第26話 責任の取り方
「
レイが捕らえられている執着のテンシの元へ、
「勿論だ、ミナトくん」
ノワールの返事を聞いたミナトはニコッと笑い、執着のテンシの
「旋くんとレイさんが無事にゲームをクリアするまで、オレ達は
「うむ」
ミナトとノワールの意見が一致した瞬間、テンシの体の扉部分がゆっくりと開いた。そこからミナトが体内へ入ると、勢いよく扉は閉まり、鍵がかかったような音もする。
執着のテンシは体内に捕らえた獲物を、じっくり蒸してから喰らう。故に、ノワールが捕らえられた瞬間から、徐々に温度が上がり始めていた体内は既に蒸し暑い。鉄格子の隙間は強固なガラスのようなもので塞がれており、完全な密閉状態だ。
「大蛇のコントロールは大丈夫そ? 変な細工とかされてない?」
「うむ! 今回はただの
「それなら良かった~。正直、流石にこの中で大蛇と戦い続けるのはしんどかったからさ~」
ミナトはそう言うと、鉄格子の隙間から旋達の方を見た。ノワールも同じように視線を向けたタイミングで、旋が
「ところでミナトくん、一つ提案なのだが……其の二までならミッションをクリアしていても――」
「それはだーめ。責任取るとは言ったけど、ルール上、手助けはできない訳だし。だったらせめて、旋くんとレイさんがクリアするまで、オレ達は彼らを見守るべきだと思うんだ。それに例え、オレ達の方はタイムリミットに間に合わなくても、ノワにぃなら乗っ取れるから大丈夫でしょ?」
「うむ! 私はミナトくんを愛しているからなァ! それくらい余裕だァ。だがしかしミナトくん、それはそれとして――」
「はい! この話は終わり! 分かった? ノワにぃ」
自分の意思を一切、曲げる気のないミナトは二度もノワールの言葉を遮り、彼の方を見るとニコリと笑う。既に汗だくだが、このくらいなんて事はないと言いたげな表情のミナトと目が合ったノワールは、深いため息をつく。
「……仕方ない。私の失言で、彼らはあぁなってしまったのだからなァ……折れてあげよう。ただ、ミナトくん。今回は長期戦になるだろから、カーディガンくらいは脱ぎたまえ。いや、ここには女の子もいないし、半裸になっても問題ないと思うのだが?」
「え……もしかして、えっちになったの? ノワにぃ」
ノワールの意図を正しく
「ミナトくん……君は時々、失礼な事を言うなァ……。長時間、そんな格好でここにいたら不味い事くらい、君が一番よく分かっているだろォ?」
「あぁ、そーゆー意味で言ったのか~」
ミナトはホッと胸を撫で下ろすと、赤橙色のカーディガンのボタンを外していく。命懸けのゲームの最中だと言うのに、どこか呑気なミナトをノワールは憂いを帯びた瞳で見つめる。
カーディガンを脱いだミナトはそれを肩にかけ、白いワイシャツのボタンを一つだけ外すと、満足げな顔でノワールにアピールした。両手を広げ、『見て見て』と言いたげな表情のミナトを目にしたノワールは、再び項垂れる。
「いや、ミナトくん……それではあまり意味がないだろうォ……」
「夏用のカーディガンを着てきたから大丈夫! それに置いておく場所もないしさ~」
「誰よりも、
「だってこれ脱いだら、カクレクマノミじゃなくなるし……」
「それなら髪色でカバーできるだろう……いや、そもそもミナトくんはカクレクマノミではないからなァ?」
ミナトの白と橙のメッシュが入った黒髪を触手で指し、ノワールは呆れ気味に否定する。髪色のみならず服装も、白ワイシャツに赤橙色カーディガン、黒チェック柄のズボンと、カクレクマノミを意識したものだ。更に、その三色が使われたデザインのスニーカーも履いている。
ここまで徹底して、ミナトがカクレクマノミカラーにこだわり出したのは、彼が高校二年生の時に参加した最終ゲームの後からだ。
ゲームは悲惨な結果で終わりを迎え、ノワールとはギクシャクしてしまい、ミナトは悩んだ。そして彼が最終的に選んだ道は、『カクレクマノミになる』事だった。
自分がカクレクマノミになれば、イソギンチャクに似た体を持つノワールと共生関係になれる。もっと分かりやすく言えば、ノワールと
一見、意味不明ではあるが、そこには『ノワにぃを絶対に死なせない』と言う、決意が込められている。それでも当時、ノワール……と、
けれども最終的に、ミナトだけを家に帰そうとしていたノワールと悧音が、折れる結果となった。ただし、絶対にミナトを守ると、心に決めて。
ちなみに、ミナトだけが生き残れば良いと考えているノワールにとって、『両種共に利益を得る』とされる相利共生は気に食わない。だが、『イソギンチャクはカクレクマノミを守る』点だけは、気に入っている。
それはそれとして、こんな時にまでこだわりを見せるミナトに対しては、どれだけ彼を愛していても、ノワールは
「だ~か~ら~髪色と服装、両方揃って完璧なんだってば!」
「その変なこだわりは今、必要ないだろうォ!」
「変なこだわりとはなんだ~やるか~?」
ノワールは二本の触手でファイティングポーズのような構えを見せ、ミナトもそれに
「……やめておこう。無駄に体力が減るだけだ」
「うん、だね」
汗だくのミナトは髪をかき上げると、再び旋達の方を見る。ノワールはそんなミナトの手をぎゅっと握り、暑さで赤くなっている彼の横顔を見つめた。
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