第17話 新たなゲームの通知

「待って! めぐるくん!」

 ミナトは二階の窓から飛び降り、あてもなく走り続ける旋の前に着地する。


「うわ!」

「ごめん!」

 急に止まれるはずもない旋は、勢いよくミナトにぶつかってしまう。

 ミナトは謝りながら旋を受け止め、「へへっ……」と思わず笑った。


「あの……一人にしてくれませんか?」

「まぁまぁ、そう言わずにさ~……お話ししながら一緒にお昼でも食べようよ? それに知りたくない? レイさんに奪われた記憶について」

 ミナトの言葉に旋はピクリと反応し、少しだけ考えた後、「聞きたいです」と答えた。


「よし! そんじゃあ、大学エリアに行こっか。ほとんど人がいないから静かに話ができるしさ」

 ミナトはニッと笑うと、大学エリアの方を指さして言った。彼の言葉に旋はうなずき、ミナトの後について行く。






 大学エリア内の売店で、適当にお昼ご飯を買った旋とミナトは、目の前に噴水が見えるベンチに腰掛けた。


「まずはごめんね。こんな形で明かすつもりはなかったんだけど……いや、違うか。隠されてたことに怒ってるんだよね、旋くんは。オレ的には、いつか話さないとって思ってたけどさ……」

「いえ……むしろ、ノワールさんが口を滑らせてくれて有難かったです。なんて言うか、上手く言えないけど……ずっと、ジブンには何かが足りてない気がしてたんです。自室に見覚えのないジオラマが飾ってあったりとか、違和感もあって……でもそれに、気づかないフリをしてました。だからやっと足りないモノが何か分かって、ちょっと安心してます」


 どこか無理をしているような旋の顔を見て、ミナトは「本当にごめん」と申し訳なさそうに頭を深く下げる。


なばりさんが謝ることじゃないですよ。レイに頼まれてただけなんですよね?」

「そうだけど……それを了承したのはオレだしなぁ……」

「協力してた人達にまで怒ってたらキリがないですよ。それに隠さんがジブンに会いに来たのは、多少なりともその件について、話そうと思ってくれたからじゃないんですか?」

「あ~……いや、確かにタイミングを見計らって伝えたいとは思ってたよ? ホントに。でも、今回は旋くんの記憶について、話に来た訳じゃないんだよなぁ。正直、今ではないと思ってたからさ」

「じゃあ、どうしてわざわざ教室まで来てくれたんですか?」

「あれ? もしかしてまだメール見てない感じ?」


 そう言いながらミナトはショルダーバックからタブレットを取り出し、少し操作した後に、画面を旋に見せる。そこには『運営からのお知らせ』の見出しと共に、新たなゲームの案内文が記されていた。


『運営からのお知らせ。明日の午後一時、以下の生徒は“一体の契約相手”と共に、指定されたエリアで“執着のテンシ”のゲームに参加せよ。おとなしめぐる、隠ミナトの二名は“人形エリア”へ――』

 その続きには、五~十人のチームに分けられた生徒の名前と、ゲームを行うエリア名が書かれていた。その中には、リツや乙和の名前もあったが、それぞれ違うチームのようだ。


「……チームどころか、リツとはエリアも違うのかぁ……」

案内文これ見た第一声がそれなんだね~」

 またリツと離れて戦う事が決定し、旋は肩を落とす。そんな彼を横目に、ミナトは呑気な声でそう言いながら、タブレットをバックにしまう。


「てか、どうして隠さんとジブンだけ二人っきりなんですかね?」

「オレと二人はイヤ?」

「イヤとかではなく、純粋な質問です」

 旋のその言葉を受け、ミナトは真剣に何か考えた後、微妙な表情で口を開く。


「オレもざっくりとしか知らないけど、人形エリアには執着のテンシが気に入ってる生徒と、たまに強い子も呼ばれるらしいよ?」

「なるほど……それで隠さんは、明日のゲームで一緒になるから、挨拶に来てくれたってとこですか?」

「そ。久々に会いたかったし、旋くんとレイさんに。それなのに、ノワにぃが口を滑らせるから……おまけに、よりにもよって執着のテンシのゲーム前に普通、言うかな~て感じ」


「……執着のテンシのゲームってどんな内容なんですか?」

「大まかに言えば、執着のテンシの体内に捕らえられている相棒を助け出すゲーム、かな。正直……契約相手に対して、不信感を抱いている状態だとクリアは難しい。だから今回だけは絶対に口を滑らせるなって、ノワにぃには言っておいたのになぁ……」

「ちなみにですけど……ノワールさんのあの発言って、わざとではないんですよね?」


 頭を抱えるミナトを見て、旋は苦笑いを浮かべる。それから、失言を全く反省していなさそうだったノワールを思い出し、ミナトに問いかけた。


「うん、わざとっぽいけど、違うよ。まぁだから余計にタチが悪いって言うね……昔は割と、口は堅い方だった気がするんだけどなぁ」

「ははっ……ところで、ずっと気になってたんですけど、隠さんはどうしてノワールさんのこと、『ノワにぃ』って呼んでるんですか?」

「ずっと一緒に住んでて、昔っからにぃちゃんみたいに慕ってるからだよ~。両親が“MEALミール GAMEゲーム”の元参加者で、ノワにぃは母さんの元相棒だったみたい。んで、母さんが卒業するのと同時にノワにぃも島を出て、最終的に父さんも含めた三人で一緒に住み始めたんだって。ま、当然ゲームのことはオレに黙ってないといけないから、『ノワールは新種の妖怪』って聞かされてたんだけどね。ノワにぃもその設定をノリノリで守ってて、一緒に遊んだり昼寝したりして……自然と大好きなにぃちゃんになった感じかな」

 ふわふわと笑いながら説明するミナトにつられ、旋は思わず微笑んだ。


「なんかいいですね。種族は違うけど、ほんとの兄弟みたいで」

「でしょ?」

「兄弟ケンカとかはしたことあるんですか?」

「あるよ~。……昔ね、ノワにぃに勝手なことされて、ケンカしちゃってさ……。オレのためにやってくれたってのは分かってたんだけど……どうしても、納得できなくて。めちゃくちゃムカついたし、オレってそんなに信用できないんだって、あの時は落ち込んだな~」

「あの……どんなことでケンカしたのか、聞いてもいいですか……?」


 あっけらかんと言ったミナトの気持ちが、今の自分の心境と重なり、旋は遠慮気味に話を切り出す。ミナトは一瞬、きょとんとした顔で旋を見た後、何かを察してニッと笑う。


「うん、いいよ。ただ、ちょっと長い話になるけどいい?」

 ミナトのその問いに、旋は頷き、「聞きたいです」と答えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る