とある博士の告白

「おい、アリリとマズバ。飯だぞ」

 毛布をかけた大きなケージに向かって博士が小声で声をかけるが、物音一つしない。彼女の持つ餌皿で乾燥フードの山がカラリと崩れる。

 少し考えて「247、721。飯だ」と以前の被験体コードで呼びかけてみるがやはり何の反応も見せない。

「出て来ないか」

 仕方なく、ケージの入り口付近に餌皿2つを置いて扉を閉める。餌の時間は変えていないし、以前から気に入っていた種類のフードでもあるので小獣たちも餌がやって来た事は理解できるはずだ。

 ぐったりとソファに沈んだ博士は毛布の塊のように見えるケージを眺めた。ケージに取り付けた吸水器の微かな水音が静かな部屋に響いている。

 現在いる場所は博士の自宅である。例の研究中止に伴い、博士が引き取った2匹だけ残して他は処分された。最初の予定では特殊生物保存会に引き取られるはずだったが、一瞬の隙をついて小獣たちは部屋の外へ飛び出してしまったのだ。慌てて捕まえに行ったが、一部の個体は運搬ロボに認識されず轢死、一部の個体は換気用の小窓から落下し墜死、2匹はパニックになった職員による縊死、1匹は水の溜まった流し台で溺死、1匹は致死性の植物を口にして食中毒死。2日かけて集めた生き残りの個体は社会に対する危険性を問題視され、塩化カリウムによる安楽死となった。

 博士の元に引き取られた2匹は飼育室から飛び出さなかった個体と棚の隙間で縮こまっていた個体だ。今後もこの不思議な生物の研究を続けたいと考えていた博士が、危険性は少ないはずだからと頼み込んでようやく引き取れた2匹だった。

「仲間を殺されたと知っているかどうかはわからんが……嫌われたものだな」

 飼育室にいた頃は近寄る事はなくとも嫌われている訳ではなかった。今は顔すら見せない。乾燥フードが減っているものの、この家に来て1週間排泄の痕跡は無かった。

 研究室にいた頃は傍若無人に振る舞った小獣たちが、今は怯えて身を隠す。博士には彼らの考えている事がわからなかった。

「羽ばたくのに失敗して落ち込んでる……なんて高尚な事は考えて無いだろうがな」

 彼の国から冷凍受精卵と共に渡された飼育のガイドラインを読んでも、引きこもる小獣の対応策は記載されていなかった。

「排泄が少ない時は水分不足の可能性か……此奴らも水はあるのにほとんど減っていないな……」

 ガイドラインの表示されたタブレット画面を数回スワイプすると『トイレと水の距離が近い場合、この場所の水は飲めないと考える事がある』と表示された。

「ケージの中で離す方が無理だろ」

 やりようがない、と頭を振った博士はガイドラインを閉じて伸びをした。

 あの自己中心的な性格の生物と生活空間を共有しようなどと博士には思い浮かばず、小獣たちはカーテン代わりの毛布の隙間から様子をうかがうばかりだった。

「液状餌なら水分補給くらいできるか?」

 ふと閃いたが、視界入った時計を見ると博士の約束の時刻が近づいていた。

「そうだ、そろそろ通信の時間か……宇宙標準時的に向こうは朝だろうなぁ」

 渋い顔だった博士がぱっと表情を緩ませていそいそと端末の準備を始める。乱れたポニーテールを結び直し、マイクと指向性スピーカーを調整し、アプリケーションを開き、待ち合わせのルームまで移動し、しばし相手の到着を待つ。

 人類が惑星系の外に出られるようになったのはクァカ博士の曽祖父の時代だった。ワームホールの完成後、最初に入植したのがクァカのいる星である。星の開拓は困難を極めた為、開拓団のメンバーは大怪我を負うものが後をたたなかった。その影響で医療やサイボーグ技術は母星よりも発達することとなり、事故防止また機械化された仕事への配慮から規律を守る事を重要視する風潮が生まれ現代へと至る。

