胸に飛び込むな

 邪悪な魔法の木討伐は一瞬で終わった。一瞬で、です。

 だって精神攻撃しかしないんだもん。私には効かないわけ。

 ずんずん進んでチップソーの魔法を放って終わり。あっさりー。


 工場長のところに様々な精霊や妖精が出現して歌い始めます。私に木材を与えなさいと。

 これは幻想的だ。精霊妖精見ることなんてあまりないもんなあ。


「いやー姉ちゃん凄いなダニ! 精霊様のお願いもあるし魔法の木を伐採してやるからいくらでも持って行けダニ!」


 とは工場長の弁。トラックで運べる分だけ持って行きまーす。


「凄いニャ凄いニャ! ニャーも勇者様の旅に付いていって良いかニャ? 狐の精霊を連れていれば一端の魔法使いって見なされるって、ばっちゃが言ってたニャ。逆に凄い魔法使いについていけば強い狐の精霊になれるとも言っていたのニャ!」


 とはタツキの弁。喜んで仲間に迎えるよ! バンザーイ!

 なんというか、強い狐に~はこじつけっぽくて、どっちかというと一日中しっぽもふもふブラッシング遊びしてたら懐いたみたい。ま、私もタツキも、二者両得でござる。


「ブラッシングは欠かしちゃ駄目ニャーよ。あとおみみとおててのマッサージもニャ」

「はいはい、わかりましたよおきつね様」


 タツキのおみみをマッサージするとき私の胸に飛び込んでふかふかしてくるんだけど、あれはセクハラじゃないのかな。精霊に性別ないからなんとも言えない。身長の割には大きな胸だからマッサージする際に邪魔なだけかもしれないしなあ。


 タツキと一緒に行動するためには契約を結ばないといけないんだけど、契約を結ぶとお互いの魔素を融通し合えることが出来るようになるんです。

 私には別段メリットがないのですがタツキにはそりゃあメリットがあるわけでして。なんたって私は世界一の魔素量保持者ですからね。タツキは魔法使い放題です。

 そんなに強い魔法を使えるわけじゃないけれど狐の妖精は狐火の使い手とも言われるだけあって炎を扱うのは得意だし、邪悪な魔法の木の精神吸収魔法に耐えただけあって精神系統も強い。妖精だから幻惑もお手の物。

 立派な助手君になれますね!。


 さて、トラックの助手席にタツキを乗せて、荷台に満載された魔法の木材に感謝をしつつ、魔法の木のある場所を去るのでした。

 いやー、ダンジョンの外っていろいろあるんだなあ。私は小さな伯爵領とそこにあるダンジョン都市しか見たことがなかったから凄い新鮮。感銘を受けたよ。



「えぇー、これだけしか貰えないんですかぁ」


 意気揚々と帰ってきたのは良いものの、あまりの手取りの少なさに落胆する私たち。一週間分、つまり10日間分の低宿代くらいしか貰えなかったのですわ。


「まあ、生活は出来るだろ。魔法を使わない仕事なんてこんなもんだ」


 うーん、どうしよう。こんなので満足していたら一生クラリスに追いつくことは出来ない。

 ダンジョンに入りたいけどダンジョンはソロでは侵入できないし。

 うーん。


「ご主人、どうするのニャ?」


 き

 き

 き


「きみだあああああああああああ!!!!!!!!」



 というわけで、タツキとペアでパーティを組みました。タツキは半人まで成長している精霊。だからダンジョン探索者になれます。

 つまり私とペアが組めるんです。

 ペアにさえなればこっちのもんです。ダンジョン入れます。

 パーティ名は「魔弾の狐」。まんまやな。


「それじゃあダンジョン入って生活していこうか! よろしく助手君」

「でもご主人、ダンジョンで生活するってどういうことニャ」

「入ればわかるよ」


 そうして私たちはモンスター退治の募集があるダンジョンへと入っていきました。

 中に広がっていたのは……


「凄いニャ! 草原が見渡す限りに広がっているニャ! これがダンジョンなのかニャ!?」


 そう、ダンジョンの中はジメジメした洞窟ではなく、大自然が広がっていたのだ。


「凄かろう凄かろう。ダンジョンからは鉱石も採れるでの、大規模開発が行われているダンジョンや階層もあるんだぞい」

「はニャ!? こんな広い空間の中に階層もあるんだニャ!?」

「あるぞー。階段で繋がっているけど重機いれて階段を広くすることも出来る。貴族や富裕層は快適なダンジョンで生活していたりするんだぞい。ダンジョンは一つの資産なのだ!」


 ダンジョンによって大きさや種類の違いはあるが大体内部は自然に満ちている。山ばかりの階層もあれば水辺ばかりの階層もある。海がある階層だってある。階層によってはっきりと区切られていて、海の土地山の土地”しかないダンジョン”というのは今のところ見つかっていない。

 ダンジョンは亜空間で区切られながら断片的に繋がっている別の世界だと、殆どの魔法科学研究者は唱えている。


「凄いニャー!」


 ひととおりびっくりしたあとに、今日の依頼主さんと出会いました。

 なんでもゴブリンが巣を作ったらしく、それを駆除してほしいとのこと。広大なダンジョン内部、モンスターの完全駆逐をするのは難しいんですねえ。

 契約金だけでも低宿一ヶ月分、つまり三〇日分のお金が出るし、成功報酬で低宿一年分、つまり三〇〇日分のお金が手に入るということだそうです。やるっきゃない。


「依頼主凄いお金持ちダニャ」

「ダンジョンで農場経営しているだけでも中間~低レベルの上位層には居るんじゃないかな。ダンジョンで栽培した農作物は外で栽培したものより質が良いからね。ダンジョンによっちゃあ数百倍も価値が違ってくるよ」

「はニャー……」



 さて、狩りのお時間です。ゴブリンが何匹居るかわかりませんが、こちらの持ち弾は五発。ブラスト四発のフラッシュバン一発で、四回ブラスト発射したらフラッシュバンで目くらましして逃げれば良いでしょう。それの繰り返し。巣は最後に焼けばよし。ファイアの魔法弾を撃てば良いね。


 本格的な戦闘になるため、魔導着に魔素を注入。それまで普通のワンピースみたいだった魔導着が一気に戦闘服へと替わります。お嬢様学校の制服になった感じかなあ。

 白銀の長髪にまあるい蒼い目をしていて(自慢)肌が透明感があって全体的に艶があって(自慢)、胸と腰が出ていて(密かな優越感)身長が低めな(致命的な弱点)私には戦闘服の方が清楚で良いらしいんだけど……。制服で戦ってるのが受けてるだけなのでは。


 まあいいや、戦闘に色艶はいらない。他人の評価は横に置いて、討伐しますか、ゴブリンを。

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