第9話「俺に辛辣すぎませんかねえ!」
その晩の生配信は俺の名前から始まった。
『ブンタさんの作品レビューが伸びているので生配信でレビューするね!』
その言葉でとんでもない事を始めたのはもちろんヨミ・アーカイブだ。コイツは俺のレビューを生配信で評価すると断言した。まだ俺の作品にはコイツにレビューされていないものもある。残弾があるからと言って安易にレビューなんてされたくはないのだが、それを止めることも出来ないだろう。
俺は動画の始まりを不安がほとんど心を埋めた状態で見守ることにした。
『今日はブンタさんの初期作品のレビューから始めようかな』
『今日は酷評くるか?』
『素直な評価頼むで』
『忖度無しで頼む』
『初期作品まで追うとかもう評価がどうであれファンやろ』
『熱心なアンチはファンと紙一重なんやぞ』
『いつもの毒舌ヨミちゃんが見たい』
ヨミ・アーカイブのファンたちは言いたい放題だった。酷評をするのは前提になっているようだ。出来ればやめて欲しいのだが俺が出るわけにもいかない。幸い多少騒いでも隣の良子の部屋は友達のところへ泊まりにいっているので問題は無い。
ヘッドホンも無しに配信の視聴は始まった。画面にはヨミ・アーカイブのアバターと小説の画面が映し出されている。怖さの方が勝っている、コイツは今まで幾人かの作品をレビューした上、挫折に追い込んでいる。俺は負けないからな。
そうして作品レビューは始まった。明日が休みなのでリアルタイム配信が出来るらしい。そこで初めに選択されたのは『剣と百合の物語』だった。自分の趣味を全力で詰め込んだものだ。『しよう』のテンプレなど知らず好き放題に書いたものになる。
『うーん……早速ポリコレ共がうるさそうな作品だねえ』
『お気持ちアタックされそう』
『そこまでの知名度はない』
『コイツにお気持ち表明するほどポリコレ共も暇じゃねえだろ』
『不毛なレスバが得意な連中でもこんな改善してもなんにもならないものに突っ込まんやろ』
『評価が少なすぎてポリコレから見逃された男』
ボロクソに言われていた。この中の何人が本文を読んだのだろうか? 確かに処女作と言うことで拙い部分もあっただろうがここまで言われる覚えは無いぞ! しかしヨミ・アーカイブの意見の方が優先されるらしく、感想をざっと読んで語った。
『荒削りだけど初めはこんなものかなって感じだね。概要欄編集しておくから感想コメント書く人は読んでね!』
そうしてコメント欄に小説のページへのリンクが追加された。評価が芳しくなかっただけのことはあり、別タブで開いているマイページには『感想が書かれました』と赤文字で表示されていた。
俺は恐る恐る新着感想欄を開いた、案の定ろくでもないコメントで埋め尽くされていた。
『小学生かな?』
『底が浅い』
『なんの感情も湧かない』
『Web小説なら何やってもいいと思ってる?』
それらの感想を削除しようかとは思ったのだが、放送中にリアルタイムでついた感想を消すと炎上するのは確実だ。悔しいながらも残しておくしか方法は無いな。
そしてヨミ・アーカイブは次の小説へと移っていった。まだ登録直後の右も左も分からない時期の作品をレビューするつもりのようだ。
『うーん……こんな感想は言いたくないんだけどね、純粋につまんない。クソだったらネタにも出来るんだけどそう言う破綻もなく退屈な話が続いていくだけ、正直養護出来ないわね』
『草』
『やっぱりダメみたいですね』
『作者がそういうものを残しておいた度胸は評価したるわ』
『継続は力なりと言うけど初期作品消さないのか……』
『↑書籍化諦めてるから消そうが消すまいが変わらんのやろ』
ボロクソだった。初めて見たいなものなのだからそのくらい多めに見てくれよ……初心者の投稿ハードルを高めるのはやめてくれ……お願いだから……
そして先ほど読み終わった感想だが、ホームに戻ってみるとまた『感想が書かれました』と表示されていた。本人に悪意はないのだろうか? 悪意がないとしたらもっとたちが悪いのではないかと思う。数々の作品の犠牲の上に成り立った再生数は美味しいか? なあヨミ・アーカイブ!
そんなことを言っても本人には届かないのでうんざりするような内容に目を通していった。一つだけ『初心者にしては良い方』と書かれていたが残りは大体罵倒だった。MeTubeの運営も他サイトへの影響を考えろと言いたいところだが、相手は世界的な大企業、日本の一企業が世界的な企業を相手には出来ない。
『みんなー! あんまりひどいことはかき込まないようにね!』
お前がそれを言うのか……煽っているようなものだぞ?
その後もボロクソに初期作品を貶されていき、しばし経ったところで配信時間の終わりが来たようだ。
『今日はブンタさん特集でした! 色々言いましたけど私は応援していますよ!』
『神対応』
『何でも褒めてくれるヨミちゃん』
『俺も小説書こうかなー……でもなー』
書いてみろよ、酷評される側の悲しさを知って見ろって言うんだ。今日のヨミ・アーカイブ配信はいつにも増して辛辣な気がするのは対象が俺の作品になっているからだろうか?
コメント欄に打って出たいと思う心を理性で抑え、冷静に、冷静に素数でも数えてみたがやっぱムカつくわ。
しかし争いはなにも生まない、見てきたじゃないか『グッドマン』の戦いぶりを、アイツがどう言われていた? そんなことを言われてお前はメンタルを保っていられるのか? そう本能が問いかけてくる。それがブレーキになって顔を真っ赤にしてコメント欄に突撃することに歯止めをかけている状態だ。
そしてヨミは次の作品をレビューし始めた。
『うーん……万人受けを狙っているのは分かるけどちょっと露骨かなあ、本人の持ち味が薄くなっているっていうか……』
俺はその反応にぐうの音も出なかった。その作品は上位ランカーの作品を読んで流行の傾向を調べて受けそうな要素だけで作った作品だったからだ。それはそこそこ伸びはしたが、書籍化どころかランキングに一瞬入ってすぐに消えていった作品だ。俺でさえ書いたことを忘れていたほどのものに目をつけたのか……
認めよう、ヨミ・アーカイブはレビューが辛辣だが読まずにレビューはしていない。きちんと読んだ上でのレビューなのだろう。頭ごなしの非難ではなく触れられたくないところを的確に見抜いて攻撃してくるタイプのやつだ。出来れば現実では関わりになら無い方がいいだろうと思えるような人間だ。あら探しが好きだからといって読みたくもないものをここまで熱心には読まないだろう。ヨミはきちんと読んでいる。だったら俺もコイツに読まれても問題の無い作品を書くだけだ。
そう決心して、流行を忘れ、自分の書いてきたものの中で自分特有の文体を探す作業に俺は入っていった。そして一晩使って自分の文体の特徴について考えることをしたのだった。
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