ほこりだらけの宝物

西しまこ

第1話

 ふと思いついて、洗面所の窓の桟を掃除することにした。


 そこには、子どもたちが小さいころに作った工作の類が飾ってあった。子どもも、もう大きくなったし、そろそろ捨ててもいいかな、と思ったのだ。


 脚立を持ってきて、工作を手にとる。

「きゃー、ほこりだらけっ」

 私はくしゃみをしながら、ほこりを払う。

「あ、これ、懐かしいな」


 それは、すごろくのコマ人形だった。子どもたちがまだ幼稚園くらいだったとき、すごろくブームが訪れ、すごろくを手作りし、そして人形を作って、コマとして使ったのだ。

 ヤクルトの空の容器に紙粘土をくっつけて作ったものだ。紙粘土には絵具を混ぜたので、きれいな緑色をしている。ただし、混ぜ具合が微妙なのでマーブル模様になっている。でも、そういうところも味が出ていていい。顔も、あのころ息子がよく描いた顔だった。


「あっ」

 さいころもあった。紙粘土で作った、さいころ。当然、よく出る目とよく出ない目があって、不公平感はあったけれど、自分で作ったさいころだから楽しく遊んだ。さいころはきれいなピンク色だった。これは娘が作ったんだ。

 すごろくのコマ人形もいくつかあり、息子が作ったのと娘が作ったのとあって、それぞれの個性が出ていてかわいいものだった。


 少し考えて、捨てるのはやめることにした。

 雑巾を数枚持ってきて、乾いた雑巾でコマ人形とさいころのほこりをそっと払い、それから濡れた雑巾で窓の桟を拭いてきれいにしてから、コマ人形とさいころをまた置いた。


「駄目だ、捨てられない」


 それからまた他の工作を手にとる。

 今度は恐竜らしき物体だった。幼稚園での工作で、陶器で出来ている。

 正直言って、これが恐竜だと分かるのは私くらいである。もしかして、本人ももう恐竜って分からないかもしれない。

 もう一つ、同じような陶器素材のものがあった。それはきっと、パンダ。これも私しかパンダと分からないと思う。


 ちょっと考えて……雑巾で丁寧に拭いて、またきれいに並べた。


 次は松ぼっくりで作ったクリスマスツリーだ。どんぐりのトトロもいる。これ、小学校の工作の時間に作ったんだよねえ。誇らし気に持って帰ってきたっけ。息子のと娘のと二つずつ、ちゃんとあった。


 またちょっと考えて、ほこりを払ってきれいに並べる。

 ――駄目だ。

 捨てられない。一つも。

 こんなにほこりだらけなのに。しかも、上手でもなんでもない。

 だけど、私にとっては、大切な宝物なのだ。


 ほこりだけきれいに払って、全部また元の位置に戻した。



    了


☆☆☆いままでのショートショートはこちら☆☆☆

https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330650143716000



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ほこりだらけの宝物 西しまこ @nishi-shima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