タツキ、またの名をニャー助太郎

 三十二階層のモンスターを駆逐するのは漁師と魔法に任せることにしました。

 だって対応した魔導具持ってないんだもんよ。出来るかっての。

 その代わり探索は進めて点在する小島を見つけたりしたよ。こういう所も整備されてお金持ちのビーチになるんだろうな。三十二階層の季候はトロピカルだしなー。


「これで探索率百パーセントですかねー」

「多分そうじゃろうな。マップ魔法には抜けがない」

「ですよね、それじゃ報奨金を」

「ほいほい。これをどうぞ」


 ダンジョン深部に行くにつれて探索報奨金は増えていきます。危険な任務になっていくから当たり前だね。

 この報奨金で、こぼれて無くなっちゃった銃弾を再作成して復旧は完了。

 大暴走したニャー助太郎は柱に縛り付けて監禁。そしてまだマナはあげていない。五日くらいあげてない。ゲッソリしてるけどまだまだ死なない。もっと飢えさせてやる。マナいえど魔力の一種、私は操作出来ないから体内に溜まったマナがにじみ出ていて、それを食べているっぽいけどね。つまりもっともっと飢えさせることが出来るって寸法よ。


「ごめ、なさ、ニャ……。ゆ、して」

「まだまだ太ってるし余裕じゃろうて。ガハハハ」

「水、ないと、きえ、う」

「しまった水分補給はしてねえ。おら飲めや!」

「ごぼぼぼぼぼぼぼ」


 酷いかもしれないが、ニャー助太郎の暴走で本当に死にかけたので生ぬるいくらいよ。

 妖精であり精霊でもあるから、一度体を属性の素に戻し、縄から脱出し体を再構築するとかすれば縛り付けから逃れられるしね。それをしないってことは責任を痛感しているってコトだよ。忘れているだけかもしれんが。


「水は美味しかったかニャー助太郎」

「おいし、かった、ニャ」

「まだマナはあげないからね。触るとマナを吸い取っちゃうから触るのも出来ないね」

「ごめんなさいニャ……うっ!」

「ん? どうしたの?」


 急に息が荒くなり苦しみ出すタツキ。


「大元の属性が消えていってるニャ。このままじゃニャーが消えちゃう」

「え! それはまずい! どうすればいいの!? マナをあげればいいの!?」

「だ、抱きしめて欲しいニャ。もう消えるのを止める手段はないニャ。ここまで一緒に冒険できて楽しかったニャ」


 急いで縄を解いて抱きしめる。やりすぎたんだろう。でもタツキが消えるのは嫌だよ。謝っても駄目だけど、タツキが消えるのは嫌だよ。


「消えないで、タツキ」

「マナが慈愛に満ちていて、今までで最高に美味しいニャ。最後にありがとうご主人」

「最後って言わないでよ!」

「でも属性が揮発したらニャーはいなくなるにゃ。これはどうしようもないんだニャ」


 タツキー! 消えないでー! 私の体よどうにかして! 属性付きのマナとか作り出しなさいよ無能!


 そうこうしているうちにタツキは薄くなり、この世から消えた。


「タツキー!」


 私の叫び声は木魂するばかりだった。


 さすがにこの日はショックで何もすることが出来ず自宅に戻りベッドに横になる。

 眠れる精神ではなかったが、延々と泣いていたことによってか疲れて眠ってしまった。


 次の日。


「タツキィ、タツキィ」

「ぐうぐう」


 私のお腹にいつもの感触がある。あれータツキ帰ってきたのかな。


「って、タツキ!?」

「ぐうぐう」


 そこには紛れもない狐猫であるタツキがいた。でぶーんとデカい図体で私のベットの八割を占有していた。


「タツキなの!? ちょっと起きなさいとこの野郎!」


 ぐっすり寝ているタツキの顔に拳を沈める。ギニャっという声と共にタツキが起きてきた。


「痛いニャア……。あ、ご主人おはようニャ。そんなびっくりした顔でどうしたんだニャ?」

「どうしたもこうしたも、タツキ死んだんじゃないの? 何でここにいるの」


 タツキはぷるんぷるんのお腹を揺らしながらベッドから降りる。その背中には羽根が生えていた。あれだな、天使の羽根ってやつだな。


「ふふん、荒治療だったけど一度消滅したニャーは妖精王の元へ導かれたんだニャ。そしてもう妖精の格ではないということで精霊王の元に案内されたんだニャ」

「なんか凄い者と出会ってるね。そしてそして?」


 タツキはげぇっほんと咳払いというか喉のタンを取るような咳をすると。


「精霊王からお前はもう大精霊だ。属性なしでも生きられる。運命の友のマナをたっぷり食べてマナの大精霊王を目指すべき存在だ。といわれたんだニャ! これってすっごーいのニャ!」


「ふんふん、じゃあ私のマナを食べていれば死なない、ってコト?」

「大精霊とかマナの大精霊王とか無視かニャ。まあマナだけ食べていれば死なないニャ」


 よ、よ、よ、良かったぁ。タツキが帰ってきたぁ。

 漫画みたいに泣く私をそっと抱きしめるタツキ。

 それを蹴り飛ばす私。


「早速私のマナを食べようとしたでしょ。そうはさせるか。まずその図体を絞ってからしかあげん!」

「そんニャー」


 でもまあ、動きは素早くなったっぽいし食べてもいいのかな。魔法も強くなったみたいだしいざというときにガス欠を起こしてもしょうがないよね。

 タツキが大精霊セットとして召喚した杖とマントを身につけたんだけど、これあれだな、狐猫というか、ぶくぶく太った狸だな。


 タツキもパワーアップしたし階層攻略も楽になるかな。なるといいな。

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