 12光年先の母星との間に中継基地や通信専用のワームホールが中々完成しなかったのは、合理性に欠ける母星側の意見と緩みに欠ける植民星の意見がまとまらなかった事が主な要因と言われている。

 それで、リアルタイムで惑星間通信ができるようになったのはここ5年くらいのこと。これまで100年と少しの間、地球との通信は議会の管理下にあり、自由な個人通信は存在しなかったのだ。

 [KINAKOが入室しました]と表示が出た瞬間、「クァカ博士、待たせてごめんなさいねー」と地面の温もりを思わせる声が響いた。

「いや、そんなに待ってないぞ、キナコ博士。去年の学会以来か?」

 キナコと呼ばれたふわふわの髪の女性が画面の中でにっこりと笑みを浮かべる。

「3年前よ」

「そんなに前だったか……?」

「そうよー?去年も一昨年も連絡送ってるのに今まで返事一つよこさなかったのはそちらだもの」

 体感時間と実際の時間の隔たりにクァカはめまいのする頭を抱えた。

「……もしかしてクァカ疲れてる?」

「かもな」

 例の小獣の世話と実験でここ数年の記憶が曖昧になっていた事にようやくクァカは気がついた。

「あらぁ、今までの研究はよっぽど大変だったのねぇ」

「生物には詳しいつもりだったが……あれはどうしたらいいかさっぱりわからん」

「地球でも高名なクァカ博士にそう言わせるなんてよっぽどねぇ。興味湧いちゃう」

 クスクスとキナコの立てる声は本気で面白がっている声だった。

「じゃぁあなたの後ろの物も疲労の影響かしら?部屋に大きなシェルフがあるのは」

「え?」

「前は、本棚を使わずに積み上げる主義だったじゃない?」

 慌ててクァカが振り返ると、例の小獣の入ったゲージが堂々と背後に鎮座していた。

 驚きと焦りで口をパクパクさせるクァカ。追い討ちをかけるように、がごっ、と背後のケージから重量のある鈍い音がした。

「あら?何の音かしら?……人の足音じゃないし、本や箱が落ちてもあんな音はしないわね……?」

 全力で言い訳を考えるクァカだったが、適当な事を言ってキナコの記憶力を侮ってはいけないのもよく知っていた。

「わかったわ!ついに癒しを求めてペットを飼い始めたのね?人って変わるわねぇ」

「えっと……その」

「折角なら見せてよ、クァカが自宅に動物入れるなんて珍しいし」

 探られたくない事に関してキナコの勘は鋭い。無理に話をそらしてもまた聞いてくるのはクァカの目に見えていた。

「……キナコの星の言葉でNekoとかCatとか言う生物だ」

 はぐらかすよりも、小獣の故郷の星の人物にアドバイスを仰いだ方が良いだろうと考え観念して答えたクァカだったが。

「Woo-hoo!!!Nekko-chan!!!!!」

「っ痛……!」

 耳をつんざく勢いのキナコの声。あまりの大音量にクァカは危うく鼓膜が破れそうになった。

「なんて事!!宇宙の向こうに猫飼いがいるなんて思ってもみなかったわ!!」

「いきなり叫ぶな、耳が痛い」

 キィンと痛む耳を押さえてボリュームを下げるクァカ。

「あぁ、それはごめん。でも地球の猫ちゃんが宇宙を超えて12光年先のあなたの星でも生きてるのは素晴らしい事ね」

「秘密の研究でな、他言無用で頼む」

「心得たわ」

 神妙に答える割に口元が緩んでいるキナコに一抹の不安を覚えながら、クァカは「で、そんなに叫ぶ事なのか?」と珍妙な物を見る視線を返した。

「うちにもいるもの〜!見せてあげる!」

 丸眼鏡を指で押し上げ、「ワラビ〜出ておいで〜」と言いながらキナコが席を立つ。画面の向こうで「わ゛〜」と鳴く声がしたと思うと、薄茶色の縞柄猫を抱えてキナコは戻って来た。

