第4話 契約と能力

「ほんじゃまぁ、とりま要点だけ簡潔に説明するから、しっかり聞いててね★」

「はいっす!」

「うん!」

 おとなし兄妹の元気な返事を聞いたは、トップスのフードを目深にかぶると、真剣な顔をして口を開く。

「『MEALミール GAMEゲーム』……それがこのゲームの名前。選ばれたは他種族と契約を交わし、五種類のテンシが考えたさまざまなゲームをクリアするコトで、ゲームから解放される」

 先程までの喋り方とは打って変わり、奈ノ禍は声のトーンを下げ、真面目な口調で話す。奈ノ禍につられてリツはシリアスな表情を作り、ゴクリと喉を鳴らすが、彼女が放つ雰囲気はほわほわしたままである。そのギャップに思わず緩んだ口元を、奈ノ禍はぎゅっと引き締めて、説明を続ける。


「ヒト族単体では、テンシに太刀打ちできない。ダケド、ヒト族の体内には、契約を交わした他種族の能力を増幅させ、使用できるエネルギーが備わっている。ゆえに、他種族と契約するコトで、ヒト族もテンシと対等に戦えるようになるってワケ。てコトで早速ダケド、あーしと契約しちゃおうっか★」

 奈ノ禍は「はい、コレを受け取って★」と言いながら、リツに四葉のクローバーを渡す。リツがそれを元気よく受け取ると、奈ノ禍はフードを脱いでニコッと笑った。


「とりま頭の中で、好きな色や柄の大鎌を思い浮かべてみて★」

 奈ノ禍に言われた通り、リツは頭の中で大鎌をイメージにしてみる。すると、クローバーが徐々に伸びていき、最終的には刃の部分はストロベリーで、所々に音符の柄が入った大鎌へと変形した。

「イメージ通りの大鎌になったっす!」

「わ~とってもいいデザインだね! これで契約は完了だよ★」

 リツは目を輝かせながら大鎌を掲げ、そんな彼女を奈ノ禍は優しい眼差しで見つめている。ずっと静かに説明を聞いていた旋も大鎌の登場には目を輝かせ、感嘆の声を上げた。

 おとなし兄妹はキラキラした目で互いを見ると、ノリと勢いでハイタッチを交わす。その際に、めぐるから温かくてふわふわした音楽が聴こえてきた事で、リツは反射的に奈ノ禍の方に視線を向けた。ところがすぐに音楽が聴こえなくなったため、気のせいだと結論付ける。

 リツが勢いよく自分の方を見てきた理由を、奈ノ禍は何となく察しはしたが、それに気づいていないフリをして小首を傾げた。


「ちなみに武器を使わない時はクローバーに戻せるし、マイクや楽器にも変形できるよ★」

 奈ノ禍はそう言いながら自分の大鎌をクローバー、マイクの順に変形させていく。リツはまじまじとマイクを眺めながら、「ギターにもできるっすか?」と問いかける。

勿論もち。ちなみに大鎌は物理攻撃用で、マイクや楽器が精神攻撃用だよ」

「精神攻撃?」

「……音が届く距離にいる標的を視界に捉えるか、思い浮かべて演奏したり歌ったりすると、その相手の気分を変えるコトができる。例えば足止めしたい時に、“テンシの食欲や闘争心をなくしたい”って想いながら歌うとか。まぁ平たく言えば、サポート向きの、催眠術的な能力だよ。だから個体によっては、あまり効かない場合もある。その一方で、よく効く標的に対しては、特異な力を発揮し易くなる。意図せずして標的の心を操ってしまう、とかね……」

「なるほど……ちなみになんすけど、その能力で誰かを元気にしたりとかはできるっすか?」

「へ……? あ~……うん! リッツーが誰かを元気にしたいって想いながら歌ったり、演奏したりすれば、もちろん可能だよ★」

 どこか暗い表情で説明していた奈ノ禍はリツの言葉に一瞬、ポカンとした。しかし、直ぐに言葉を噛み締めるように頷き、うれしそうに笑う。


「最後にテンシの倒し方を教えるね! テンシはどれだけダメージを食らっても、花に似たあの羽が残っている限り、何度でもする。ダカラ、攻撃し続けて羽を使い切らせるか、翼を全て斬り落とせば、テンシの体は崩れてよ★」

「了解っす!」

「よし! ほんじゃまぁ、説明も終わったコトだし……そろそろここから出るケド、大丈夫そ?」

「はいっす! 正直、まだ少し怖いけど……テンシと戦う覚悟はできてるつもりっすよ」

 リツは大鎌を両手でぎゅっと握りしめ、真っ直ぐ奈ノ禍を見つめる。強さが宿るその瞳と目が合った奈ノ禍は、真剣な顔でリツの手を取り、「ほんじゃまぁ……行こっか」と言って、歩き出す。


 奈ノ禍とリツ、そして旋の三人はホールからロビーに移動し、出入口付近で一旦、足を止める。

「ここを出たら、いつテンシに襲われてもおかしくない状況になる。だから二人は、絶対にあーしの傍を離れないで。まだ誰とも契約していない旋っちは特にね」

「はいっす!」

「うん。分かった!」

 おとなし兄妹の元気な返事を合図に、奈ノ禍は二人を守るように一歩、前に出るとライブハウスの扉を開く。


 外に出た途端、人々の悲鳴やテンシの笑い声、更には爆発音まで聞こえてきた事から、三人の間に緊張が走る。

 ライブハウスのすぐ近くでは、見知らぬ兄妹がテンシに壁際へと追いつめられていた。リツと奈ノ禍がその兄妹を視界に捉えた瞬間、ノイズ混じりの音楽が二人の耳に飛び込んでくる。

 嫌な予感がした奈ノ禍は、リツに声をかけようと口を開く。けれども、彼女が言葉を発するより先にリツは奈ノ禍の手を離し、テンシの方へと駆け出した。


 ――あの人達を助けないと!


 そう強く思い、走り続けるリツの耳には、奈ノ禍の制止の声は届いていない。

「リツ!」

「旋っちはここで待ってて!」

 リツ同様、駆け出そうとした旋を、奈ノ禍はそう言いながらライブハウスの中に押し入れる。尻もちをついた旋は即座に立ち上がり、外に出ようとしたが、自動で扉が閉まる方が早かった。

「リッツー!」

 旋が必死に扉を叩く音を背に、奈ノ禍は慌ててリツの後を追う。


 テンシに怯えながらも、兄は妹を守ろうと前に出て、両手を広げている。テンシは兄の行動をあざわらうかのように、真っ赤な棘を二本、ゆっくりと伸ばす。それと同時に、リツと奈ノ禍にだけ聴こえているノイズが、音楽よりも大きくなる。

 ところがリツはノイズや音楽の事など一切、気にせず大鎌を振り上げ、奈ノ禍は眉をひそめながらもふわりと飛び上がった。

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