第2話 思いがけない時にレベルアップすることってあるよな

 うっすらと目を開けると、茶色い板でできた天井が見えてくる。


「はぁ、嫌な夢を見ちまった」


 僕はいそいそと着替えると、軽めの朝食をとりながら、あの日以降のことを思い返す。


 ヴィクトル家を追いだされてから1年が経過した。


 無一文だった僕は冒険者として活動していたものの、魔法も【探知眼】しか使えないためにゴブリンやスライムのような下級の魔物で小銭を稼いでいる。


 冒険者以外の仕事に就こうと考えたこともあった。だけど、それは上手くいっていない。


 なぜなら、多くの職業にはそれ相応のスキルを持っている必要があるからだ。


 魔道具を作る職人あたりなら魔力量を把握することができる【探知眼】の能力をいかせるんじゃないかと思ったが、それも断られた。


 なんでも、魔力量を見ることのできる魔法はスキル【魔道具作成】持ちならだいたい持ってるらしい。


 おまけに、「魔力量だけ見る魔法しか使えないのならねぇ。実際に魔道具を作れるための魔法を覚えられないのなら君は必要ないよ」などと言われてしまった。


 これからその手の魔法を覚えるかもしれないと食い下がったりはしたさ。


 しかし、【魔眼】なんていう聞いたこともないスキルから【魔道具作成】と似た魔法が習得できるとは思えないと言われてしまった。


 そんな僕に残された仕事は農民か冒険者くらいのものだ。


 実家を追放されて悔しかった僕は冒険者として大成したいと思ってはいるものの、あまり上手くいっていない。


 まぁ、貴族だから魔力はあるものの、まともな攻撃魔法がひとつもないんだから当たり前だよな。


 地道にレベルを上げていくしかないか。


 思い立ったが吉日ってやつだな。僕は食事を終えると、泊まっている安宿を飛びだした。



 ◆❖◇◇❖◆



 ザクザク。僕は湿った森の中を進みながら、魔物のいそうな場所を探す。


 ここは《時雨の森》という、町から一番近くにあるフィールド型のダンジョンだ。


 いつも雨が降ったりやんだりを繰り返している不思議な場所で、基本的に曇っている。


 そこで僕は魔法を使った。


「探知眼!」


 すると、木々を通り抜けるようにして、少し離れた場所に魔力を感じとる。


 ―――――――――――――――――――――――

【???】魔力量30


【???】魔力量32


【???】魔力量37


 ―――――――――――――――――――――――


 目の前に、感じ取った魔力量が数値として現れた。これはおそらくゴブリンだな。


 僕は一目散に魔物がいると思われるところへ駆けだす。


 ぬかるんだ道を素早く、なるべく音を立てないように静かにだ。


 やがて視界の中に3体の小人たちが見えてくる。緑色で醜悪な顔をしたゴブリンたちだ。


「グギャッ」


 1体に気づかれたがもう遅い。


 ザシュッザシュッザシュッ。


 僕は腰から吊るされたショートソードで続けざまにゴブリンの首を刈り取った。


 さすがに1年間こいつらと戦ってきただけあって、倒すのは楽勝だ。


 ゴブリンの胸をえぐり、小さくて濁った魔石を取りだすと、僕は再び【探知眼】を駆使して魔物を探し求める。


《時雨の森》に生息している魔物は基本的にゴブリンとスライムなので、危険はあまりないと言っていい。


 ちなみに僕のステータスはこうなっている。


 ―――――――――――――――――――――――

 ラース・ヴィクトル 16歳 男 人間

 Lv10

 攻撃119

 物理防御115

 魔法防御142



 保有スキル【魔眼Lv1】

 保有魔法【探知眼】

 ―――――――――――――――――――――――


 攻撃手段がショートソードで切りつけるくらいしかない上、剣術スキルなども持っていないためレベルは中々上がりにくい。


 それでも、なんとか2桁のレベルまで上げることができた。まぁ、ソロなおかげで経験値を独り占めできたのが大きい。


 そろそろスキルの方もレベルが上がって欲しいものだな。


 そう思いつつ、僕はゴブリンやスライムたちを次々と倒していく。


 ザシュッザシュッザシュッ。


 ん?


 何かがおかしい。僕はいつも以上にゴブリンの数が多いことに気がついた。


「グギャアアアアアアアアアア!!!!!」


 突然、森の中にけたたましい鳴き声が響く。声を上げた主はまっすぐ僕に向かって来ているようだ。


「なっ!? 探知眼の索敵範囲外から僕の存在を嗅ぎつけただって!?」


 おまけに結構速い。慌てて逃げだすもこのままだと確実に追いつかれてしまう。


「くそっ」


 僕は探知眼で近づいてくる魔物の魔力量を鑑定した。


 ―――――――――――――――――――――――

【???】魔力量215


【???】25


【???】35


【???】34


【???】29


【???】37


【???】23

 ―――――――――――――――――――――――


 魔力量が200を超えてるなんて、並の存在じゃないぞ。しかも、多くの手下を従えてるみたいだ。


 今は6体程度しか表示されてないが、探知眼の索敵範囲外にもそれなりの数の魔物が追ってきているみたいだ。


 多分、群れのボスの後を付いてきてるのだろう。


「やばいな。このままだと死ぬ」


 この森には凶悪な魔物は滅多に出現しないんじゃなかったのかよ。


 走りながら懐を探り、袋を取りだすと、中にある鉄のトゲトゲを地面にばらまいた。


 撒菱まきびしといって、東の国でよく使われている武器だ。三角錐の形をしているので、どのように地面に撒かれても相手の足裏を傷つけることができる。


「グギャッ」


「ギャア!?」


 少し離れたところからゴブリンたちの悲鳴があがる。ゴブリンを従えてるってことは、謎の魔物もゴブリンの上位種だったりするのか?


 ヒュンッ!


「おわっ」


 そんなことを考えているうちに、後方から槍が飛んでくる。慌てて横にそれたおかげでなんとか事なきを得たが、今のはやばかった。


 再び走ろうとするも――。


「!? しまった! もしかして誘導されてたのか!?」


 目の前にあったのは切り立った崖だ。



 ◆❖◇◇❖◆



「グギャアアアア!!! グギャッ!!!」


 追ってきていた魔物が茂みをかき分けて姿を現す。まるでオーガのように筋肉質だが、見た目はゴブリンだ。


「ゴブリンキングかよ」


「グギャ」


「ギャア」


 ぞろぞろと、後から手下のゴブリンたちもやってくる。多くは足から血を流していているものの、鋭い目つきで僕をにらんでいる。


「グギャッ!」


 ゴブリンキングの怒声を合図にして、彼らはいっせいに襲いかかってきた。


「簡単に死んでたまるかよ!」


 今度は懐から煙玉を取りだし、少し離れた地面に投げつける。もくもくと周囲に広がった煙はゴブリンたちの視界をさえぎった。


 その間に逃げようとするが――。


「ギャア」


 煙の範囲外にいたゴブリンがこん棒で殴りつけてくる。


 ザシュッ。


 僕はその攻撃をかわすと、反撃として喉元にショートソードをお見舞いしてやる。


《レベルアップしました》


《レベルアップにより、【魔眼Lv1】がLv2にレベルアップします》


 こんな時に!?


《【魔眼Lv1】により、魔法【鑑定眼】【映像眼】【束縛眼Lv1】を入手しました》


 よっしゃああああああああ!!!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る