「うちの子のワラビでーす」

 画面いっぱいに映るワラビの顔。興味津々にカメラの匂いを嗅いでいるのか、アップになったピンクの鼻がひくひく動いている。鼻息でカメラが白く曇ってそれ以上はよく見えない。

「ワラビはBrown tabbyか……随分おとなしいな?」

「ワラビは抱っこ大好きなのよ。ねー?」

 「ぷゅにゃっ」と鳴きながらキナコの顎の下に擦りつくワラビ。

「Nekoが返事を……!?」

「そーよ?機嫌が良い時限定だけど、ちゃんとコミュニケーション取れるわよ」

 目を見開いて固まるクァカ。

「お腹空くと『ごはーん』って声かけてくるし」

「あり得ないと思うんだが……懐かれた事すらないぞ」

 にこにこというよりデレデレしながら語るキナコを前に、クァカは戸惑っていた。

「うーん、猫ちゃん達は人の好き嫌い激しいものだし、クールな子は懐かない時もあるわ。猫とはいえ他者だから、気長にね」

 ワラビの顎の下を指先でかきながら答えるキナコ。

「そうだ、クァカのところの猫ちゃん達の名前まだ聞いてなかったわね?教えてくれる?」

「アリリとマズバ。アリリは銀色の毛並みでな、縞々の濃い模様が入っている。Silver tabby、銀のぶち柄のNekoだよ」

「うんうん」

「で、マズバは顔が半分黒で茶色だから……そちらで言えばTortie、べっ甲柄のNekoだな」

「多頭飼いなのね。銀とべっ甲なんていい組み合わせねぇ」

「そういうものかな」

「とっても高級そうじゃない?」

 うふふ、と笑うキナコ。

「ねぇ、アリリちゃんとマズバちゃんの写真ないの?」

「門外不出の研究用データならあるんだが」

「それじゃ無いも同然じゃない。うちの子の写真くらいちゃんと撮っておいた方が良いわよ?脱走して探す時に役立つわ」

「脱走か……」

 脱走されたせいで生かせるはずの命を消す事になった日を思い出し、クァカはおし黙った。

「まぁ?理屈抜きで可愛すぎてカメラロールはワラビしかいないけど?」

 見て見て、と問答無用でキナコが画面共有をする。映ったワラビの写真には、どれも猫用ベッドでへそ天状態で眠っている様子が収められていた。だが、なぜか全て同じような角度で同じようなポーズをしている。

「……何が違うのかわからないな」

 首をひねるクァカにキナコは心外だと口を尖らせる。

「違うでしょ?1枚目は右頬が上がって笑って見えるし、2枚目は舌しまい忘れてるし、3枚目はほんの少しだけしまい忘れた舌がチラ見えしてるのよ?他の写真も全部それぞれの可愛さがあってうっかり削除できないわ」

