言い訳【KAC20237:いいわけ】

冬野ゆな

第1話

 本当にこれだけは聞いてほしいんですよ。

 どれほど私にとって重要だったか!


 これが最後のチャンスだったんです!

 私が文壇デビュー、いやラノベだと別に文壇とは言わないですよね。

 とにかくデビュー七周年記念の最後のチャンスだったかもしれないんです。

 それがこんな。

 こんなことになるなんて。


 ここまで十四年。最初に志したのが社会に出て、ネット小説を読んだ頃だから……、最初は二十三とかだったかな。それから七年も頑張ったんです。ようやく、ようやく三十になって日の目を見たんです。嬉しかった、とんでもなく嬉しかった。ネット小説なんてまだまだ下に見られてた頃の事でした。でもデビューしてからいままでの七年は鳴かず飛ばずでした。

 何度も編集さんとはやりとりしました!

 何度も流行に乗せた話を書きました!

 でも、駄目でした。


 それでも、七周年記念のイベントに関われる事になったんです。

 嬉しかった。できたばかりの小説サイトでデビューしたってのもありました。

 ちょうどそこの七周年記念のイベントで、一冊出す事になったんです。読者からお題を募集して、それで書くっていう。


 はい、知っています。

 参加者の人たちが書いていたこのお題です。

 このお題は私のものだったんです!


 編集さんとは、たまにやりとりしていたんです。

 ちゃんと顔を突き合わせてですよ。ぜんぜんオッケーは出ませんでしたけど。

 そのときに言ったんです。

 今度、七周年記念のイベントで、お題を募集するんです、って。作家が順番に書いて本にするっていうのも面白いかもしれませんねって!

 私に向かってですよ!

 一度でもそんな事を言ってくれたんですよ。


 だからこのお題は私のものなんです!

 なのにあの人は、編集さんは、私を裏切った!

 まったく音沙汰が無くなって、私は、私は……。


 言い訳に聞こえますか。


 そうですよね。

 でも、編集さんを殺すのに十分な理由だったんですよ、刑事さん。

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