♥♬ぼすせん♬♥

 マジでどうにもならん。死ぬ。さようならみなさん。さようならお父様お母様。


 最後くらい笑顔を、と思ってにっこり微笑み怨霊弾が着弾するのを待っていた――その時!!


「ニャー!」


 ドガバーン!


「タツキ!?」


 タツキが身代わりとなって怨霊弾を防いでくれたのだ!

 その代わりというか、体が爆散したけども。タツキィィィ!!


「タツキ……! ここで負けるわけには! 除霊弾でもいい! 発射!!」


 ドカーン


 範囲攻撃になる除霊弾を発射して、体の上に乗っていた瓦礫を吹き飛ばし瓦礫の中から脱出する。

 私への爆風は防具が防いでくれた。


「このまま攻める! 次弾装填!」


 素早く装填すると狙い定めて魔導弾を発射する!


 グオォォ!!


「やっぱり効いてる! 回復力を超えるダメージを与えれば倒せる! つまり――過充弾か」


 過充弾――

 過剰に補充した魔導弾丸の略称で、そのまんまの意味。過充すれば火力が劇的に上がる。

 いまある魔導弾全てに過充弾で除霊弾を補充すれば、新式魔導弾二十発くらいの火力は出るはず。


 やろう、これしか方法がない。


 一度完全に退避して、仕切り直す。

 次は負けない、勝つ。


「旧式の魔導弾にも一応過充するけど、多分爆発するよなあ……」


 弾薬に過負荷を与えるため、中途半端な魔導弾では弾薬が持たないのだ。


「じゃあ慎重に補充しないといけないので……タツキー、出ておいでー」

「僕は死んだニャ」


 おどろおどろしい声が周囲に響く。

 タツキの声だから全然怖くないんだけどね。


「餌欲しくないの? ご飯の時間だよ」

「食べるニャー」


 ボワンッ


 っと音と煙を出してタツキが現れる。


「妖精さんだから実体があるっちゃあるし、ないっちゃないんだよね」

「爆散しても属性の残り香でもあれば復活できるニャ」

「きつねの大精霊だから単一属性が必要というわけでもないし。火や風があれば十分。便利だなあ妖精って」

「属性が散逸して結構痩せたけどニャ。早くマナ食べたいニャ」


 そんなわけで復活したタツキにマナを食べさせつつ警戒を行わせ、魔導弾へ過充装填をはじめる。

 すると――


 ドカン


「うわ!」

「凄い音がしたけど大丈夫なのかニャ!?」

「うん、旧式の魔導弾が補充中に爆発した。補充器具は魔導の力で防護されてるし、手はパワーグローブ身につけているから大丈夫。なければ指が全部吹っ飛ぶかも」

「恐っそろしいことしてるニャア……」

「それが魔導技師ってもんよ」


 へへっと鼻を擦り、次の弾薬へと作業を移す。旧式弾は六発、半分が充填されればいい方かな。


 三十分かけて弾薬への装填が終わった。結局旧式弾は二発しか残らなかった。新式も二発壊れて全部で六発残った形だね。全部当たれば仕留められると思う。多分ね。


 怨霊オーガキングがいる場所へと再度赴く。その途中で足が止まる。


 ――怖い。


 城の残骸に埋もれた瞬間は死の恐怖を感じた。直後にタツキが現れたおかげで動けたけど。

 なんだかんだ言っても若い年の女の子でしかないのだよ、私は。怖いもんは怖い。出来れば逃げ出したい。でも出来ない。

 なら怖いのを押さえ込んで前に進むしかない。ダンジョン探索者が取れる選択肢は多くないのだ……。


 顔をパパンッと張り、前へと進む。怨霊さんよ、今度は成仏させてあげるからね。


「コンサタデハイル、コンサタデハイル」

「まだつぶやいてる。どういう意味なんだろう」


 怨霊オーガキングの声が聞こえる所まで進んだ。

 さあ、第二回戦の始まりだ!


 私は周辺の瓦礫に気をつけながら一気に怨霊オーガキングとの距離を詰める!


「計算上こっちならぁ!」


 巨体が視界からはみ出るくらいまで近づいてから、魔導銃をまっすぐと持ち直す。トリガーに手をかける。


 バッシュン


 通常なら音もなく発射される除霊弾が、大きな音を立てて発射された。

 その除霊弾も巨大だ。白くて丸かった通常弾とは違い、今回の弾は円錐形の形を持って怨霊オーガキングの元へと突き進んでいる。


 ゴフ


 グオォォォォォォォ!!!!


「効くでしょ、直撃弾の除霊は。さあ、雲の上に登っちゃいな!」


 除霊弾が直撃した怨霊オーガキングは思い切り体をのけぞらせ一度咆哮すると、がっぽりと空いた胸に幽霊を充填し回復する!


「また回復してる。でも充填しただけで周辺から回復していない。これなら……!」


 バッシュン

 バッシュン


 グオォォォォォ!!

 グオォォ!!


 コンサタデハイル、コンサタデハイル


 除霊弾と怨霊弾が交差する。当たってるのは除霊弾。ひたすらかわされているのが怨霊弾。

 これならなんとかいけるか?


「オライラエッサム、オライラエッサム」


 ん、怨霊オーガキングの念仏が変わったぞ。どういった変化が――。


 すると怨霊オーガキングは両手を振り回すとこちらに向かって突撃してきた!

 くるなくるなくるな!


 逃げ惑う私、追いかける怨霊オーガキング。

 消滅させるにはあと三発。でも追いかけてくるのをかわすだけで精一杯。

 どうしよう、どうしよう。


「これなら、どうだ!」


 コンサタデハイル、コンサタデハイル


 ドガーン!

 ガンガラガッシャーン!


 怨霊オーガキングのパンチをかわして、そのパンチを私の後ろにあった城の残骸に直撃させる!

 怨霊といえども、巨体のオーガキングといえども、実体化しているなら残骸にも引っかかる!


「動けない所を! 除霊弾! 除霊弾!」


 素早く装填して二発。もちろん直撃。消え去りそうになる怨霊オーガキング。

 残弾はあと一発しかない。でもあと一発当てれば怨霊オーガキングは消え去りそう。


「フングルガデスト、フングルガデスト」


 また怨霊オーガキングがつぶやきを変えた。今度は――?


「首を伸ばして顔だけ突進かい! これはかわしきれない――」


 ガン

 ガン

 ガン


 突撃を回避しきれずに食らってしまう。

 防具が耐えきっているけど防御した分魔素が減るから、そんなに長くは持たない。

 間合いが取れないと直撃除霊弾を当てるのは難しい。


「タツキ!」

「はいニャー!」


 こっちに突撃した瞬間を狙って顔にタツキがまとわりつく!

 重いタツキの重量で顔が地面に叩き付けられる!


「これで終わり。ばいばい、またね――」


 バッシュン


「オンダラミサッサ、オンダラミサッ、サ――」


 除霊弾が怨霊オーガキングの顔に直撃し、怨霊オーガキングが体を保てなくなり、幽霊に細かく分裂する。


「除霊グレネードを投げるよ。ただの幽霊になった今ならこれが効く」


 ドーン

 ドーン

 ドーン


 除霊グレネードで一気に周辺が除霊され、怨霊オーガキングは復活できなくなり天国へ登った――はずだ。ま、もう現れないことだけは保証できる。



 いやー終わった。死にかけたよ。報告したら温泉に入ってノンビリしたーい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る