 画面共有中の小さなウィンドウの中でキナコが鼻息荒く語る。

「自宅ならシャッターチャンスもたくさんあるわ!アリリちゃんとマズバちゃん、今度撮ってきてよ」

「撮れるかな……」

「クールな子でも遠くからなら撮らせてくれるかも。タンスの上とかお気に入りの場所にいる時も狙い目ね」

 ノリノリで猫写真の撮り方をレクチャーし始めるキナコの言葉の中で、“タンスの上”に引っかかりを覚えたクァカが首を傾げる。

「ん……?ちょっと待て、キナコ。もしかして家の中放し飼いなのか……?」

「そうじゃないの?」

「ケージに入れておかないと危なくて仕方ないじゃないか」

 眉をひそめて答えたクァカに今度はキナコが不思議そうに首を傾げる。

「あ、もしかして引き取って来たばかりなの?」

「自宅に引き取ったのは1週間前。その前から研究室で毎日顔を合わせていた」

「それならそろそろ出てきても良い頃合いじゃないかしらねぇ」

「いや、でも、部屋の中をうろうろされたら……あの爪に牙、危なくないのか?」

「人の為に猫をケージに閉じ込める方がどうかしてるわ」

 言い放つキナコに何を返せばいいのかクァカにはもうわからなかった。

「もしかして猫吸いしたことも無いの?」

 ピンと来ないクァカの表情にキナコが頭を抱える。

「じゃぁ、もふもふは!?猫じゃらしで遊んだ事は無いの!?」

「自動Nekoじゃらしがケージの中に下がってるが……」

 困惑しつつ答えたクァカの耳に返ってきたのは沈黙だった。食い気味だったキナコの表情は覆われた手の中でよく見えない。

 しばらくして、キナコの嗚咽を漏らしてすすり泣く声がクァカの耳に聞こえてきた。

「え……な、泣いてるのか?」

「そりゃ泣くわよ!猫ちゃんが狭いケージに閉じ込められてるなんてね!!」

 勢いよくあげた顔は涙で光っていた。

「出て来ないのは向こうの勝手で」

「問答無用!猫飼いたるもの常に猫様優先でなければならないの!猫様が外に出たいと思えるようになるまで全てに最新の注意を払うべし。それが1ヶ月でも半年でも何年でもね!」

 涙ながらに訴えられても、クァカには猫をそこまで優先させる意味がわからなかった。人も機械も動物も規律を守る事こそ美徳と教えられてきたクァカには、日常の規律を守れなくする存在は雑事だった。

「信じられないわ……」

 消えそうな声のキナコがぐい、とパンダになった目元をこする。ワラビが「ふるる?」と鳴いて頬をなめるのを止める事もできない。

 「怒るかもしれないけど」と前置きをしたクァカは息を吸った。本音を言ってこれ以上キナコを泣かせたくはなかったが、クァカには他の手が思い浮かばなかった。

「私にはNekoの良さがイマイチ理解できないんだ。可愛がろうにも困る……」

 絶句するキナコに、クァカは申し訳なさでいっぱいになった。

「もちろん、嫌いなわけじゃない。Nekoは興味深い生き物だとも思う。でもこの3年研究対象としてきたはずなのに、未だに可愛さをどこに見れば良いのかわからないんだ」

 唇を噛むクァカにしばらくキナコは茫洋とした眼差しを向けていた。それから、ポツリと囁くような歌うような口調で「大きな三角耳はリボンのよう……」と呟いた。

「ぱっちりクリクリの瞳はガラス玉のよう。幼子のごときアンバランスなフォルムは最高。とうもろこしのように並ぶ牙だって可愛いし、キュートな見た目に対して出し入れ自在な爪はハイスペック。もし引っ掻かれたとしても、それは私たちが猫ちゃんの気持ちを汲めなかった方が悪いんだもの。何者にも縛られない自由気ままなスタイル。周囲の環境を敏感に感じ取る繊細さ。両方を併せ持つ稀有な存在たる猫。彼らが生きてる事自体が最早神の奇跡。史上最高の奇跡」

 画面の向こうにいるキナコは怒涛の勢いで語る。古典を空で言うような流暢さで。

「……そこが問題点なんだが」

 クァカはきゅ、と胸元のシャツを握りしめた。

「自由も過ぎれば資源の無駄遣いになるだろう?全ての物資は有限なんだ」

「じゃぁ、あなたの星ではペットに何を求めているの?」

「癒しなのはそちらと変わらない。アニマルセラピーも動物の健気さに力をもらえるから、よくある」

 「ただし」と言ってクァカは一呼吸置いた。

「人も動物も規律の前に等しくある。規律を守れる者は自由を得るが、守れない者はお互いの安全の為に隔離し矯正する。それが社会の常識なんだ」

 “隔離” “矯正”と聞いてキナコの顔が曇る。

「同種族じゃ無くても、動物は他者なのよ?」

「それはわかっている。だからこそ両者が規律を守る事が大事なんだ」

 クァカに規律の重要性を説かれてもまだキナコの表情は変わらなかった。

「さっきから規律って言ってるけど具体的にどんな事なの?」

「簡単な事だよ。禁止エリアに立ち入らない事、機械の動線上に立たない事、建物に入る時は手足を消毒する事。他人のライフサイクルを可能な限り乱さない事も日常の規律に含むんだ」

