第27話 会話が弾むと時間の流れは早くなる

「あの、フレアから僕のことを聞いたんですか?」


「一応はね。でもそれだけじゃないよ。私の名前はナタリア・ラマテール。ラマテール公爵家の長女なの。だからヴィクトル家のいざこざに関しても噂で知ってたってだけ。まぁ、知ってるといっても、君がどうして家を追いだされたのか詳しくは知らない」


 フレアがエラムの解体を頼んだのってラマテール公爵家なのかよ。ラマテール公爵家は僕が今住んでいる町トロンを含む、広大な領地を支配している大貴族だ。


 そんな高貴な身分とフレアは交流があったのか。おまけに魔道具の販売も行っているなんて。彼女の作る魔道具のレベルを考えれば貴族が目をつけるのも無理はないか。


 しかし、ナタリアは僕のことを知っていたんだな。まぁ、ヴィクトルの名字を名乗ってる時点で僕がヴィクトル家の人間であったことはすぐに分かるか。


 僕は一応、ヴィクトル家を追いだされた今でもラース・ヴィクトルを名乗っている。この国では名字の変更は特殊な例を除けば認められないからな。


「理解しました。この度はドラゴンの解体を引き受けてくださりありがとうございます」


 僕は頭を下げる。


「いやそんなに畏まらなくて良いよー。もっとフランクにいこう」


「いやしかし……」


 ここにはナタリアとフレアの他にも人がいる。彼女が砕けた話し方をして良いと言っても、周りが許さないだろう。


「へーきへーき。ここにいる人たちは私の息がかかってるから。ねぇみんな、ラースが丁寧な言葉づかいじゃなくても、お父様に言わないでしょ?」


 ナタリアが後ろにいる人たちを青い瞳で見渡す。護衛や作業員らしき人たちは無言でうなづく。僕はフレアの方を向いた。彼女も目線で大丈夫だと伝えて来る。


 全員が良いと言っているんだ。ここは大人しく従おう。


「よろしくナタリア。これで良いか?」


「問題ないよ。よろしく!」


 ナタリアに右腕を差し出されたので、彼女と握手を交わす。


「自己紹介も済んだところですし、奥へ案内します」


「うんお願い」


 フレアを先頭に、僕らは作業室へと入っていった。横たわっているエラムを見て、ナタリアたちは息を吞む。


「すごいね。噂には聞いていたけど、こんなに立派だなんて。君が倒したの?」


「良いや違うよ」


 僕は《白亜の森》での出来事を話した。さすがに【取得経験値激増】のことは黙っておいた。あれはチートすぎるので、フレアからむやみやたらと話さないように言われている。


「へぇー。黒竜族って凶暴なイメージがあるけど、そんなこともないんだね。私も話してみたかったなぁ」


 ナタリアはエラムの黒い羽を軽くなで始めた。


「そんなことをしている暇はあるのですか? 夜には屋敷で来賓の方をもてなすのでしょう?」


「もーそんな現実的なこと言わないでよー。黒竜族を見る機会なんて滅多にないんだから、少しくらい良いじゃない」


「ですが。解体は早めに終わらせて欲しいですし。あなたとは魔道具の商談も行いたいのです」


「はいはい、分かった分かった。商談と言えば、私たちに黒竜族の素材は売ってくれるの?」


 ナタリアが僕を見ていってくる。黒竜族の素材は高く売れる。ある程度はナタリアに売ってしまって、ラマテール公爵家とのつながりを作るのは悪くないかもな。


「とりあえず、僕が武器防具に使う分と、フレアが魔道具の素材に使う分は残しておきたいな。フレアはどう思う?」


「良いのですか? 私が黒竜族の素材を使ってしまって。この黒竜族はあなたのものだと思うのですが」


「構わないよ。ここまで運ぶことができたのはフレアのおかげだしな」


「そういうことであれば、お言葉に甘えて使わせていただきます。とりあえず、私としては黒竜族の素材を売るのは少し待って欲しいですね。どの素材が利用価値が高いのか調べたいですし」


「ちぇ。しばらくはお預けかぁ。黒竜族の素材で私も装備を整えたいのにー」


「ただし、例外として肉に関しては売ろうかと思います。魔物とはいえ、会話をした相手の肉は食べたくないでしょう?」


「そうだな。肉は全てナタリアに売ろうと思う」


「ほんとに!? 嬉しいなぁ。ドラゴンの肉とか珍味だから助かるよ。たくさん肉が取れるだろうから、ある程度は保存して他の貴族がラマテール領に入ってきたときなんかにもてなそうかな」


「交渉成立ですね。よろしくお願いしますナタリア様」


「結局フレアは私のことを様付けするんだね」


「私はこちらの話し方の方が慣れていますから」


「分かったよ。それじゃああなたたち、早速解体を始めて!」



 ◆❖◇◇❖◆



 ナタリアの連れて来た解体作業員たちは、手際よくエラムを解体していく。


 話を聞くと、彼らはラマテール公爵家の人たちや保有する騎士団が魔物を狩ったときなどに解体作業を請け負っているらしい。


 どうりで手慣れているわけだ。作業員たちが解体している間、僕はフレアやナタリアと一緒に会話を楽しんだ。


 まぁ、僕は大した話ができるわけではないので、主に冒険者としてどんな活動をしてきたかとか、どうしてヴィクトル家を追いだされたのかについて簡単に語っただけだけどな。


 他にナタリアはシルに興味を示していた。シルが小型のガーゴイルだと言うと、かなり驚いていたな。


 彼女はフレアに同じようなガーゴイルを作って欲しいと頼んでいたが、特殊な素材を使っているので同じ性能のガーゴイルを作るのは無理だと言われていた。


 まぁ、小型ガーゴイルなんて僕も聞いたことがないし、さすがのフレアも量産は難しいんだな。


 そんなことをしている間に、解体作業は終わりを迎えていた。


「もう解体は終わりかぁ。もっとお話したかったのに」


「また日を改めて会話しましょう。歓迎しますよ」


「うん! ありがとう。最後に聞きたいんだけど、ラースは黒竜族の素材をどこの鍛冶屋で武器にするのか決めているの?」


「いや、まだ考えていないな」


「一応、私がグリマスに掛け合うつもりです」


「あの人に頼むんだ。なら私からも口添えしといてあげる」


「それはありがたいですね。助かります」


「気にしないで。フレアの男なんだし、私だってサービスしちゃうよ」


「なぁっ!? なにが私の男ですか! 私とラースはそう言った関係ではありません!」


「怪しいなぁ」


「お嬢様、肉塊を全てマジックバッグへと収納しました」


 タイミング良く駆け寄ってきた作業員の一人がナタリアに言う。


「ご苦労様。それじゃあバイバイ」


「ちょっと! 待ちなさい!」


 フレアの静止を振り切ってナタリアは颯爽と姿を店を出て行ってしまった。

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