第4話 優しい最上さん


「黒猫さん? どうされましたか?」


 いつの間にか黒猫の傍にいたのは存在感の薄い最上だった。今日もセーラー服に黒縁眼鏡でおさげ髪の地味娘である。


「ああ。最上さん。いやね。これを見てください。私の上官が雑に扱ったせいで、式典用の機体が無残な事になっています」

「確かに。この機体を式典用とするためには装甲を全て新調する必要がありますね。でも、ララ隊長は何故、この機体を黒猫さんに預けたのでしょうか」

「それは、親衛隊専用機の予備機がこれしかなかったからでしょう」

「そうかもしれませんが、別に親衛隊専用機でなくても十分なのでは? ララ隊長の権限であれば、他の予備機を、例えば帝都防衛隊や各部方面軍から引っ張ってくることも可能なのでは?」

「あっ」

「私は思うんです。色々苦労された黒猫さんが、この異国の地でご自身の地位を実感できるように、自信が持てるように、敢えて目立つカラーの式典用の機体を手配されたのです。きっとそうです。だから、この機体が、親衛隊のゼクローザスが、存分に力を発揮した結果がこの傷だらけの姿だと思います。彼、ゼクローザスは式典用として帝都で埋もれてしまうよりも、実際に地球を守るために戦う方が幸せなのではないでしょうか。そして黒猫さんも、ここで、萩で、ララ隊長と一緒に戦っています。私は思うんです。ララ隊長って、帝国でも稀代の英雄じゃないかって。そんな英雄と一緒に地球を守っている。それは軍人として非常に誇らしい事なのではないでしょうか」


 最上の言葉を聞き、黒猫は息をとめた。そしてやや上を向いて右手で両目を擦っている。最上はそんな黒猫にしっかりと抱きついてしまった。


「黒猫さん。次は私に乗って下さいね。艦橋で指揮を執って下さるのが理想ですけど、もし艦載機が良ければ、九四式だけじゃなくて、彗星でも流星でも紫電でも用意いたしますから」


 最上は黒猫から離れ、手を振りながら去っていく。

 不幸つづきであった自分の人生も、見方を変えれば幸運の連続なのかもしれない。ララと一緒に戦う事がとても誇らしい事なのだと改めて実感した黒猫だった。


【おしまい】

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萩市立地球防衛軍☆KAC2023その⑥【アンラッキー7編】 暗黒星雲 @darknebula

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