(ボツ)キャラクターの動きに「メリハリ」はあるか?

※キャラクターの動きと言っているのに、その範囲を超えたので、ボツにしたネタです。とはいえ、映像業界の知識は、小説家にとって興味深い内容だと思うので、公開します。


 今回はアニメーションで最も難しい部分を語ろうと思う。

 「メリハリ」だ。


 これはアニメーションでは非常に大事な概念だが、映像でも絵でもない、文章の連なりでしかない小説に、この概念を持ち込めるのか?


 正直言って、実験の範疇を出ない。

 しかしこれが出来たらとても素晴らしいことだと思う。


 なぜか?

 アニメーションで命を吹き込むこと、その核がこのメリハリだからだ。

 動作でもっとも重要なのがタイミングとスペーシング、時間のコントラストであり、メリハリなのだ。


 とはいえ、アニメーションを全く触ったことがない人に、スペーシングやメリハリと言っても、何のことかさっぱりわからないだろう。


 3Dアニメーターも、このメリハリについては、3年ほどかけて「腑に落とす」。

 とても2000文字程度で収まる内容ではない。

 だが挑戦し甲斐があるのも確かなので、とりあえず伝えられるかやってみよう。


 基本的に動きというのは以下の種類にまとめられる。


(AfterEffectの用語が使いやすいので使用する。本来はもっと色々な種類がある。指数関数グラフ上のタンジェントスペースを操作するので、とても4種類程度には収まらないのだ。省略を許して欲しい)


 等速/リニア

 イージーイーズ

 イージーイーズ・アウト

 イージーイーズ・イン


 このインとアウトは、スロウ~の略だ。

 スロウ・アウトが加速で、スロウ・インが減速だ。


 ●等速/リニア

 これは一定の速度で動き続けるものを指す。非常に機械的な動きだ。

 量子的なものを除いて、基本的に自然界にこの動きは存在しないはずだ。物体に与えられた「仕事」と言うのは、外から補充されない限り、次第に失われるからだ。


 だが動きなのに変化しないと言うのはイメージしづらいかもしれない。

 強いて例えるなら、エスカレーターのベルトの動きを想像してほしい。

 誰も乗っていなければ、その速度は一定なはずだ。

 これが等速な動きだ。


 ●イージーイーズ

 始まりはゆっくり、加速、そして終わりにかけてゆっくりうごく。

 これがイージーイーズだ。

 全体の尺で見れば、中間が一番早い。首を左右に振る動き、歩き出しから静止。

 生物のゆったりとした動きは、基本これだ。

 なので、これが人間の動きを扱う時の基本になる。


 ●イージーイーズ・アウト

 段々と速度が早くなる動きだ。

 ロケットの加速、アクセルを吹かす車をイメージして欲しい。


 ●イージーイーズ・イン

 段々と速度が遅くなる動きだ。

 放たれた弓、銃弾。投げられ、放物線を描いて力なく落ちていくもの。

 それがこの動きだ。


 物理の数式を知らなくても、物体の動きや跳ね方に「変化」があるというのは、人間であれば、なんとなく理解しているものだ。

 そのため速度が変化しない、一定の速度で動き続けるものを見ると、どこか違和感を覚えるものだ。


 しかしこのメリハリの重要な点は、物理法則を理解しているかどうかではない。

 スピードが変化しているということ、そしてそれに、どういう「意味」をもたせるかということだ。


 さて、どういうことだろう?


 いくつか例文を考えてみたが、まだまだ描写力の不足を感じた。

 メリハリのある動きを思いついた方は、ぜひコメントに残して欲しい。



★説明的な行動

 男は手紙を書いていたが、ふと思い直して、書いていた途中の手紙を捨てる。

 そして紙を取り替えると、内容を変えて新しく手紙を書き直した。


☆それにメリハリを加える

 男は紙の上でペンの先を滑らかに動かしていたが、ふとその動きを止めた。

 悩まし気な顔つきで、数拍を置き、男はさっと紙を取り替えると、再びペンを紙の上に走らせた。


★説明的な行動

 投げたボールは地面の上を何度も跳ねて転がっていって、止まった。


☆それにメリハリを加える

 投げたボールは地面に当たると、ぽん、ぽん、と山なりの孤を描いて跳ねる。ボールは次第にその跳ねる高さを小さくして転がっていき、そして静かに止まった。


★説明的な行動

 アクセルを強く踏み込むと、車は急加速して道路を猛進した。


☆それにメリハリを加える

 アクセルを強く踏み込むと、車はタイヤを空転させ白煙を立てる、刹那、タイヤは地面の存在を思い出したかのように大地をつかみ、急加速して道路を猛進した。



 目的は読み手が想像するキャラクターの動作に「緩急」を着けることだ。

 このメリハリがあることで、よりキャラクターは活き活きと動いているように感じられるはずだ。


 さて、君の描いているキャラクターの動作に「メリハリ」はあるか?

 いつも同じようなペースで体を動かしていないか?


 文章をブラッシュアップする時、この事も頭の片隅においてみてほしい。

 退屈で、単純な動作でも、面白くすることは可能なのだ。

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