第11話「クラスメイトの様子がおかしいんだが、自分のことで手一杯だ」

 WEB小説の更新を終えた俺はいつも通り登校の準備を始めた。良子のやつはもう既につやつやの髪を束ねている、キッチンのテーブルの上に置いてある食器は一人分だ。どうやら良子はもう食べ終わったらしい。


「お兄ちゃん、先に出ますよ」


「いってらっしゃい、早いんだな」


「私は優等生ですからね!」


 立派な胸を張って答える良子。自信に満ちあふれているような顔をしている。俺は自分がどんな顔をしているか分からないが、ネット上でのレスバで疲れた顔をしているような気がする。不毛なことに時間を使った自覚はきちんとあるんだ。


「じゃあ行ってきます!」


 そう言って朝早くから良子は学校に向かった。いつもギリギリに投稿している俺とは大違いだな。


 そんなことを考えながらトーストとコーヒーで朝食をとる。最近俺の書いた『しよう小説』に治安の悪い乾燥が増えつつある。何を書こうが自由ではあるのだがやはり気に食うかどうかで言えば気に食わない、人間そうそう割りきれないものだ。荒っぽく口の中に朝食を押し込んでコーヒーで流し込む。シンクで食器を軽く洗って冷蔵庫から取りだしたエナドリで無理矢理目を覚ます。アンチの皆さんがいなければもう少し眠れていたのだろうな。


 無い物ねだりをしてもしょうがないのでスマホと鍵と財布をポケットに入れ鞄を持って玄関を出る。暖かな日差しが降り注いでいる、心地よいものだ。


「さて、行きますか……」


 なんだかスマホアプリの通知が気になりながらも早足で学校に向かう。今日はいつもより更に遅めに家を出たので少し駆け足で学校に向かわなければならない。自業自得といってしまえばそれまでだが、マイページの治安が良ければこんな思いをしなくて済んだのだと思えば不満にも思ってしまう。


 なんとか遅刻せず学校に間に合い教室に入ると『相変わらず顔色が悪いわね』と毒舌で夜見子が声をかけてくれた。


「自慢じゃないが血色が悪いことには定評があるんだよ」


 軽口に軽口で返して席に着く。予鈴までの少しの時間、太一が寄ってきて話しかけてきた。


「文田、ヨミ・アーカイブの配信は見たか?」


「見たよ、相変わらず辛辣だったな……」


 あの芸風は長く持たないような気がするのだが、それなりに支持を集めていることから上手くいっていることは認めざるを得ない。誰かを叩いて伸ばすのは伸びやすいものの炎上と隣り合わせだ。どんなに気に食わないと言ってもヨミ・アーカイブがチャンネルで炎上をしていないと言うことから話術や話し方が美味いことは認めよう。


「良いよねえ……俺も一度罵られてみたいよ」


「太一、頭悪めの話はよそでやってくれる?」


 夜見子の辛らつな言葉も太一は一々気にしていないようだ。どうせすぐに予鈴が鳴って席に戻るからだろう。しかしよく見ると夜見子もなかなかに血色の悪い顔をしており、目の下に軽く隈を作っていた、あまり人のことはいえないのでは無いだろうか?


「そんなにレビューされたいなら書いて見ればいいじゃん、登録無料利用料無料なんだから何か書けばいいじゃないか」


 タダでアカウントを作れるのだから作ってバズる話でも作ればいい。それがどんなに難しいことかは知っているが、作らなければ可能性はゼロだ、作ればワンチャンくらいはある。


「文田は俺の現代文の成績を知らないのかい? 自慢じゃないけど注目を浴びるようなものはかけないよ」


「だったら無い物ねだりはやめろよ……」


 直結狙いじゃないんだからさあ。


「やっぱスパチャ投げるかなあ……今度の配信で名前読みしてもらうか」


「夢があるようで何よりだよ」


 俺なんぞ自作をボロクソに言われたんだぞ、それに比べれば優しくスパチャ読みしてもらえるなら叩かれる心配は無いからな。


 ポキッガガッ


 隣の席でノートに何かを書いていた夜見子のシャーペンの芯が折れて紙を軽く引き裂いた。筆圧の加減くらいしようよ……


 板書も難しそうな様子の夜見子だったがルーズリーフからそのページを破り取って素知らぬ顔で次のページに書き出した。何を書いているのか知らないがもう少し文具を大切に扱えよ……


 そこで予鈴が鳴った。太一は俺に『返りにプリカ買うよ』と伝えて自分の席に帰っていった。


 そして三者三様の朝が始まり、俺はエナドリをもう一本飲んでくるべきだったかなあ……などと眠気を覚えながらそう思った。

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