様が一度お母様に落ち着く様に声を掛けてくれた。
「イリス、まずはどういう経緯で婚約することになったか教えてもらっていいかい? これまでイリスから何にも教えてもらえてなかったからね」
「何を悠長なことを言っているのあなた! それどころではないですよ! 相手はあの人なのですよ! イリスが騙されているに違いないのよ!」
「気持ちは分かるが、イリスの話も聞かないと状況が」
「状況もなにもないですわ! あーもうどうしてこんな事に……」
そういうとお母様は頭を抱えてしまい、お父様はそんなお母様に声を掛け続けた。
何? 一体何が起こっているの? どういう事なの!?
私が状況を理解出来ずにいる所に、部屋の扉が開き私はウルがやって来たのだと思い声を掛けようとしたが、途中で私は言葉を止めてしまう。
そこへ現れたのは、黒を基調とした正装に黒髪が特徴の男性が部屋に入って来て、私の方へと顔を向けて来た。
その瞳は翡翠色で綺麗な色をしていた。
「イリス。久しぶりだね」
「えっ……ウ、ル?」
その声は確かにウルであったが、完全に私が知っている金髪で藍色の瞳をしたウルではなかった。
どういうこと? 顔変えた!? いやいや、そんなこと出来る訳ないでしょ私! 冷静になって。
いやでも、声はウルだけど容姿がウルじゃないってどういうことなの本当に!
「あーこっちの格好で会うのは初めてだったね。ごめんよ、イリス。騙すようなことをしてて、でも俺の本当の姿を知ったら婚約なんてしないだろ?」
「やっぱり! 貴方うちのイリスを騙していたのね!」
「えぇ、正にその通りですよミラー様」
と、お母様が話に割り込んで来るとウルは視線をお母様へと向けて正面の椅子へと腰をかけた。
「イリスもまずは座ったらどうだい? 今日は婚約の顔合わせなのだから」
「私は絶対に認めないわ! 絶対に何かされているに違いないもの!」
「こらこら勝手に先走らない」
お母様とお父様の様子に全く動揺することなく座り私の方を視線を向けているウルに、私は座る前にまずは目の前にいるのが本当にウルなのかを問いかけた。
「え~と……ウルなの?」
「そうだよ、イリス。確かに君と会う時は偽名で変装したウルと名乗っていたが、これが俺の本当の正体さ」
するとウルは立ち上がり、私の方へと体を向けた。
「では改めて、俺の名前はオウル・ヴォルクリス。世間では、国一の嫌われ王子と言われいるちょっとした有名人だ」
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