第28話「投稿してから登校する」

 ピリリリリ


 電子音がスマホから鳴ってきたので俺は目を覚ました。休日の昨日、存分に寝たので体調は結構いい。しかしまあ月曜は月曜なのでそれなりに憂鬱な気分ではある。メンタルとフィジカルは別、つまりはそういうことだ。


 幸いスヌーズ機能を使う前に目を覚ましたので時間にはまだ余裕があった。余裕があると言っても良子はもう出ている時間なのだがな。


 余裕を持って続編をネットにアップロードしておいた。気持ち程度に告知のつぶやいたーも更新しておく。さて、食事にするかな。


 着替えてキッチンに行ったがやはり社畜の両親も優等生の妹も、もう既に出たあとだった。上と下が優等生だと相対的に俺が劣等生に見えてしまうが、きちんと遅刻はしない時間に起きている。そのはずなのだがなんだか怠け者とそしられているような気がしてきた。


 食パンを生のまま上にジャムを載せてたたむ。それを口の中にぶち込む恵方巻き方式で飲み込んで朝食とした。あまり健康的な食事ではないな……なおマーマイトを塗るとさすがに丸かぶりがキツいので今回は普通のジャムだ。


 食事も終わったのでさっさと学校に行くことにする。有り難いことに津辺はヨミ・アーカイブの信者筆頭なので、ヨミが無理矢理にでも褒めていた俺の作品をコメントで叩くようなことはしていなかった。さすがに自分のアンチと学校で平気な顔をして話すのは多少の気後れがあるからな。


 玄関を出て鍵を閉め、朝日を全身に浴びる。休日はまともに朝日を拝んだことが無かったので新鮮だ。


 普通に学校までの道を行くと津辺がいたので話しかけた。


「おはよう、昨日の動画は見たのか」


 この一言でどの動画か伝わるので便利なものだ。津辺がヨミ以外の配信を見ているのだろうかと疑問に思うのだが、登録チャンネルは個人の思想信条に関わるのでそうそう触れないことにしている。ヨミのチャンネルは津辺が強く推してきたので知っているだけだ。


「見たよ、アンチが増えてヨミちゃんも可哀想だったよな?」


 俺に同意を求めるなと言いたいのだが、一応頷いておいた。アンチと言うより疑心暗鬼になっているだけだと思うが津辺からすれば同じものなのだろう。津辺は俺が頷いたことに満足したようで教室に入るまで延々とヨミの素晴らしさとその収益化を剥がした運営への恨み言で時間が潰れた。


 教室に入ると夜見子のやつが相変わらずぐったりしていた。机に突っ伏したまま中の良い友人と話しているようだ。あの体制で人と話が出来るのは結構なことだと思う。月曜はいつだって憂鬱な日だが、不特定多数の人に叩かれた後だと気分が悪くなってしまうのは仕方のないことだ。


「並、お前なんか疲れているのか? なんか眠そうだが……」


「休みに少し調子に乗ったんだよ……正直昨日山ほど寝たんだがまだ眠い」


「そうか、じゃあ俺はヨミちゃんの動画見てるからキツそうなら早退でもしろよ?」


「分かったよ、じゃあ俺は一限まで寝るわ」


 それだけ言って自席に戻って机に突っ伏した。隣で何やら夜見子が話しているようだが、今箱の微睡みに体と心を任せたかった。時計を見た時には予鈴まで十分ほどあったしな……


「お前らー、ホームルームはじめるぞー!」


 担任の声で目が覚めた。時計に目をやるともうすっかり予鈴の時間さえ過ぎてホームルームの開始時間を僅かに過ぎた頃だった。隣に目をやると夜見子はしっかりと姿勢を正して話を聞いていた。寝ぼけ半分で聞いている俺とは大違いだ。


 そして夢うつつな気分で授業を受け続けた。相変わらず退屈なものではあったが将来使うことがあるのだろうか? 今必要無いからと言って将来にわたって必要無いかどうかはまた別だな。


 そしてやってきた昼休み、俺はぐったり寝ようとしているところで隣の夜見子に目をやるとスマホを弄っているのが見えた。画面こそは見えないものの、なんだかその画面を見ながら難しい顔をしていた。人にはそれぞれ事情があるものだし、昼休みという睡眠をとれる時間を無駄には出来ないので俺はそのまま気にすること無く寝た。


 そして午後の授業で眠気を何とか振り払いノートを取って一日が終わった。やはり月曜日はロクなもんじゃないな。


「並、今日は随分とキツそうだったな? 素直に早退すれば良かったんじゃないか?」


「生憎俺は勉強仲間がいないんでな……授業を受けないとやっていけないんだよ」


 ああ悲しきぼっちかな。並のやつは一夜漬けで十分だと言っているので問題無いのだろう。俺にはどうしようもないことだ。


「そうか、俺は配信見るから早く帰るよ、並もまあ……無理のない範囲でヨミちゃんの配信を見てくれよ」


 そう言って帰っていった津辺を見送りながら、俺は鞄を持って立ち上がる。スマホを出して通知をチェックすると俺の作品のレビューをするといつもの様にヨミ・アーカイブのチャンネルで枠の確保がされていた。俺は始まる前から不穏なものを感じながら帰途についた。

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