第15話 魔力はあれば良いってもんじゃない

「私もそうなんじゃないかと思ったりもしたわ。けれど、どのアンデッドも指輪を付けていなかったから、おそらく彼じゃないでしょうね」


「なら、まだ探していない場所とかはないのか?」


「一応あるにはあるわ……。けれど、とても危険な場所で近づけないのよ」


 アンデッドが怖れるということは、なにか神聖な物があったりするんだろうか。


「いったいどんな所なんだ?」


「20階層なのだけれど。そこは最下層になっていて瘴気が濃く、強い階層主がいるの。そいつはアンデッドやゴースト系統の魔物を吸収する性質を持っているから、うかつに近づくことができないのよ」


「理解した。とりあえず、20階層まで案内してくれないか。倒せそうなら僕がなんとかする。その後に指輪がないか探索すればよい」


「本当にありがとう」


「気にするな」



 ◆❖◇◇❖◆



「これ以上は近づきたくないわ。ごめんなさい」


 僕はミーシャの案内のもと、階層主がいるという部屋の前まで来た。目の前には大きな鉄製の扉がある。巨大な髑髏どくろの彫刻が施されていて、見るからに気味が悪い。


「じゃあ、少しここで待っていて」


 僕は探知眼を用いて、扉の先に居ると思われるアンデッドの魔力量を調べる。


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【???】魔力量2000

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 グレシャムの約2倍の魔力量か。僕は自分にも探知眼を用いて魔力量を測定する。


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【ラース・ヴィクトル】魔力量5643

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 純粋な魔力量だけでは負けていない。けれど、僕が使える魔法はわずかだし、戦闘で使えるのは束縛眼だけだ。魔力というのは、ただ保有しているだけでは意味がない。


 強力な魔法を保有していてこそ、絶大な威力を発揮することができるのだ。僕が魔力を多く持っているにも関わらず、最近まで底辺冒険者だったのもそのせいだ。


 僕は扉を開け、その隙間から中の様子をうかがう。後で見返せるよう、映像眼を使用しながら。巨大な部屋は青色の炎で照らされており、比較的明るい。


 扉から牛20頭分離れたところに、階層主はいた。大きな黒い翼を持ったドラゴンだ。そいつの身体には、多くの顔や腕が苦しげにうごめいている。僕は鑑定眼を使う。


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 アンデッドドラゴン 52歳 ♀ アンデッド

 Lv110

 攻撃670

 物理防御620

 魔法防御594



 保有スキル【竜魔法Lv4】

 保有魔法【咆哮】【火炎弾】【飛行】【火炎砲】【かぎ爪強化】【威圧】【グラビティ】【攻撃力向上】【加速】【ドラゴンブレス】【アンデッド吸収】

 称号【魔物の王】【殺戮者】【アンデッド化】

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 ドラゴンの中では弱い部類だろうが、それでもまともに戦って勝てる相手ではなさそうだ。僕は一度ミーシャのところに戻ることにした。


 幸いなことに、扉の中に入らなかったためか、アンデッドドラゴンは襲い掛かって来なかった。僕はミーシャと合流し、改めてさっきの光景を映像眼で見直す。


 頭の中に流れてくる視覚情報を注意深く観察する。


「ん?」


 僕はアンデッドドラゴンの腹部が青く光っていることに気がついた。いや、これは別に光っているんじゃない。


 アンデッドドラゴンに取り込まれているアンデッド――そのうちの1体が突きだしている薬指にはめ込まれたなにかが周囲の灯りに反射して輝いているんだ。


 距離が遠くて詳しいことは分からないが、もしかしたらあれはミーシャの恋人が持っていたという指輪かもしれない。


 となると、アンデッドドラゴンに取り込まれて苦しそうにしているアンデッドの一体はミーシャの恋人である可能性があるな。僕はミーシャにそれを伝える。


「……そうですか。では、ラースさん、あなたならアンデッドドラゴンを倒すことはできますか?」


 正直、アンデッドドラゴンと戦って勝てる気はしない。けれど――。


「少なくとも、君の恋人を解放してあげることはできると思う」


「ありがとう。一つお願いをしてもよいかしら? 私もアンデッドドラゴンとの戦闘に参加させて」


「君はアンデッドドラゴンに取り込まれてしまうと思うけど……。それに戦えるのか?」


 アンデッドドラゴンには【アンデッド吸収】という魔法を持っている。


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【アンデッド吸収】……周囲に近づいたアンデッドを取り込む。取り込まれたアンデッドは魔法使用者にステータスの一部や魔力を吸収される。魔法防御が高いアンデッドは取り込むのが難しい。

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 吸収したアンデッドのステータスを取り込むのは厄介だ。


「あなたは鑑定眼を使えるのでしょ。私をステータスを見てみなさい。一応、アンデッドドラゴンにわずかなダメージを与えるくらいはできると思うの」

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