「……それだけ聞くと当たり前の事に感じるわねぇ」

 キナコの深いため息が広がった。

「でも猫ちゃんはその規律を守れないから、クァカには可愛さがわからない、って事?」

「雑に言えばそうなる」

「猫ちゃんだって言えば覚えるわよ。トイレの場所も入っていけない場所もしつける事はできるのよ?」

「個体差が大きいし、必ずではないだろう?」

「それは……どうしたって人と動物だと生きる理が違うもの。クァカの今まで観察してきた様々な生物たちだってそうでしょ?思考の違いは人の柔軟性で対処する範囲じゃないかと思うのだけれど」

 そこまで言われたクァカの脳裏に浮かんだのは、飼育下でしか見た事のない生物たちだった。入植した星に野生の生物はおらず、人の持ち込んだ生物は直接役に立つものしかおらず、野良になった生物もいなかったからだ。それゆえに猫の思考がよくわからないと思った事も。

「柔軟性か……」

「どれだけデジタル化・機械化が進んでも、生物は生身でアナログな存在だと思うのよ。人も猫も。だから、根気強く直に接して猫ちゃんと暮らす方法を模索してほしいなって思う」

 「一介の地球の猫飼いとしてね」と付け足すキナコ。

「規律を守れない相手と生活空間を共有するなんてできるのか?」

 眉を寄せて戸惑うクァカにキナコは少し視線を逸らして考えた。規律と自由さの両立とは何だろうかと。

「うーん……猫ちゃんは予測不可能であると予測すれば良いんじゃない?少なくとも自宅から出さなければ周囲の規律には抵触しないでしょう?」

 これでクァカに理解して貰えたら良い、と願いながらキナコは疑問に答えた。

「あぁそうか……まぁ規律の一番の目的は住民同士の安全確保の為だし……いやでも私はどうすれば良いんだ」

 口元を手で覆って考え始めるクァカに、キナコは務めて明るく笑って見せた。

「そうだわ、暮らし方がわかるまでの期間限定で猫ちゃんに譲るのはどうかしら?人間の寿命の方が猫ちゃんの寿命より断然長いんだから」

「それもそうか……」

 眉間をつまんでしばしクァカは思考を巡らせた。画面の中でワラビが1回伸びとあくびをして、カメラ横のライトを前足で叩き始めたせいで机から退去させられた後、ようやく細く長くため息を吐き出した。

「とりあえず……キナコの言うアナログ重視で予定を立てようかと思う。ただ、一般に受け入れられるようになる土壌はずっと先になるだろうがな」

 どこか吹っ切れたようにまなじりを下げるクァカ。キナコもゆっくり頷いた。

「でしょうねぇ。年月が絡み合って作った価値観だもの、簡単にはほどけないわ」

「元々同じ星の住民なのに、環境次第でこうも変わるものなんだな。実に興味深いよ」

 「そうね」とキナコとクァカは同じ困った顔で笑い合った。

 たかが猫、されど猫。その可愛さが宇宙共通ではないとしても、相互理解の一助になるならずいぶん大きな功績ではないだろうか。

「そうそう、そっちの星出身のペットを最近ネットで見かけるようになったんだけどね」

「そうなのか!?」

 食い気味に乗り出すクァカ。

「なーんか生物って言うよりロボットにプログラミングしてるみたいだって評価よ」

 頬杖をついてキナコはふふ、と笑みをこぼす。

「ニュースでも取り上げられてね、じわじわ人気が出てきているところよ。この間4コマ漫画の投稿をしてる人がいたから、大人気になるまであと少しってところだと思うわ──あら、クァカってば口元が緩んでるじゃない」

 咄嗟に口元を手で隠すクァカ。顔色は変わっていないが、耳先がほんのり赤らんでいる。

「人がいれば、どこでも需要があるんだな……」

 クァカは後ろのケージをチラリと見た。

 猫が困った存在である事は変わらなかったが、毛布のかかったケージを見るクァカの目に浮かぶ光はただの好奇心から少し優しくなっていた。


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